企業社会の暗闘?

5日付の夕刊に掲載された、前社長の「辞任取り消し要求騒動」をきっかけとして、富士通経営陣の暗闘(?)が明るみに出ようとしている。

「昨年9月に富士通社長を辞任した野副州旦氏が、辞任の取り消しを求める文書を会社側に送付していたことが5日、明らかになった。会社側は社長交代の理由を「病気療養のため」と説明しているが、野副氏側によると、秋草直之取締役相談役らが「(野副氏が)反社会的な勢力と付き合っているという話があり、社長として適切ではない」と辞任を迫ったという。」
「野副氏側の弁護士によると、2月26日に文書を送付した。文書では臨時取締役会を開いて野副氏本人による釈明の場を設けることと、外部の人間による調査委員会を設け、辞任に至る経緯を検証することを求めている。」
日本経済新聞2010年3月5日付夕刊・第3面)

確かに、富士通ほどの会社で、就任直後に社長が唐突に辞任し、会長兼社長というスクランブル状態が長く続く、というのは不可思議な話で、最近になって、新社長内定のニュースが発表された時も、あらためて不思議な思いに駆られたものだった。


で、ことの真相は・・・?と思った矢先の今日、発表されたのが、↓のプレスリリース。
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2010/03/6.html


通常なら広報だって休んでいるはずの土曜日に、わざわざ報道に対するレスポンスを返すあたりにことの重大さが伺われるし、ところどころに見られる分かりにくい表現と“歯切れの悪さ”が、なおさら社内の混乱と問題の根深さを感じさせる。


例えば、

「2009年2月ごろ、野副氏と長年にわたり親交の深い人物が代表取締役をつとめる企業が、野副氏が推進していたプロジェクトの一部に関与しておりました。当該企業グループについては好ましくない風評があったため、調査いたしましたところ、当社の理念・行動規範である FUJITSU Wayの観点からも、当社が取引等の関係を持つことはふさわしくないとの判断に到りました。この旨を野副氏に対し、取締役、監査役から注意したところ、野副氏もこれを認め、当該企業を当社プロジェクトからはずすと明言しました。しかし、野副氏は、その後も当該企業との関係を継続していることが判明しました。」
「野副氏の弁明は、当該企業の親会社自体は絶対当該事業に関与させてはならないと認識しており、現にそのように指示していたこと、また野副氏と親交のある人物は、野副氏の言葉を借りれば当該親会社の代表者の「手先」「窓口」として機能していると認識しているとしながら、一方で当該人物についてはあくまで個人として見ており当該企業グループとは切り離して考え、当社プロジェクトに関与させていたとのことでした。しかしながら、野副氏も、当社代表取締役社長という立場からは、そのような認識は通用しないことを理解し、辞任を選択されたものです。」

と、「好ましくない勢力との関係」が事実上の“解任”事由であることをはっきりと述べつつも、

「なお、当該企業が当社の事業に関与すること、また当社の代表取締役社長という立場にある者が当該企業と関係することが FUJITSU Wayの観点からふさわしくないというのは、あくまで当社の事業遂行上の、また、当社取締役会による代表取締役社長選定上の判断であります。このため、当社が当該企業の評価を公表したり、当社の調査結果を開示する立場にはありません。また、本件において、野副氏が何らかの違法行為や不正行為を行っていたという訳でもありません。あくまで、野副氏がとられてきた行動が、当社の代表取締役社長という立場から見てどうであったか、また、仮に当該企業の風評ないし評価が真実であった場合、当社にどのようなリスクを発生させるかという観点から、当社代表取締役社長という地位にある者はいかに対処すべきかという経営判断の問題です。この観点で、当社代表取締役社長は、万が一のリスクが重大であればあるほど、一片の疑いも持たれない行動を取るべきというのが当社の判断であり、野副氏もこれを十分に理解された結果、辞任されたものと理解しております。」
(以上、上記プレスリリースより。強調筆者)

と、「関係のあった勢力」自体の“反社会度合い”については、回りくどい表現に終始しているあたりに*1、野副氏の主張を裏付ける何かが存在するのではないか、と勘ぐってしまいたくなるし、挙句の果てに、

「発表時点では全ての事情についてお伝えしなかった事については、事情ご賢察の上ご理解いただきたく存じます。」

とくれば、もはや論評するのもバカバカしくなってくる*2


このような歯切れの悪いプレスリリースになってしまった理由として、今のところ考えられるのは、

(1)「前社長と「反社会的勢力」との間にかなり深い付き合いがあった」という事実は現に存在したのだが、にもかかわらず昨秋の時点では、「病気療養」というあたりさわりのない理由で、社長を“解任”することによってお茶を濁した。
(2)昨秋の社長“解任”時点では、前社長と付き合っていた相手が「反社会的勢力」であった可能性が強かったのだが、後に詳しく調査したら、実は違っていた。
(3)真実は「元々前社長を快く思っていなかった社内の勢力が、最近やたら規制のハードルが高くなった「反社会的勢力」ネタを持ちだして、前社長の追い落としを図った」というものであった。

といったあたりだろうか。


仮に(1)、(2)だとすれば、一種の“不祥事隠し”として、ステークホルダーに対する説明責任を十分に果たしていない、という批判を受けることは避けられないし*3、(3)だとしても、“お家騒動”の恥を晒すことになる上に今後の前社長と会社(現経営陣)との間の紛争の泥沼化の不安を関係者に抱かせることになろう。


人事、特にトップをめぐる人事には、様々ないざこざが不可避的に付きまとうわけで、(一応正当な手続きを踏んでいる限りにおいては)辞任理由や就任理由をすべて真っ正直に説明しなかったからといって、それ自体が非難されるべき、ということにはならない、と自分は思っている*4


ただ、このような事態に至ってしまった以上、もはや、「事情ご賢察を・・・」というフレーズだけでカタが付くような話ではなくなっているのも事実なわけで、「第三者委員会」の出番なのではないかな・・・というのが率直な感想である。


老婆心ながら。

*1:この表現からは、野副元社長が付きあっていた企業に反社会性があったのか、それともそれは単なる“風評”的な評価に過ぎないものだったのか、がどうもはっきりしない(「風評ないし評価が真実であった場合」といった表現や「万が一のリスクが」といった表現を見る限り、現実には反社会性が存在しなかったようにも見えてしまう)。

*2:親しい取引先へのビジネスメールじゃあるまいし、こういうプレスリリースで「ご賢察の上・・・」などという表現を用いること自体、どうかと思う。

*3:(2)なら結果オーライということになるが、辞任発表時点での対応が適切だったかどうか、という問題は残るし、十分な調査をする前に「社長を辞任させた」という判断の妥当性も問われることになろう。

*4:そこから先の、表に出なかった理由を探る仕事は、経済誌の記者や経済小説家にでも任せておけばよい。

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