本当にやるらしい。

以前から取り上げているデジタル専用録画機の録画補償金問題だが、今日の日経紙によると、SARVH(サーブ)が遂に東芝に対する訴訟を提起する方針を固めたようだ。

「俳優やレコード会社など著作権者の社団法人,私的録画補償金管理協会(サーブ)は2日、デジタル放送専用録画機の売り上げに応じた著作権料(補償金)を求め,メーカーの東芝を提訴する方針を固めた。今月中にも東京地裁に提訴する。」(日本経済新聞2009年11月3日付朝刊・第10面)

相変わらず「録画補償金」と「著作権料」をごっちゃにしている日経紙の記者もどうかと思うが*1、それ以上に振り上げた拳を下ろすタイミングを見いだせないまま、泥沼訴訟に突入しようとしているSARVH側の姿勢には、大いに疑問を抱かざるを得ない。


記事の中では、「デジタル放送専用録画機」が補償金の対象機器かどうか、という政令の解釈の問題に焦点が当てられており、メーカーが被告となる訴えが提起されようとしている点については、

「録画機メーカーは販売価格に補償金を上乗せして消費者から徴収し、サーブに納める法的義務がある」

とさも当然のことのように解説されている。


だが、このブログの過去のエントリーでも説明したように(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090511/1242057836http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20091009/1255268806)、著作権法104条の5の文言解釈上、メーカーに上記のような積極的な納入義務が認められるか、ということ自体、本来は疑わしい*2


政令の解釈に加えて、「協力義務」の解釈や、義務違反と因果関係の認められる損害の範囲はどこまでか、といった問題まで出てきかねないのが今回の訴訟である。


訴訟の結果如何では、これまでの実務の大幅な見直しすら余儀なくされかねない訴訟を、このタイミングで起こす必要が果たしてあるのだろうか?
そして、それ以上に、今回の訴訟がそれだけ難しいものだという認識と覚悟がSARVH側にあるのだろうか?*3


とりあえず訴訟を起こすだけ起こして、世論を味方に付け、最終的には裁判所の法解釈を仰ぐことなく、場外での“政治的決着”によって解決を図ろう、と目論んでいるのかもしれないが*4、果たしてそんな思惑通りに行くのかどうか。


とことん本気なら、まずは原告側代理人のお手並み拝見、ということになるだろうが、「今ならまだ辛うじて引き返せるんだから、やめときゃいいのに・・・」というのが、今の自分の率直な思いである(老婆心ながら)。

*1:録画補償金は、本来の意味での「著作権料」(複製の対価)とは全く性質が異なるものである(元々法的に権利者の許諾なしに複製することが認められている領域への「課金」なのだから・・・)ことを記者の方がご存じないわけはないと思うのだが・・・。

*2:条文を素直に読めば、指定管理団体による「機器購入者」への請求があって初めてそれに対するメーカーの「協力」という話が出てくるのであって、SARVH自体がデジタル専用録画機購入者に対して積極的なアクションを起こしていない状況で、「協力」者に過ぎないメーカーへの直接的な請求ができるか、といえば大いに疑問である。

*3:文化庁課長の回答一本で勝てるつもりになっているのだとしたら、危機管理上かなり危ういことだと言わざるを得ない。

*4:結果としては裁判上の和解か、裁判外での調整に基づく訴え取下げ、で権利者にとってはめでたしめでたし、ということになろう。

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