春先に買って以来、まとまった時間が取れた時に読もうと思っていた一冊にようやく目を通すことができた。
- 作者: 渡辺浩
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2010/03/01
- メディア: 単行本
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決して取っつきやすいテーマではないが、一般読者向けに分かりやすく書かれており、しかも、ところどころに、師の名講義のエッセンスが散りばめられている*1 。
『龍馬伝』的史観に囚われている読者にとっては、開国から明治維新にかけての思想状況を描いたあたりの章が良い刺激になるだろうし、一般的に語られている“日本的なるもの”を安易に固定観念として刷り込まないようにするためにも、本書は有益だろう*2。
個人的には、平和と安定に支配された江戸中期の思想家たちが、理想と現実がかい離するなかで、どのように自分の信ずるところを突き詰めていったか、というところが面白くて*3、生まれて以来平和と安定に支配された世の中*4で生きている身としては、いろいろ共感できるところも多かった。
世の中の見方としても、治政へのアプローチとしても、海保青陵(第14章)なんかは特に・・・(笑)*5。
まぁ、ここに書かれている解釈しか自分は知らない(他の解釈も当然あるんじゃないかと思う)し、込み入った議論を紹介する本でもない以上、深く語る材料として本書を使うのは間違った使い方だと思うのだが、ちょっとした蘊蓄を語るには十分過ぎるほどの情報が揃っているといえるだろう。
あと、趣味でもっと掘り下げたり、思索を深める材料としてもふさわしい。
ちょっと気は早いが、秋の長夜には最適の一冊、なんじゃないか、と思っているところである。
*1:ちなみに、渡辺教授の講義は、自分も卒業間際に受講していて、履修した学部の講義の中では1,2を争う確率で出席していたと自負しているのだが(それでも「半分」には遠く及ばないが・・・)、試験では思いっきり「不可」を食らった苦い思い出あり・・・。
*2:いわゆる“保守系”の評論家が唱える“伝統的日本人のあり方”的なものが、江戸末期や明治維新以降に作られた、特殊な思想的背景に基づくものであることは、本書の記述からも容易に推察できる。特に第16章あたりがお勧めだ。
*3:本書においても、専らこの辺りに多くの紙幅が割かれている。
*4:現代をこのように評価できるかどうかは異論もあるところだろうが、やはり、少なくとも幕末・明治維新期や第二次大戦直後の時代に比べれば、相対的には遥かに安定している、というべきだろう。