昨年の著作権法改正でダウンロードが違法化された時点で嫌な予感はしていたのだが、またまたこんな話が出てきた。
「政府はインターネット上での映画や音楽などの海賊版の取り締まり強化に乗り出す。ネット接続サービス事業者(プロバイダー)に海賊版を自動検出する技術の導入を義務付けることや、違法ダウンロードを繰り返す利用者との接続を強制的に切断する仕組みを検討する。」
「政府は知的財産戦略本部(本部長・鳩山由紀夫首相)に作業部会を設置し、3月までに中間報告をまとめる。6月に策定を見込む成長戦略や知的財産推進計画に盛り込みたい考えだ。」
(日本経済新聞2010年2月10日付夕刊・第2面)
「製作者の著作権を保護する」という観点から、悪質なユーザーを排除するために「著作権を侵害する音楽や動画のダウンロードを違法化する」*1という政策判断をとることが、間違いだというつもりはない。
だが、そのような政策目的と、「中立的な立場のインターネットサービス提供者に対して安易な規制を行わない」というテーゼは十分に両立可能だし*2、「海賊版撲滅」という美名の下でプロバイダーに過大な負担を課すのは、決して好ましいことではない、と自分は思っている*3。
記事の中では、
「検出をすり抜ける方法などが開発されれば、プロバイダーの負担が重くなる可能性もあり、どこまで負担を求めるかが課題になる。」
と、専らプロバイダーにとっての技術的な負担の方に焦点が当てられている。
だが、そもそも、「海賊版を自動検出する」技術をプロバイダに強制的に導入させたとして、検出された「海賊版」をWeb上から削除するかどうかの判断は一体誰が行うのか?
ネット上で「違法複製」された動画が流通していても、それを闇雲に削除することを是としない権利者サイドの人たちは現に存在するし、「基本は削除」でも、何らかの理由で特定のサイトに対しては容認する、という判断を取る人だっていることだろう*4。
(本来の権利者の意向にかかわらず)JASRACが機械的に削除要請をかけることが可能な「音楽」ならまだしも、集中管理が行われていない他のコンテンツの場合、「検出」されたものをどう扱うかで権利者の意向が錯綜することだって考えられるわけで、そういった照会・調整(・場合によっては最終的な判断も?)の負担を「プロバイダ側に」負わせるのが果たして妥当なことなのかどうか、良く考えてみる必要がある。
最終的に削除するかどうかを決められるのは「権利者」しかいないのだから、「権利者」が自らアクションを起こすことによって「侵害物」を排除する、というのが最も合理的なやり方だし、それに先立って「権利者」が自ら「自己の権利が侵害されている状態」を発見し、権利侵害の存在を然るべき相手に対して主張立証する、というのが、法律家の伝統的な考え方には最もなじむ進め方だ。
それを覆してまで、権利者にさらなるアドバンテージを与えようとするのであれば、それなりの合理的な理由がなければならないと思うのだが、
「実際には監視が追いつかない状況」だから
という理由に、そこまでの説得力があるとは到底思えない。
著作権者が、法によって、違法な「海賊版」を排除する、という非常に強力な権利を与えられているのは事実だ。
だが、「与えられた権利の上に眠るものは保護に値せず」というのもまた昔から言われていることである、ということは忘れてはならないと思うのである。