“制裁”か、それとも“サービス”か?

4月から国民生活センターが行っているADRの実施状況が、このたび初めて公表された。


内容については同センターのHP上で公開されているのだが*1、4月以降の約5か月の間のの申請件数は30件、手続終了5件(和解2件、不成立2件、却下1件)ということで、ADR自体がそんなに普及しているとはいえない我が国のこれまでの状況を鑑みれば、まずまず成果を上げているということになるのではないかと思う。


もっとも、個人的に引っ掛かったのは、新聞に掲載された以下のくだり。

「和解不成立のうち1件はヤフーが発行する自動車料金収受システム(ETC)カードの年会費をめぐる申請。同センター紛争解決委員会にヤフーは書面で回答したものの出席要請に応じず、同委が「合理的な理由無く協力しなかった」として社名を公表した。」(日本経済新聞2009年8月21日付朝刊・第34面)


和解仲介手続自体は元々「非公開」というのが原則となっているから(独立行政法人国民生活センター法23条)、事業者名をわざわざ公開するのは例外的な扱いのはずで、しかもその公表理由が「合理的な理由無く協力しなかった」ということになると、あまり穏やかではない。


そこで、もう少し突っ込んで見てみることにすると・・・



国民生活センターのプレスリリースの方には事案の概要等がもう少し詳しく書かれていて、

<申請人の主張>
入会時は無料だったYahoo! JAPAN ETCカードの年会費が一定条件を満たさなければ有料化されることとなった。規約には「当社が特に必要と認め、事前に会員に通知のうえ、年会費を徴収する場合がある」と定められているので、ヤフー株式会社(注)に対して特に必要と認めた根拠を問い合わせたが、具体的な理由を示す回答が得られない。一方的な契約内容の変更であり納得できない。有効期限内の年会費について支払い義務がないことの確認と、有料化を「特に必要」と認めた事由を説明してほしい。
(注)本社所在地:東京都港区赤坂9-7-1ミッドタウン・タワー代表取締役:井上雅博
<相手方の主張>
本件は年会費というカード会員全員に影響の及ぶ事柄であり、約款の解釈とも関連する可能性があるため、裁判手続による解決が相応しいと考える。なお、申請人へは十分な説明ができなかったことをお詫びし、今後も、年会費制度導入の理由を十分に説明することで申請人の理解を得る努力を引き続き行っていきたい。
2.手続の経過と結果
申請の内容およびヤフー株式会社の回答の内容を踏まえ、当該カードの仕組、会員募集時の勧誘方法、年会費徴収の約款上の根拠および有料化の事情等を、ヤフー株式会社に対して照会したところ、出席しての回答はなされず、文書で回答がなされた。しかし、同文書は、
・年会費を徴収することとなった約款上の根拠および契約内容を変更する必要性についての合理的な説明がなされていないこと
・勧誘時において、将来、年会費を徴収する可能性があることの表示についての説明がなされていないこと
等の点で十分とはいえないものであった。
そこで、仲介委員は、独立行政法人国民生活センター法第22条に基づき、ヤフー株式会社に対して出席を要請したものの翻意がなされず、和解の見込みはないと判断し、手続を終了した。

という事案の概要及び経過の説明に加え、

独立行政法人国民生活センター紛争解決委員会業務規程(平成21年4月1日決定)
(公表)
第52条 仲介委員又は仲裁委員は、和解仲介手続又は仲裁の手続が終了した場合は、その結果の概要の公表の要否に関する意見を付して、手続の終了を委員長に報告しなければならない。
2 委員会は、国民の生命、身体又は財産に対する危害の発生又は拡大を防止するために、必要があると認めるときは、終了した和解仲介手続又は仲裁の手続に係る重要消費者紛争の手続の結果の概要を公表することができる。
3 前項に基づく公表において、委員会は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該事業者の名称、所在地その他当該事業者を特定する情報を公表することができる。一 当該事業者が当該情報の公表に同意している場合
二 事業者が和解仲介手続又は仲裁の手続の実施に合理的な理由なく協力せず、将来における当該事業者との同種の紛争について委員会の実施する手続によっては解決が困難であると認められる場合
三 前二号に掲げる場合のほか、当該事業者との間で同種の紛争が多数発生していること、重大な危害が発生していることその他の事情を総合的に勘案し、当該情報を公表する必要が特に高いと認められる場合
4 委員会は、前二項の規定による公表を行う場合は、あらかじめ当事者の意見を聴かなければならない。ただし、緊急を要する等やむを得ない事情がある場合はこの限りでない。

と、事業者名を公表した根拠規定を示している。


そして、上記概要の書きぶり等からすれば、国民生活センターはヤフーに対して、「厳しい姿勢で臨んだ」という姿勢を明らかにしているようにも読める*2



だが、本当にそうなのだろうか?


上記業務規程52条3項2号を見る限り、

「事業者が和解仲介手続又は仲裁の手続の実施に合理的な理由なく協力せず、将来における当該事業者との同種の紛争について委員会の実施する手続によっては解決が困難であると認められる場合

に「公表する」としているのは、事業者に対して“制裁”を加えるためではなく、むしろ、後段の「将来における当該事業者との同種の紛争について委員会の実施する手続によっては解決が困難である」ということを知らしめるためであるように思えてならない*3


そして、ヤフーがあえて手続きに出席しなかったのも、「紛争解決委員会」に手続きを委ねるよりも裁判所の判断を仰いだ方が良い、という判断に基づくものだろうから*4、今後、同種の仲介申請が乱発されて、当事者欠席→和解不成立という不毛な手続きを繰り返す手間が省ける分、今回の公表はむしろ好都合だったのではないか、と見ることもできよう。


だとすれば、今回の措置は“制裁”というよりむしろ、“潜在的ユーザーに対するサービス”と見るべきで、それをあたかもヤフーが“制裁”を受けたかのような表現で語るのは、ミスリードであるように思えてならないのである*5


記事中では、ヤフー広報室の話として、

ETCカードの発行数は約12万枚と多く、ADRで解決する事案ではないと考えた。文書で十分に説明したと思っており、「協力しなかった」との判断は残念だ。」

という談話も取り上げられているのだが、これなんかは、プレスリリースに対するコメントというよりは、「誤解に基づく記事」へのコメント、と言った方が正確なのではなかろうか*6


今回の報道の背景に、業務規程の文言の意図の分かりにくさや、プレス資料の曖昧さがあることは否めないにしても*7、「ADRは決して強制されるべきものではない」(どんな事業者にも、任意の和解手続きを拒んで、正当な司法判断を仰ぐ権利はある。)という前提を重視するならば、ADRの手続きに応じなかったことを取り立てて非難するのもおかしな話なわけで、今後同じような話が出てきたときは、十分に気を付けてプレスリリースを読んだ方が良いのではないかな?と、個人的には思うところである。

*1:http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20090820_1.pdf

*2:もっとも、プレスリリース資料の中では、根拠規定に関する12頁と事案の概要に係る14頁との間が何らリンクされていないことにも注意すべきだろう。

*3:この条項の実質的な機能を考えるなら、前段の「合理的な理由なく」云々はそもそも不要であるように思う。手続の実施には協力するが会社の立場上この手続上の和解は絶対に無理、というケースは十分に考えられるし、そのような場合は事業者側もむしろ社名の公表を望むだろうから。

*4:本件のETCカードに関する問題について、当事者の主張のいずれに理があるかは上記資料だけでは判断しようがないから、この点については立ち入らないが、状況から察する限り、ADRで個別に和解を検討するよりも、裁判手続きに載せて(一審だけでも)慎重な判断を仰いだ方が良い事案であるのは間違いないように思う。勝つにしても負けるにしても。

*5:記事にするのであれば、「合理的な理由無く協力しなかった」という前段部分だけでなく、後段も合わせて取り上げるか、淡々と事業者名だけが公表された事実を伝えるのでなければ、フェアとはいえない。

*6:一応日経紙の名誉のために言うと、この話題に関する他のメディアの記事も概ね似たようなものだ。

*7:そもそも、紛争解決委員会のメンバーにはいろんな立場の方々が混ざっているようだから、業務規程上の規定も、概要の公表の仕方も、様々な立場からの考え方が入り混じった妥協の産物(社名の公表を「制裁」と理解する人も、それ以外の目的で正当化する人も一応納得できるような・・・)だったのかもしれない。

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