「弁護士」をめぐる情報の非対称性。

本日付の日経新聞の「経済教室」に、福井秀夫政策研究大学院大学教授が、いつもどおり吠えるように持論を展開されていた*1

読み物としては面白いので、ヘタに「法と経済学」的なるフレーズなんて散りばめずに、純粋な“意見広告”として出せばよいではないか*2、と思うのだけれど*3、まぁそれは良いとしよう。

で、今回の福井教授の論稿の中身を要約すると、

「法律専門家の資格をめぐる情報の格差と偏在は、有資格者による業務独占によって是正できるものではない」
「情報の非対称対策として、業務独占を廃止し、究極的には専門法律科目ごとの認証検定を実施すれば足りる」
「合格者の下限の質が下がっても、その「質」の中身を依頼者が理解し、納得さえしていれば、誰も迷惑は被らない。」

といったところだろうか。

相変わらず“業界の閉鎖性”への憤りばかりが先に立っていて、批判の根拠に信用性が乏しいところが多いし、目的と手段が噛み合っていない*4、提案する手段がすべからく極端に過ぎる、といったところも相変わらずだなぁ・・・という印象がある。

ただ、有資格者、特に「弁護士」に関する情報が依頼者側に十分に開示されていない、という指摘には当たっているところがあるのも事実だろう。

以前に比べれば、だいぶいろいろな情報が出回るようになってきてはいるものの、それでも依頼者側が得ることの情報の多くは、事務所から一方的に発信される“都合のいい”情報ばかり。

大手メディアが出しているような「弁護士ランキング」が極めて作為的・恣意的なものであることは周知の事実だし、断片的に提供される雑誌でのインタビューだけを見ていても、その弁護士の真の姿は分からない。

法務業界、法曹業界にある程度人脈がある人や会社であれば、“口コミ”をかき集めてある程度の情報を集積していくことはできるだろうけど、それでも個々の依頼者が細々とやっているだけでは、どうしても限界はある。

自分としては、これからの取り組みとして、もっと手広く、業界横断的に、各企業の法務担当者が持っている弁護士・法律事務所の情報を集約し、“裏ミシュラン”的なデータベースを作って共有できるようにしたいな、という思いはあるのだけれど、一般の人々のニーズにまで添えるようなものを作ろうとすると、まぁなかなか難しい*5

個人的には、裁判官や書記官あたりに、公式の“ミシュラン”を作ってもらうのが、(少なくとも「認証検定」なんて当てにならないことをやるよりは*6)よっぽどいいんじゃないかな、と思ったりもするのだけれど・・・(笑)。

*1:日本経済新聞2010年10月22日付・第29面。

*2:載せるコーナーとしては「経済教室」みたいな一見アカデミックなところではなく、「領空侵犯」や「大機小機」あたりで十分だと思うけど(笑)。

*3:でないと、「法と経済学」がおかしな学問だと誤解されてしまうので・・・(苦笑)。

*4:「弁護士資格制度について、さしあたっての改善策として「法科大学院修了」という司法試験の受験資格を撤廃し、予備試験ルートに一本化して合格者を年間5000人以上に増やすことを提案したい。」というのが端的な例で、「情報の非対称性」の是正に主眼を置いた今回の記事との関係でこの提言が何の意味を持つのかさっぱり理解できない(笑)。氏の提言どおり、「業務独占」を緩める方向に制度を変えるのであれば、「弁護士」の合格者をいたずらに増やす必要もなくなるわけだし、どうもこの辺は一貫していないように思える。

*5:一般民事を手掛ける弁護士の場合、「敵方」として見ているだけでも、相手の弁護士の能力的な部分は比較的良く見えてくるから、ある程度のところまではカバーできると思うのだけど、家事事件とか刑事事件の世界になってくると、“当事者”にならない限りはなかなか分からないところも多いだろう・・・、と。

*6:「司法試験」の弊害を再三にわたって指摘している福井教授が、ここでまた「認証検定」などという“資格試験的発想”の制度を改善策として持ち出している、というのは、同氏のこれまでのバックグラウンドに照らして考えるといろいろと興味深いものがある。

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