2年前にアニメ画像等を使ったコンピューターウイルスを作成した、として有罪判決を受けた会社員(当時は大学院生)が、またしても「イカタコウイルス」作成の容疑により逮捕された。
前回の犯行からさして時間が経過していない時期に2度目の犯行、しかも執行猶予中、ということもあって、今回は厳罰を免れえないのではないかと思う。
で、興味深いのは、今回被疑者を逮捕した警視庁が、逮捕容疑を「器物損壊」としていること。
「警視庁は今回、コンピューターウイルスがパソコン内のファイルを別の画像ファイルに書き換え使用不可能にしたことが器物損壊容疑に当たると判断し、同容疑で初めてウイルス作成者の逮捕に踏み切った。日本にはウイルスの作成、配布行為自体を罰する法律がなく、捜査当局はこれまでも著作権法違反や詐欺など“別件”の罪名を適用するなど苦心してきた。」(日本経済新聞2010年8月4日付夕刊・第16面)
記事にもあるように、現時点ではコンピューターウィルス自体の作成・頒布行為をダイレクトに罰する規定は我が国には存在しないから、試行錯誤しながら、事案に照らして犯罪結果を評価するに最もふさわしい罪名を選択するほか、適正に処罰を行う途はない。
そして、「パソコン自体が使えなくなるわけではな(かった)」前回、京都府警が断念した器物損壊容疑での立件を*1、
「今回のウイルスが感染したパソコンはハードディスクに新たなデータの保存もできず、事実上使用不能になる。」
という事実に着目して、あえて行おうとする警視庁の判断にもそれなりの理由があるのだろう。
もっとも、ある意味画期的な「器物損壊容疑」での今回の逮捕も、以下の点に照らすと何となく色褪せてみえる。
それは・・・・
「器物損壊罪の法定刑は、著作権法違反罪の法定刑よりも遥かに低い」
という事実である。
2年前に当ブログでも指摘したように(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080207/1202443034)、著作権侵害罪の法定刑は「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金」。
一方、器物損壊罪の法定刑は、「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金」。
今回のウィルスに使われている、イカだのタコだのの画像は、恐らく被疑者が自分で作成したものなのだろうから、「著作権法違反」での立件は困難なのだろう。
だが、本来、その悪質さゆえに“実質に踏み込んで”摘発したはずの今回の方が法定刑が軽い、というのは、何とも皮肉なことだ。
しかも、前回の求刑は(法定刑に比べると低いとはいえ)懲役2年だったから、今回上限ギリギリで求刑しても「懲役3年」にとどまる、というのはいかにも迫力に欠ける*2。
「器物損壊」罪の法定刑が低すぎることに問題があるのか、それとも著作権侵害罪の法定刑が他の犯罪に比して不釣り合いなくらいに高すぎるのか、いろいろと議論はあろうが、他罪を“転用”するというやり方に、限界が来ていることは間違いない、と思うところである。