特許を取るためには、出願前に「公然知られた発明」でないことを要する、というのは、業界の常識だし、その例外規定である特許法30条も、
「特許を受ける権利を有する者が試験を行い、刊行物に発表し、電気通信回線を通じて発表し、又は特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会において文書をもつて発表することにより、第29条第1項各号の一に該当するに至つた発明は、その該当するに至つた日から6月以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第1項及び第2項の規定の適用については、同条第1項各号の一に該当するに至らなかつたものとみなす。」
と、「集会等での発表」については「特許庁長官が指定する学術団体が開催する」というごく限られた場合にしか、例外適用を認めないスタンスであることは、知財担当者の間ではよく知られていたことだったと思う。
だが、特許庁は、この部分を改正する方向で動いているようである。
「特許庁は大学などの研究者が特許出願をしやすくするため、特許法を改正する方針を固めた。特許を取得できるのは原則として未公表の発明に限られているが、学会などで公表した後の出願も認める。大学の研究者は特許取得より学会などでの論文発表を重視する傾向があるため、発表が特許取得の障害にならないようにする。2011年中の法改正を目指す。」(日本経済新聞2010年11月18日付朝刊・第5面)
記事を読む限りでは、あくまで「学会」での発表のみを想定した法改正であるかのように思われるが、実のところ、公開の場での「発表」を優先したがる、というのは、大学の先生に限られる話ではない。
企業の技術者だって、ちゃんと(管理職社員を含めた)意識付けをしておかないと、特許出願のための面倒な書類を書くよりも、取引先や会社幹部にアピールできる、社内外での成果報告会等での発表を重視した動きをしかねないわけで、そこまで広げてくれるんだったら、有難い話だなぁ・・・というのが、特許担当者の大方の反応ではなかろうか。
大きな「発表会」の前に、バタバタとやっつけ気味な出願の手続きに追われる必要もなくなるし、“ついうっかり”発表してしまっても、一応は救済されるわけで*1、その辺りは新規性喪失例外の対象が拡大すればするほど、担当者にとっての安心材料は増える、ということになるだろう。
もっとも、6ヶ月、というのは長いようで短いし、発表が終わったら後は「もういいや」って研究者もいないわけではない*2から、結局苦労する時期が6か月先に延びただけで、実際の苦労はそんなに変わらないのかもしれないけれど。
この辺り、改正の行方に注目したい。