これがファイナル・アンサー?〜「権利制限の一般規定に関する報告書」より

今年の1月に、「ワーキング報告書」が公表されて以降、どんな議論が展開されるのか、とちょっとだけわくわくしながら見ていた「フェアユース」規定導入問題だが、結局、そんなに大きなブラッシュアップがなされることもないまま、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の「(最終)報告書」がまとめられるに至った。

文化審議会著作権分科会は13日、他人の著作物を許可なく利用できる範囲を定める一般規定を著作権法に導入するよう求める法制問題小委員会の最終報告を大筋で了承した。年明けにも報告書を文化庁長官に提出。文化庁は早ければ来年の通常国会著作権法の改正案を提出する」(日本経済新聞2010年12月14日付朝刊・第42面)

大筋で了承された報告書(案)がこれ↓
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/bunkakai/32/pdf/shiryo_3_2.pdf

肝心の「利用の類型」については、

ア 著作物の付随的な利用
A その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生ずる当該著作物の利用であり、かつ、その利用が質的又は量的に社会通念上軽微であると評価できるもの

イ 適法利用の過程における著作物の利用
B 適法な著作物の利用を達成する過程において合理的に必要と認められる当該著作物の利用であり、かつ、その利用が質的又は量的に社会通念上軽微であると評価できるもの

ウ 著作物の表現を享受しない利用
C 著作物の種類及び用途並びにその利用の目的及び態様に照らして、当該著作物の表現を知覚することを通じてこれを享受するための利用とは評価されない利用

の3類型となっており、ワーキングチーム報告書、中間まとめを経て、ちょっとずつ表現は変わっているものの、実質的には同じ路線を踏襲した形になっている。

今年の1月当時のエントリーで指摘した*1、ワーキングチーム報告書の中の“意外”とも思えた箇所についても、「(これまでの裁判例等に)個別権利制限規定の解釈上の工夫や民法上の一般規定の活用等の手法により、妥当な結論を導いたと考えられる事案が一定程度存在する」という評価がほぼそのままのカタチで維持されていたり、「非営利性要件」に対する消極性や、著作者人格権との調整等に関する記載の不十分さ、といった点がそのままだったりして、結局どこまで詰めた議論ができたのかなぁ・・・という思いも若干あるのだが、

「著作物の利用に関する社会通念や、また、今後も確実に予測される社会の急速な変化及びそれに伴う著作権を取り巻く環境の変化に対し、適切かつ迅速に対応していくためには、我が国の社会や法体系等を十分に踏まえた上で、著作権法の中に新たに権利制限の一般規定を設けることにより、個別権利制限規定で定めていない著作物の利用であっても、権利者の利益を不当に害さない一定の範囲内で著作物の利用を認めることが適当であり、このことは、1条が規定する著作権法の目的にも合致するものと考えられる。」(報告書17頁)

という結論がこの段階で明示されたことの意義は、やはり大きいだろう。

気になるのは、「刑事罰との関係」をめぐる指摘について、各類型について「基準が明確であるとは言い難く、明確性の原則から問題がなお残る」という意見が未だ残っていることや、上記A〜C類型の要件として、

「社会通念上著作権者の利益を不当に害しない利用であること」

を追加すべき、と提言していることで、これらの事情が、実際に条文化されるまでどんな規定になるか分からない、という危惧を若干抱かせてくれたりもするのだが、その辺は見るまでのお楽しみか。


正直言って、フェア・ユースに関する一般規定導入が本格的に議論され始めた頃の、華やかなりし時代の記憶が残っている人々(自分も含め)にとっては、今回の“たった3類型”の「一般規定」はいかにも物足りなく映るだろうし、今回予想される改正がさらなる一般規定拡充に向けた一里塚になるのか、それとも、他の類型の「フェアユース」主張を封殺する方向に機能するのか、今の時点では何とも言えないところはある。

だが、

「長年動かなかった岩がほんの僅かでも動いた」

ということの重みは、しっかり受け止めるべきなんじゃないかな、というのが現時点での自分の感想なわけで。
後は、改正案を提出するタイミングで、国会がきちんと機能していることを願うのみである。


なお、上記、文化審議会著作権分科会の方針を伝える記事の直後には、「日本新聞協会など4団体」が、導入に反対する意見書を提出した、という記事も合わせて掲載されている。

これまでの動き*2の中で、6団体→14団体と来て、今回の意見書が「4団体」の連名にとどまったのは、はてどういう事情なのだろう?と首をかしげたくなるところもあるのだが、名を連ねている団体はいずれもツワモノぞろい・・・*3

この辺の動きも、機会があれば追って取り上げることにしたい。

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