だから言わんこっちゃない。

この年末になって、著作権実務(というか、録音録画補償金実務)に極めて大きな影響を与えるような判決が、東京地裁で出された。

「デジタル放送専用のDVDレコーダーなどの録画機器を巡り、著作権団体の私的録画補償金管理協会が東芝を相手取り、録画機の売り上げに応じて著作権料(私的録画補償金)約1億4千万円を支払うよう求めた訴訟の判決が27日、東京地裁であった。大鷹一郎裁判長は「メーカーが著作権料を集めて協会に支払うことは、法的強制力を伴わない抽象的義務にとどまる」として請求を棄却した。今回の判決を著作権政策全般に影響を及ぼしそうだ。」(日本経済新聞2010年12月28日付朝刊・第9面)

今年はフェアユースをめぐる議論の陰に隠れて、そんなに話題になることもなかった録音・録画補償金問題だが、思い返せば昨年著作権業界で一番ホットだったのは、この話題。

地デジ移行前年、ということで、対応テレビとともにDVDレコーダーもバカ売れしていただけに、SARVH(私的録画補償金管理協会)としては何としても勝ち戦にしたかったのだろうが、結果は案の定・・・である。

この訴訟が始まる前、このブログでは、著作権法の明文の規定を越えた解釈論を主張するSARVH側の姿勢を散々皮肉ってきた。

「本当にやるらしい」(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20091103/1257267467
東芝は日本でも戦っている」(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20091009/1255268806
「拳を振り上げるのは自由だが・・・」(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090511/1242057836

SARVHの強気の姿勢の背景には、訴訟の一つの大きな争点だった、

「「デジタル放送専用録画機」が補償金の対象機器かどうか」

という点に関して、文化庁課長の“お墨付き”があったことが大きかったのだろう。

だが、それ以前の問題として、そもそも著作権法104条の5の解釈上、メーカーが法的な補償金支払義務を負うのか、という点はかなり怪しかった、・・・というか、制度趣旨からしても、法令の文言上も、SARVH側の請求が認められる可能性は限りなく低かった。

もし仮に、「デジタル放送専用録画機」が「補償金の対象機器」であることが認められたとしても、そもそもメーカーに補償金支払いを法的に強制できない、という結論が出されてしまえば元も子もなかった*1わけで、いきなり裁判に訴える、というやり方は、やはり稚拙だったとのそしりを免れえないだろうと思う。

記事によれば、あの高名な久保利英明弁護士が、

「制度が形骸化すれば、権利者が個人から補償金を取り立てなくてはならなくなる」

と今回の判決を批判する趣旨(?)のコメントをされているようだが、実際の制度がそういうことになっているのだから、それは仕方ないだろう、というほかない*2


ちなみに、記事を読む限り、「対象機器」該当性については、

「デジタルDVDレコーダーは、利用者が著作権料を負担すべき機器に該当する」

という判断が示されているようだから、勝訴した東芝としても手放しで喜べるような状況ではないのだろうけど、SARVH側が控訴すれば、またもう一ラウンド争える可能性は出てくるわけで、その辺も含めて今後の展開が見どころである。


*なお、年末ということもあって判決文はまだ最高裁HPにアップされていないようなので、年明け以降、またキャッチアップしていきたいと思う。

*1:SARVH側としては、消費者に対して直接請求をかける、という非現実的な策を採らざるを得なくなるし、その範囲は「デジタル放送専用録画機」に限られない極めて広範囲な機器に及ぶことになる。

*2:著作権法30条、104条の4が存在する限り、立法論としてはともかく、解釈論としては、「個人から取り立てることが制度趣旨に反する」という結論は導きようがないわけで、賢明な久保利弁護士らしからぬコメントだと思う。

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