月曜日の日経紙の法務面に、
という見出しのコラムが掲載されている。
「ファイル交換ソフト「ウィニー」の開発者が著作権法違反ほう助罪に問われた事件で、大阪高裁が10月に逆転無罪判決を出し、著作権の強化を目指す法改正の動きが鈍りそうな気配だ。ただ、諸外国にはインターネットの著作権侵害に厳罰を下す動きもある。ネットの利便性と権利保護のバランスをどうとるか。難しい判断が司法に突きつけられている。」(日本経済新聞2009年11月30日付朝刊・第14面)
というリード文で始まるこの記事。
雑駁に要約すると、
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それにもかかわらず、我が国では「ウィニー」事件で無罪判決が言い渡され、「ロクラク裁判」では知財高裁がカラオケ法理を覆してしまった。
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さあ、どうする最高裁?
という流れになっている。
だが、少しでもこの分野をかじったことのある人なら、この記事の不可解さに、すぐに気が付くことだろう。
冒頭で紹介されているフランスの法律は、世界的に見れば(というか、EUの中でも)極めて異端な部類に属するもので、上記コラムの中で、これがあたかも世界的な潮流であるかのように紹介されていることがそもそもの問題なのだが、それをひとまず捨象するとしても、この法律のターゲットは、あくまで「違法ダウンロードを行っているユーザー」である。
もちろん、「スリーストライク(アウト)」のポリシーを実践することをプロバイダに強制する、という点において、純粋な“ユーザー規制法”と片づけられない事情はあるにしても、本コラムがこの後に続けて論じている「間接侵害」の問題とは、基本的にフェイズが異なる、と考えた方が良い。
「中立的な立場のサービス提供者に対して安易な規制を行わない」ということと、「悪質なユーザーを排除するための規制を導入する」ことは、決して矛盾するものではないのであって、このコラムにおけるようなやり方で、「権利者に手厚いフランスと権利者保護が犠牲になっている日本」という比較をするのは、決してセンスの良い所為ではないと思う。
「知財高裁は「番組を録画・転送しているのは利用者自身で、その行為は違法ではない。運営会社は利用者をサポートしているだけ」と、カラオケ法理を完全に覆してしまった。」
と評価しているが、このような理解が的を射たものではない、ということは、本ブログで知財高裁判決が出た後のエントリーで説明したとおりである(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090226/1240120292参照)。
知財高裁は、あくまで「カラオケ法理」を前提に、「ロクラク2」のシステムがその法理を適用するようなものではない、という評価を下したに過ぎないのであって、「被告」がユーザーの違法な複製行為を実質的に管理・支配しているような「間接侵害者」であれば、これまでと同様に、権利者の差止請求や損害賠償請求が認められるのは言うまでもない。
上記のような奇妙な前提に立って「難しい判断」を迫ったとしても、最高裁は困ってしまうだろう(苦笑)。
人々の耳目を引いた旬の話題に引き付けようとし過ぎたがゆえの勇み足、なのか、他に理由があるのかは分からないが、そうでなくてもきちんと理解している人が誤解されやすい分野の話だけに、個人的にはもう少し慎重かつ丁寧に、記事を書いていただきたかったなぁ・・・と思う次第である。
*1:違法ダウンロードを確認されたネット利用者がメール(1回目)、手紙(2回目)による警告によっても違法ダウンロードをやめない場合、裁判所の判断により、最長で1年間ネット接続契約ができなくなる、というもの。