「1票の格差」訴訟・第1ラウンド総括

日経紙に、2009年8月の衆院選をめぐる選挙無効訴訟について、各高裁での判断を総括する記事が掲載されている。

「1票の格差」が最大2.30倍だった昨年8月の衆院選小選挙区の定数配分の合憲性が争われた訴訟は、先月末で全国9件の訴訟の判決が出そろった。結論は「違憲」「違憲状態」「合憲」の3つに割れた。1994年の小選挙区比例代表並立制の導入以降、合憲判断を続けている最高裁がどう判断するか‐。有権者の関心は高まる。」
日本経済新聞2010年5月5日付朝刊・第30面)

「一人一票実現国民会議」が昨年からHP等を使った情報発信を継続しており、判決が出ればそれがそのままHP上にアップされる(http://www.ippyo.org/)というこれまでにない状況の中で*1、合憲判断を示したのは東京高裁(H22.3.11)と札幌高裁の2件。


逆に、違憲判断を示したのは大阪高裁、広島高裁、福岡高裁名古屋高裁で、東京高裁(H22.2.24)、福岡高裁那覇支部、高松高裁においても、09年8月時点の格差が違憲状態である旨の判断を示した(要するに2009年8月時点での格差を違憲ないし違憲状態と判断した高裁が圧倒的多数)、ということなのであるが・・・。


政治的に混迷を極めつつある状況の中で、衆議院小選挙区の区割りを抜本的に見直そう、という声はまだ聞こえてこない。


前記記事によると、

「訴訟はいずれも上告され、最終的な司法判断は、早ければ年内にも、裁判官15人全員で構成する最高裁大法廷で示される見通しだ。」

ということなのであるが、(大方予想される)最高裁での違憲ないし“違憲状態”判決を受けて、すぐ動きが取れるような状況ではとてもなさそうである。


まぁ、どんなにドラスティックな意見が支配的になろうと、昨年の衆院選の効力そのものを失わせるような判決まで最高裁が書けるとは思えない*2し、これまでの例に倣って「選挙の違法を宣言」したところで、それが直ちに国会を動かせるわけではない。


過去に違憲判断(+事情判決の法理)が下されたケースでも、

最大判昭和51年4月14日(昭和47年衆院選)→昭和51年12月5日総選挙(任期満了)
最大判昭和60年7月17日(昭和58年衆院選)→昭和61年7月6日総選挙(解散、衆参同日)

と、判決の影響をあまり感じさせないタイミングで、次の選挙が実施されている。


最高裁が、現在の議院を構成している議員を選んだ選挙について、「違憲」判断を下し「違法」を宣言したのであれば、「格差是正のための区割りを成し遂げたら速やかに議院を解散し、憲法適合性のある選挙を実施することによって新しい院を構成すべき」という理屈も成り立つのではないかと思うのだが果たしてどうなるか。


個人的には、最高裁判決後に「一人一票実現国民会議」とその支援メディアがどのような論陣を張るか、というところに影響されるところが大きいような気もするのであるが・・・。


楽しみはもうしばらくとっておこう。

*1:現在最高裁HPで公表されているのは、広島高裁(広島高判平成22年1月25日、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100218135252.pdf)、福岡高裁那覇支部(福岡高那覇支判平成22年3月9日、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100329101850.pdf)、名古屋高裁(平成22年3月18日、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100427130541.pdf)の3件だけのようだが、「一人一票実現国民会議」のサイトに行けば、升永・久保利両弁護士が関与された“闘いの軌跡(判決全文、判決要旨)”をすべて見ることができる。

*2:裁判官の何人かは、「選挙無効」判決相当との意見を書いてくれるかもしれないが、それが多数を占めるような事態はちょっと考え難い。

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