カルテルとリーニエンシー。

カルテル事件としては久々の刑事告発事件」として注目された「建材用亜鉛めっき鋼板」事件に関し、東京地裁の判決が出された。

「建材用亜鉛めっき鋼板を巡るカルテル事件で、独占禁止法違反(不当な取引制限)罪に問われた3社と、当時の営業担当幹部6被告の判決公判が15日、東京地裁で開かれた。半田靖史裁判長は日新製鋼(東京)、淀川製鋼所大阪市)にそれぞれ罰金1億8000万円、日鉄住金鋼板(東京)に1億6000万円(求刑はいずれも罰金2億円)の有罪判決を言い渡した。」(日本経済新聞2009年9月15日付夕刊・第19面)

有罪という結論は妥当だとしても、日新製鋼淀川製鋼所の罰金と日鉄住金鋼板の罰金額の差が何に起因しているのか、等、いろいろ気になるところはあったので、つい先日(平成21年8月27日)、上記被告3社に対して公取委が出していた排除措置命令を眺めてみた*1


公取委の命令書においては、排除措置命令の適用の基礎事実として、以下のような事実が認定されている。

2(1)「7社(注:上記被告会社3社とJFE鋼板、大洋製鋼(日鉄住金鋼板と合併)、住友金属建材(日鉄住金鋼板に吸収分割)、エヌケーケー鋼板(川鉄鋼板と合併してJFE鋼板に)の7社)は,平成12年ころ以降GL鋼板の店売り取引での販売価格が下落傾向にあり各社の収支が悪化してきたため,平成13年後半ころ以降,各社の営業担当役員又は営業部長級の者による会合(以下「部長会」という。)及び各社の営業課長級の者による会合(以下「課長会」という。)を開催するとともに,平成14年8月8日ころには各社の代表取締役社長らによる会合も開催するなどして,GL鋼板の店売り取引での販売価格等について情報交換を行ってきたところ,同月下旬ころ,東京都中央区所在の鉄鋼会館の会議室において部長会を開催して協議を重ね,GL鋼板の店売り取引での販売価格について,同年10月出荷分から,現行価格より1キログラム当たり105円引き上げることを合意した。」
(2)「7社のうち前記1(1)ウにより日鉄住金鋼板の製造子会社となった大洋製鋼を除く6社(以下「6社」という。)は,GL鋼板の原材料である鋼板(以下「原板」という。)の価格の上昇が見込まれたことなどから,平成16年1月下旬ころから同年2月中旬ころまでの間,東京都中央区日本橋茅場町一丁目9番4号所在の飲食店「長寿庵」等において部長会及び課長会を開催するなどして協議を重ね,GL鋼板の店売り取引での販売価格について,同年4月出荷分から,現行価格より1キログラム当たり10円引き上げることを合意した。」
(3)「6社のうち前記1(1)オにより消滅したエヌケーケー鋼板を除く5社(以下「5社」という。)は,引き続き原板の価格の上昇が見込まれたことなどから,平成16年6月下旬ころから同年8月下旬ころまでの間,東京都千代田区所在の飲食店「生駒菜館」等において部長会及び課長会を開催するなどして協議を重ね,GL鋼板の店売り取引での販売価格について,同年10月出荷分から,現行価格より1キログラム当たり10円引き上げることを合意した。」
(4)「5社は,引き続き原板の価格の上昇が見込まれたことなどから,平成17年1月中旬ころから同年2月下旬ころまでの間,東京都中央区所在の淀川製鋼所東京支社の会議室等において部長会及び課長会を開催するなどして協議を重ね,GL鋼板の店売り取引での販売価格について,同年4月出荷分から,厚さ0.5ミリメートル未満のものにあっては現行価格より1キログラム当たり10円引き上げること及び厚さ0.5ミリメートル以上のものにあっては現行価格より1キログラム当たり15円引き上げることを合意した。」
(5)「5社は,亜鉛の価格が上昇したことなどから,平成18年4月下旬ころから同年6月中旬ころまでの間,東京都中央区日本橋茅場町三丁目1番4号所在の飲食店「季節料理つくし」等において部長会及び課長会を開催するなどして協議を重ね,GL鋼板の店売り取引での販売価格について,同年7月出荷分から,現行価格より1キログラム当たり10円引き上げることを合意した。」
3(1)「7社は,前記2の合意の実効を確保するため,部長会及び課長会を開催するなどして,GL鋼板の店売り取引での販売価格の引上げ状況について継続的に情報交換を行っていた。」
(2)「7社は,前記2の合意に基づき,それぞれ特約店等に対して,直接又は窓口商社を通じてGL鋼板の店売り取引での販売価格を引き上げる旨の申入れを行うなどして,GL鋼板の店売り取引での販売価格を引き上げていた。」
日鉄住金鋼板は,住友金属建材との事業統合に当たって独占禁止法遵守体制に係る社内調査を行ったことを契機として,平成18年9月7日,日新製鋼淀川製鋼所及びJFE鋼板に対して,前記2の合意から離脱する旨を通告しており,同日以降,前記3(1)の情報交換は行われていない。このため,同日以降,同合意は事実上消滅しているものと認められる。」

最後まで読むと、「日鉄住金鋼板」が離脱通告をして本カルテル合意が解消されたことが分かり、上記刑事訴訟における罰金額の差も、概ねこのあたりに由来するのだろう、ということが分かるのであるが・・・。




上記命令書に挙げられている7社のうち、今回の刑事訴訟の被告にならなかった会社が4社ある。


そのうちの3社(大洋製鋼、エヌケーケー、住友金属建材)は、何らかの形で他の会社に統合されて法人格が消滅してしまっているから被告にならないのも当然なのだが、残りの1社(JFE鋼板)に関してはどうか。


報道等によると、同社は課徴金減免申請(リーニエンシー)で一抜けしたがゆえに、公取委の課徴金納付命令の名宛人になることも、刑事訴訟の被告人になることも免れた、とされている。


そして、そういう制度が法で認められている以上、このような取扱いになることは、決して法に反するものではない。


だが、全ての参加者の合意と協力なしには成立しえない「カルテル」という共同行為について、リーニエンシーによって一部の参加者だけが免責される*2ことに、引っかかる思いを抱く人はいまだ少なからずいるのではないかと思う。


そして、何より、本件では「日鉄住金鋼板」という会社が、「日新製鋼淀川製鋼所及びJFE鋼板に対して,前記2の合意から離脱する旨を通告」した、という事実が存在する。


自ら違法状態の解消に踏み切った当事者が、他の参加者に比して2000万円、求刑と比べて4000万円の罰金減免“恩恵”しか受けていないのに比べ、違法状態解消という局面では受け身的立場でしかなかった自己申告者が全面的に刑事責任を免れている、という現実をどう評価するかは、なかなか難しいところなのではないだろうか。


「自主申告者を減免する」制度が悪いのか、それとも「自主申告者にしか大胆な減免を行わない」制度が悪いのか、ということはよくよく考えてみる必要があるが、外国から直輸入した制度を運用していく上で、もう少し配慮すべきことはないかどうか、今一度検討してみる余地はあるように思う。


競争社会にモラルハザードをもたらさないためにも・・・*3

*1:http://www.jftc.go.jp/pressrelease/09.august/090827betten2.pdf。ちなみに、こちらの方は対象製品が「溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯」とされており、上記刑事事件の対象製品(建材用鋼板)よりもより広い範囲で違反事実を認定しているようである。

*2:しかも課徴金納付という行政上の制裁のみならず、刑事責任まで免れることができる。

*3:上記事件からもたらされる教訓が「刺す前に抜けるな。抜けるなら同時にライバルを刺せ」というものだけだとすると、ちょっと寂しいことになってしまう。