「動かし難い事実」が動いた不可解さ。

厚生労働省現職局長に対する無罪判決の衝撃が冷めやらぬうちに、今度は、特捜部検事による「押収品改ざん」というとんでもない話が出てきてしまった郵便料金不正事件。

最高検は21日、郵便料金不正事件で証拠品として押収したフロッピーディスク(FD)のデータを改ざんしたとして、当時、捜査を指揮した大阪地検特捜部の主任検事、前田恒彦容疑者(43)を証拠隠滅容疑で逮捕、大阪府内の前田検事の自宅を家宅捜索した。」(日本経済新聞2010年9月22日付朝刊・第1面)

逮捕容疑は、

「昨年7月13日、FDに記録されていた偽の証明書の最終更新日時を、大阪地検内で専用ソフトを使って改ざん。本来の「2004年6月1日1時20分」から、「6月8日21時10分」に書き換えた疑い」

ということだが、この話が出てきたタイミングといい*1、「正しい捜査日時」が記載された捜査報告書の存在といい*2、よく分からない、きな臭さすら感じさせられる点が多い。


元々実務において、「客観的証拠」から読み取ることのできる事実は、「動かし難い事実」として尊重され、事実認定の出発点とされることが多いものであるから*3、今、被疑者(前田主任検事)にかけられている容疑が真実だとしたら、これは裁判における事実認定プロセスを歪める行為にほかならず、到底許されることではない*4


当の被疑者は、「故意の改ざん」を否定するかのような供述もしているようだが、「専用ソフトでいじった結果、捜索した日付に書き変わってしまった」というならともかく、「5年も前の、しかも検察官立証ストーリーにぴったりはまるような日時」に、“うっかりミス”で書き換えてしまった、というような弁解が通るはずがないのも事実だ。


おそらく、今後しばらくは、今回の捜査を仕切ったこの“とんでもない検事”とその上司たちの責任追及を中心に、今回の事件の総括が図られていくことになるのだろう。



だが・・・ふと考えてみる。


そもそも今回の「無罪判決」が問いかけているのは、一検事の“愚行”というレベルに矮小化されるほどの小さな話なのだろうか?


仮にこの件で、大阪地検の幹部達が責任を取り、大阪地検から特捜部がなくなったとしても、それだけで村木元局長が被ったような災厄が二度と他の(潜在的)被疑者に襲いかからないとは到底言えないだろう。


東京をはじめとする他の地検に特捜部が残り、従来と同じような密室的・閉鎖的・縦割り的な捜査が続けられる限り(そしてそれに乗っかった報道が繰り返される限り)、必ず同じような問題は起こるように思えてならない。


一主任検事に向けられた最高検の「徹底的な捜査」が、そういった根本的な批判を未然に封じ込める方向に働かないという保証はないし*5、その結果としての「厳正な処分」がいわばトカゲの尻尾切り的に機能する可能性は捨てきれない。


それゆえ、自分としては、今後の展開を冷静に見定めていく必要を強く感じている次第である。

*1:公判の最中に既に矛盾が露呈していたにもかかわらず、「無罪判決」が出され、上訴権放棄により検察の「全面敗北」が白日の下に晒されるタイミングまで公表が引き延ばされた。

*2:この捜査報告書がどのタイミングで作成されたものか、報道からはいまいち伝わって来ないのであるが、常識的に考えれば「改ざんがなされる前」(証拠物が差し押さえられた直後)に作成されたものであるはずで、だとすれば、なぜそのような報告書が存在するにもかかわらず、あえて“改ざん”などというリスクの高い工作を試みたのか、大いに疑問が残る。

*3:もっともプロパティ欄に表示される文書の作成・更新日時は、民事訴訟においても時折“偽装”を指摘されることがあるような類のものであり、少なくとも今後は、「動かし難い事実」として認められる可能性は低くなってくるだろう。

*4:被告人が検察官立証弾劾の材料として使える数少ない貴重な証拠が「壊された」ということがここでは問題なのであって、実際にそのFDの証拠調請求がなされたかどうか、ということは本質的な問題ではないと自分は思う。

*5:「本件が特殊だった」「大阪が特殊だった」「担当検事がおかしな奴だった」的な趣旨の供述調書がガンガンと巻かれて、それに基づいた情報操作が行われれば、次第にメディアの矛先も変わってきてしまうだろう。

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