別に筆者はこの会社の回し者ではないのだが、戦う姿勢に敬意を表して2日連続のエントリー。
「俳優ら著作権者が録画機器の売上高の一部を補償金として支払うよう求めている問題で、東芝がデジタル放送専用録画機の補償金を期限内に納めなかったことが明らかになった。権利者側は東芝などに支払いを求めた訴訟を起こすことも検討している。著作権法を所管し、補償金の支払い対象を決める立場にある文化庁は調整を迫られそうだ。」
(日本経済新聞2009年10月9日付朝刊・第13面)
地デジ専用録画機に関して、悪評高い「録・録補償金」を支払うかどうかで、メーカー側と権利者側の交渉が紛糾している、というのは既に数カ月前にお知らせしたとおりなのだが*1、9月末に最初の納付期限を迎えた東芝は、支払いを行わないという姿勢を身をもって示した。
記事によれば、“行司役”を務めるはずの文化庁も、
「文化庁は9月上旬、補償金徴収の窓口となる団体からの照会を受け、「デジタル放送専用録画機も補償金制度の対象に含まれる」との見解を示す文書を送付」
したそうで、早々に権利者側に肩入れしてしまったようだから*2、この紛争は次のステージへと移行しそうな気配である。
もっとも、以前のエントリー(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090511/1242057836)で指摘した、「権利者側の支払い請求の法的根拠如何?」という根本的な問題に対して、権利者側で何らかの回答が用意されたのかどうか、上記記事からうかがい知ることはできない。
録画補償金の支払義務を負っているのはあくまで「録音又は録画を行う者」(30条2項)であり、「特定機器等を購入するもの」(104条の4)である、ということ。そして、
「法104条の5は、あくまでの「指定管理団体が私的録音録画補償金の支払を請求する場合」の「協力義務」について定めた条項にすぎないから、仮に、製造業者がこの義務に違反したことをもって訴えを提起するにしても(不法行為に基づく損害賠償請求?)、著作権者・著作隣接権者が直接の請求主体になりうるのか、あるいは、メーカーが協力しないことによって生じる権利者側の「損害」なるものを観念しうるのか、といった問題が出てくる」(上記2009年5月11日付エントリーより)
ことは否定しがたい事実なのであって、これを乗り越えないことには、訴訟での支払い請求などとてもおぼつかないように思えるのだが・・・*3。
中山信弘教授が述べられているように、録音録画補償金制度というものは、
「製造業者等には協力義務があるだけであり、違反に対するサンクションはないため(間接侵害については別論である)、事実上全業者が拒否をしないという前提あるいは合意の上に成立しており、極めてもろいガラス細工のような制度」(中山信弘『著作権法』(有斐閣,2007年)249頁、強調筆者)
なのであり、いくら強硬にこぶしを振りかざしたところで、得られる成果には限界がある。
そのことを考えるなら、ここは訴訟をちらつかせるよりも先に、引き続き交渉のテーブルについて打開策を練ることこそが、今、権利者側に求められることなのではないだろうか。
行司役が不在の中、どこまでこの問題が長引くのか分からないが、メーカーにとってだけでなく、権利者側にとっても一般消費者は大事な“お客さま”なのだから、消費者が安心して地デジ専用録画機を買えるような環境を、歩み寄って整えていく義務は、権利者側にも(メーカーと)変わりなく存在しているはずなのである。
可及的速やかな解決を、望みたい。
*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090511/1242057836
*2:まさか共産党議員の質問攻勢にビビったわけではないと思うのだが・・・残念である。http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090522/1243182859参照。
*3:平成19年の「私的録音録画小委員会中間整理」(http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1030&btnDownload=yes&hdnSeqno=0000030142)で示されたような、「製造業者等は補償金管理協会に補償金の事実上の支払義務を負っているのと同じである。」「協力義務と支払義務の内容が、アの補償金の流れを法的に見れば補償金管理協会に補償金を支払う点で同じ(どちらの場合でも製造業者等は補償金管理協会に対し金銭債務を負っている)」(136-137頁)という考え方をとるならば、製造業者に対する直接請求を行うことも可能なのかもしれないが、このような考え方に対しては、電機業界から強い反発が上がっているところであるし(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/020/07112907/003/015.htm)、預かった補償金を支払っていない、という場合ならともかく、そもそも機器購入者から補償金を受け取っていないという状況で、製造業者に法的な「支払義務」なるものの存在を観念するのは、現行法の条文解釈上は不可能だといえる。