スカイマークの“不祥事”の謎。

スカイマークをめぐる“不祥事”が、この日の朝刊に相次いで掲載されている。


そのうち1件は、「副操縦士が巡航中に操縦室をデジカメで撮影した」というもので、これについては何を言われても仕方ないだろう。


だが、もう1件の方は何か引っかかる。

スカイマークの西久保慎一社長と井手隆司会長が先月、体調不良の客室乗務員を交代させるよう求める機長の安全上の判断に対し「なぜ飛ばない」などと介入し、最終的に機長を交代させた上で乗務員をそのまま乗務させ、羽田発福岡行き便を運航していたことが9日、分かった。国土交通省は同日、「安全運航を脅かしかねない行為」として、西久保社長らを呼んで文書で厳重注意した。」
「西久保社長らが機長の判断に介入したのは先月5日。羽田発の017便の搭乗前の打ち合わせで、機長は先任の客室乗務員が体調不良で声がかすれ、十分に発声できないことに気付いた。」
「機長は本社に戻った上で乗員管理者に先任乗務員の交代を求めたが、その場にいた西久保社長が「なぜ飛ばない」などと詰め寄った。呼ばれた井手会長も「問題はないから飛べ」などと先任乗務員を交代させず運航するよう指示したという。機長が拒否したため、2人は機長を交代させた。」(日本経済新聞2010年3月10日付朝刊・第42面)

「安全運航を脅かしかねない」とくれば、ことは尋常ではない。


事実関係がどのようなものか、ソースの国交省のプレスリリース*1を見ても、上記記事に掲載されている以上の情報は出てこないのだが、上記記事やプレスリリース記載の内容だけ読めば、本件は、

(1)機長には安全管理上の判断に関する最終決定権があり、会社がそれに介入すること自体が許されない。

という前提の下、

(2)会社が(営業上の理由を優先して)「安全意識の強い機長の判断」に介入した。


というけしからん事案、ということになるだろうし、メディアの多くも同様の受け止め方をしているようだ。


だが、「機長の判断への会社の介入が許されない」という根拠がどこから導かれるのか、という点については、国交省のプレスリリースにおいても、上記記事においても、十分に説明されていないように思われる。


航空法の「機長」に関する規定は、

(機長の権限)
第73条 機長(機長に事故があるときは、機長に代わつてその職務を行なうべきものとされている者。以下同じ。)は、当該航空機に乗り組んでその職務を行う者を指揮監督する。
(出発前の確認)
第73条の2 機長は、国土交通省令で定めるところにより、航空機が航行に支障がないことその他運航に必要な準備が整つていることを確認した後でなければ、航空機を出発させてはならない。

というもので、航空機内の他のクルーとの関係でいえば「機長」の権限は絶対的なものだし、その責任と権限によって、航空機の運航がなされる仕組みになっているのは明らかだ。


ところが、上記航空法の規定の中には、「機長」と「航空運送事業者」との関係を規律した規定が見当たらない。


法律上は、「航空運送事業者」との関係で、輸送の安全を確保する役割を担っているのは「安全統括管理者」であり、航空法103条の2には、

6 本邦航空運送事業者は、輸送の安全の確保に関し、安全統括管理者のその職務を行う上での意見を尊重しなければならない。

という規定はあるが、スカイマークにおける「安全統括管理者」は、井手会長であって(国交省リリースによる)、「機長」ではない。


国交省のリリース等を読むと「最終決定権者を「機長」としている」のは、法律ではなくスカイマーク社の「運航規定」だということなのだが、それだって、会社の「運航管理者」や「安全統括管理者」との関係で、常に「機長」の判断が優先される、という規定に果たしてなっているのかどうか・・・、疑問の残るところは多いように思う*2


したがって、機長判断への会社の介入が常に許されないかのような表現はちょっと言い過ぎで、あくまで、

「現場の機長が安全運航上問題があると判断し、かつ客観的にもその判断が正当と認められる場合に、会社がそれを無視して、運航を強行させることは許されない」

というレベルのものと理解すべきなのではないだろうか?*3


そうなると、上記(2)のような、会社の“安全運航上問題がある”介入があったかどうかが問題になってくるのだが・・・



国交省のリリースと同日に発表されたスカイマーク社のプレスリリースには、

「平成22年2月5日の運航便において安全上の問題で機長を交代しましたが、結果として機長の権限の扱いに疑義を抱かれ厳重注意を受けることとなってしまいました。」

という記載があるし*4、新聞記事を見ても、スカイマーク社自身は、

「現段階では当日の社長らの行為に問題があったことを認めていない」

ようである。


このような状況で、国交省はどのような資料を基礎に、処分の前提となる事実を認定したのだろうか?


同じエピソードでも、当事者の立ち位置によって評価が180度変わってくる、というのは良くあることだし、前後の文脈を踏まえなければ正確に把握できないことも世の中にはたくさんある。


曲がりなりにも航空局長名で処分を下すからには、それなりに客観性の高い裏付けがあったのだろう、と善解したいところではあるが、やはり、上記国交省のプレスや新聞報道を見る限り、説明不足の感は否めないのではないだろうか。


長年寡占状態だった2強の一角が崩れ、今後、航空業界を支えていくことが期待される会社だけに、処分するにしても、それを報道するにしても、なおいっそうの慎重さが求められるのではないか、と思っているところである。

*1:http://www.mlit.go.jp/common/000109524.pdf

*2:航空法77条には、「航空運送事業の用に供する国土交通省令で定める航空機は、その機長が、第102条第1項の本邦航空運送事業者の置く運航管理者の承認を受けなければ、出発し、又はその飛行計画を変更してはならない。」と、出発の判断において、運航管理者の判断が機長の判断に優先するように読める規定もある。

*3:そう考えないと、「機長の判断」の妥当性を担保するための歯止めがなくなってしまう。

*4:http://www.skymark.co.jp/ja/company/press/press100309_2.html

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