2007年7月の参議院選挙区の定数配分をめぐる訴訟の上告審判決が、9月30日に出された。
「1票の格差」は依然として存在するものの、以前2004年の選挙に比べれば縮小しており(5.13倍→4.86倍)、しかも「4増4減」の改正を経た直後に行われた選挙、ということもあって、(これまでの最高裁の傾向に照らせば)違憲無効が多数意見となることは考え難い状況。
そして、大法廷(裁判長・竹崎博允長官)は、予想どおり「公職選挙法の規定は合憲、選挙無効を求めた原告の上告を棄却」という“お約束”的判断を下したのであるが・・・*1。
多数意見が、
「(4.86倍の格差は)投票価値の大きな不平等が存在する状態」
と指摘し、
「選挙制度の仕組み自体の見直しが必要」と国会で速やかな是正を求めた
というあたりが、新聞では画期的な出来事として報じられているが*2、最近の傾向からすれば、この程度のリップサービスはあっても不思議ではないし、従前の最高裁判決の中では、上記のような“緩やかな諫言”を超えて、裁判所が実際に違法宣言したこともあったことを考えれば*3、このような指摘がなされたこと自体を過重に評価すべきではないだろうと思う。
だが、以下のくだりについては、個人的に衝撃が走った。
「前回は合憲で、今回違憲に転じた那須弘平裁判官は「前回は『4増4減』などを重視したが、その後、国会の審議に見るべき進展があったとか、真摯(しんし)な努力が重ねられたという形跡も見受けられない」と“転向”の理由を説明した。」(日本経済新聞2009年10月1日付・第3面)
確かに、参院選の場合、那須裁判官が自説の基礎に置いている「比例代表の部分をも取り込んで一体として検討する」発想によっても、2倍を大きく超える格差が残ることになるし、同裁判官は、前回の判決においても、
「本件選挙については,これを憲法の許容する立法の裁量権の範囲内に辛うじて踏みとどまったものと評価することができる。」(最大判平成18年10月4日)*4
と、ギリギリのところで多数意見の支持に回った旨の意見表明をしているところだから、その後の“国会の努力の欠如”をもって反対意見に転向したとしても決して不思議ではない。
しかし、本ブログの読者の方ならとっくにお気づきのとおり、この那須弘平裁判官は、まさに先日の「1人1票運動」の“標的”とされていた裁判官である。
あのような糾弾の嵐を裁判官ご自身がどのように受け止められたのか、筆者が知るよしはないのだが、糾弾の嵐が吹き荒れて間もない時期に出された判決の中で、結果的に那須裁判官が“転向”した、という事実は、今後、同種の運動を進めていこうと考えている勢力にとっては、極めて大きな意味をもって受け止められることだろう。
実際には、国民審査の機会がしばらく回ってきそうにない、というのがいささか残念なところではあるのだが、今後、この種の運動にますます勢いが付くのかどうか、ますます目が離せなくなってきた。
なお、今回の参院選ですら、ここまで厳しい表現の多数意見が書かれる、ということになると、先日行われた衆院選や、来年行われる予定の参院選(今のところ大きな定数配分規定変更の動きはない)に関する訴訟ではより厳しい結果が予想される。
そうなると、仮に来夏の参院選で民主党が再び圧勝して、衆参ともに国政の実権を握ることになったとしても、最高裁判決によって、「選挙結果」という自らの拠って立つ基盤が、根底から揺るがされる事態に直面することになってしまうことも十分に考えられるわけで・・・。
こういった局面で、どういう戦略を採るのか、今の与党側の対応にも十分注目しなければならないだろう・・・。