救世主か、それとも新たな脅威か・・・?

パテント・トロール対策の必要性が説かれるようになって久しいが、そんな時代を象徴するかのようなニュースが飛び込んできた。

特許権の侵害訴訟で企業から高額の和解金を引き出す「特許トロール(特許の怪物)」と呼ばれる動きへの対策を手掛ける米企業RPX(カリフォルニア州)が日本で新会社を設立し、月内に業務を始める。訴訟対象となりそうな特許を事前に購入して顧客が訴えられるリスクを減らすなどのサービスを提供する。」(日本経済新聞2010年9月21日付夕刊・第1面)

2008年3月にサンフランシスコで設立されたばかりの新しい会社のようだが、資金を提供しているメンバー企業には、IBMマイクロソフトインテルといった著名企業が名を連ねており、日立、パナソニックソニー、シャープ、NECセイコーエプソンといった国際的日本企業の名前もみられる*1


そして、今回設立される「RPXアジア」の新社長には、名門・日立製作所知的財産権部門出身の山崎寿郎氏が就任する、ということだから、国内でのステータスも相当程度期待できそうな感じだ。


だが、冷静に考えると、額面どおりに受け取りづらいところもある。


この会社の戦略の最大のキモは、

パテントトロールによる攻撃を防ぐために、自らの顧客企業の脅威になりそうな特許を事前に買い取ってしまう」

というところにあるようなのだが、元々特許がそんなに流通しない我が国の場合、「買い取る」ということ自体、そんなに簡単なことではない。


ヘタに眠っている特許に触手を伸ばすと、“寝た子を起こす”ことにもなりかねないし、かといって、紛争になりかけてから交渉に乗り出したところで、法外な金額を吹っかけられるだけだろう*2


かの国でどのような手練手管を使って特許を買い取っているのかは分からないが、そんなにうまくいくものかなぁ・・・というのが率直な感想だ*3


もうひとつ気になるのは、買い集めた特許の行方。


パテント・トロールからの防衛のために特許を買い集める、ということは、「買った特許は大手企業にとって脅威になり得るもの」ということでもある。


少なからずメンバー企業からも情報を得た上で、脅威となりそうな特許を選別して買い取っているのだろうから、手元に集めた特許のコレクションはかなり強力なものになるはずだ*4


当の会社自身は元々費用を払って権利維持することまでは考えておらず、そのための費用もストックしていないのかもしれない。


だが、その気になれば、手元にある強力なコレクションを使って権利行使を仕掛けたり、(もっとたちの悪いことに)メンバーとして“献金”をすることを強要したりすることだって十分に可能なわけで、筆者としてはそのあたりにかすかな疑念を抱かざるを得ない*5


元々、今回の日本法人設立は、あくまで日本のグローバル企業を、米国特許市場におけるRPX社の活動の顧客として取り込むのが目的で、RPX社が“日本の特許市場”にまで活動領域を広げることまでは想定されていないのかもしれないけれど*6、ちょっと気になったニュースではあった。

*1:http://en.wikipedia.org/wiki/RPX_Corporation参照。

*2:ついでに言えば、我が国の場合、このような場面で交渉に介入しようとすれば、必ず弁護士法違反の問題が浮上してくる。腕のいい弁護士を味方につければ済む話とはいえ、そうなると余計にコストはかさむ。

*3:ファンドがバックについているようなパテントトロールであれば、経済的合理性に基づいて行動するだろうから、ある程度打算的な金額で折り合いが付くのかもしれないが、この国ではむしろ個人発明家から派生したようなトロールも多いので、余計に面倒なのではないかと思う。

*4:“特許の目利き”ができなければ、パテント・トロール側のビジネスだって成り立たないわけで、強力なパテント・トロールのバックには、必ずといってよいほど腕の良い弁理士や特許弁護士が付いている。

*5:http://ednjapan.cancom-j.com/news/2009/1/705の記事も参照。

*6:そもそも“吹っかけ的権利行使”に対する裁判所の姿勢が伝統的には厳格で(最近はそうでもないのかもしれないが)、紛争処理費用もさほど莫大なものにはならない(ある意味良心的な弁護士がまだ残っている)我が国では、高額の会費を募ってまで防衛を図ろうとするインセンティブがあまり働かないのではないかと思う。

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