今回のW杯で、日本がベスト16に入ったことがちょっとしたサプライズだったのは間違いない。
我々のような素人は、戦前にどんな浅はかな予想を立てていようが、時流に乗って浮かれ騒げばそれでいいだけだし、テレビに出てくるようなコメンテーターなんかも「手のひらを返して絶賛」すれば何ごともなかったかのように免責されることになっているらしい(苦笑)*1からそれで良いのだろう。
だが、そうはいかない、という人もいる。
辛口のサッカー評論家として論陣を張って来られたスポーツライターの木崎伸也氏が、W杯中に発行されるNumberの臨時増刊号に「指揮官・岡田武史に問う。」という連載を4号連続で書かれている。
4年前のW杯の際は、「代表チームの分裂」問題など、代表に対する辛辣な批判混じりの記事を次々と世に送り出して注目された木崎氏は、今大会、その刃を岡田武史監督に向けるつもりだったようで、第1回は、
「かつて、カズを帰国させた12年前の岡田監督は、その決断に賛否両論こそあれ、間違いなく情熱のエネルギーに溢れていた。だが、今の岡田監督には、形振り構わず、選手やコーチと激論をかわしてまで改革をやってやろうという情熱のエネルギーが枯渇してしまったように見える。」
「今の岡田監督を一言で表すなら、こうなるだろう。食材を生かすことができないシェフ、と。」
「日韓戦後、場当たり的なチーム作りの末にできあがったのは、守備ばかりにエネルギーをそそぎ、攻撃の手段をほとんど持たないという「ローリスク・ノーリターン」のチームだった。」
「極論するなら、もはやこれは「サンドバッグ」だ。殴られても、殴られても、殴り返すすべを持たず、選手に残るのは徒労感と失望感のみ。これではW杯に向けてエネルギーを燃やせるはずがない。」
「今回のチームにおいて、「岡田監督を男にしよう」という雰囲気は全く感じられない。」
(Number・週刊文春6/25増刊号・48頁、強調筆者以下同じ。)
という、これでもか、というくらいの批判とともにスタートした。
もし、戦前の予想通り、日本代表が一つも勝てずに南アフリカから帰ってくるような展開だったら、木崎氏の辛辣な記事も“冷静な観察眼”に基づく論評として相当な支持を集めることになっただろう。
だが、そうならなかった、というのは既に皆さまご承知のとおり・・・。
そもそも、書いてから掲載されるまでにどうしてもタイムラグが生じてしまう雑誌メディアの悲しさゆえ*2、木崎氏の渾身の第1回の連載記事が掲載された号は、「日本代表、歓喜の咆哮」と題されたカメルーン戦勝利を祝う号だった(この辺からして、ちょっと気の毒な展開・・・)。
木崎氏はそれでも、カメルーン戦直後には、まだ、
「ヒディングが「10回に8回勝てる」やり方なのに対し、岡田監督は「10回やって、1回勝てるかもしれない」やり方だ。」
「明確な哲学がない運頼みのサッカーは、もうこの大会で終わりにしてはどうだろうか。でなければ、そのつどの成功と失敗が、財産として受け継がれていかない。そんな代表に、未来はない。」
(Number・週刊文春6/29臨時増刊号・53頁)
と「偶然」「運頼み」というフレーズを連発していたのだが、さすがにデンマーク戦を終えて1次リーグ突破を決めるに至って、
「注目の高さも、重圧も、緊張感も、すべてが凝縮されたW杯という舞台においては、たった3試合が、テストマッチでは1年かけても得られない成長を、個人にも、チームにも、そして監督にももたらすことがあるのかもしれない」
「3試合目に出来上がったスタイルだけを見るなら、まだまだ荒削りな部分があるが、日本らしいサッカーのひとつのカタチができたと言ってもいいのかもしれない」
(Number・週刊文春7/6臨時増刊号・40頁)
とトーンを一気に切換え、パラグアイとの激闘の後に書かれた最新号の記事でも、「結果を優先」したスタイルへの懐疑的姿勢こそ示しこそすれ、監督に対しては、
「日本をベスト16に導いたにふさわしい迫力と貫録を持つ指揮官がそこにはいた」
「岡田監督が成し遂げたものは、永遠に日本サッカー史の中で輝き続ける」
(Number・週刊文春7/14臨時増刊号・64-65頁)
と、第1回とはガラッと変わった評価をせざるを得なくなっていた。
Number (ナンバー) 南アフリカW杯激闘録 日本代表、ベスト16の真実。 2010年 7/14号 [雑誌]
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もちろん、「ベスト16」という結果こそ残したとはいえ、その結果だけでこれまでの4年間(あるいは岡田監督再就任以降の年月)を手放しで評価するようなことがあってはならないだろう。
これまで日本代表に対して比較的温かい評価を与えていたオシム前監督ですら、パラグアイ戦については、
「決して自分たちよりも強くない相手と対戦する幸運に恵まれながら、さらに先に進むチャンスをみすみす逃してしまった。残念としか言いようがない。」
(イビチャ・オシム「日本はすべてを試みたか」Number週刊文春7/14臨時増刊号・66頁)
と手厳しい評価をしていることも看過することはできないように思う。
ゆえに、今大会の試合での戦い方や、これまでの準備段階での“迷走”を批判すること自体には、ちゃんと意味があると思うのだが、木崎氏の場合、さすがに連載第1回、第2回での監督への評価が、ちょっと厳し過ぎたような気もして・・・。
自分の筆一本で勝負できる代わりに、書いた推論と全く異なるストーリーで世の中が動いてしまうと、難しい修正とフォローを迫られることもある・・・。今回の一連の記事が、そんな難しさを教えてくれたのは間違いないところである。