「商品陳列デザイン」は保護されるのか?〜法と仁義の狭間で・Part2

「店舗外観」は保護されるのか?というタイトルで、我が国では珍しい“トレード・ドレス”をめぐる不競法事案を紹介したのは、4年前の夏のことだった*1

地裁、高裁と原告が連敗したことで、上記のケースについては事実上の決着が付いてしまったわけだが、暫く月日が流れた2010年の末に、あの時と同じ大阪地裁第21民事部で、再び“日本版トレード・ドレス紛争”といえるような事案の判決が出されている。

大手企業同士の争いの割には、報道等もあまりなされなかった事案ではないかと思うのだが、興味深いこの事案について、ここで取り上げてみることにしたい。

大阪地判平成22年12月16日(H21(ワ)第6755号)*2

原告:株式会社西松屋チェーン
被告:イオンリテール株式会社

原告は言わずと知れた、全国にチェーン展開している乳児・子供用品店。
被告は被告で、イオン、ジャスコといったブランドで小売店舗を全国展開している会社。

このような大手企業同士が、がっぷり四つで組み合った本件事案の概要を端的にまとめると、

「原告店舗でべビー・子供服の陳列のために使用している「商品陳列デザイン」が、原告の営業表示として周知又は著名であるとして、不正競争防止法(2条1項1号又は2号、3条1項)に基づき、原告が、特定の被告店舗において使用されている被告の商品陳列デザインの使用差し止めを求めるとともに、不競法又は一般不法行為に基づく損害賠償等*3を請求している事案」

ということになる。

原告は、原告の「商品陳列デザイン」が、

「平成9年頃から長期間にわたり継続的に使用されたもの」

であり、その結果、

「需要者が商品陳列デザインを目にした場合、「いかにも西松屋らしい」という印象を視覚的に得ることになり、単なる商品の陳列方法たる意味を超え、出所表示機能を獲得した営業表示となっている」

ものである、と主張した。

また、原告は、

「現在の商品陳列デザインに到達するまでの間に合計6回の店舗改装を行い総額1億1878万円余りの費用を費やすとともに、「レイアウトマン」という商品陳列デザインを専門的に扱う担当者を置く等の管理体制を整え、商品陳列デザイン徹底のためのコントロールを続けている」

ことから、商品陳列デザインが極めて重要な営業資産になっている、ということも主張しており、通知書による警告(平成21年4月27日付け)をも無視して模倣を継続した被告に、原告の営業上の利益を害する意図があったことは明らか、等と、被告の行為が不法行為にあたる旨も主張した。

これに対し、被告は、

「原告が「営業表示にあたる」と主張している部分は、店舗の一部に過ぎず、そこだけを取り出して「営業表示である」とする主張は誤りである」
「原告の商品陳列デザインはありふれたものである上に、そこに意匠的な要素はなく、単に商品陳列「方法」と称すべき機能的なものであるに過ぎない」
「被告店舗において使用されている商品陳列方法は、原告商品陳列デザインと類似しない」
「被告は原告の商品陳列方法を参考にしたに過ぎず、被告の行為は不法行為を構成しない」

等の反論を行って裁判所の判断を仰ぐことになった。

裁判所の判断

さて、このような当事者の主張を受けて、大阪地裁はどのような判断を下したのか?

結論から言えば、原告の請求はすべて棄却されたのであるが、その判断に至るまでの過程で、様々な観点からの検討がなされており、なかなか興味深い。


まず、「商品陳列デザインが不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示にあたりうるか」という命題に対し、裁判所は迷いを見せつつ、以下のとおり、「極めて特徴的な場合にはあたりうる」旨を判示している。

ア そもそも商品陳列デザインとは,原告も自認するとおり「通常,いかに消費者にとって商品を選択しやすく,かつ手にとりやすい配置を実現するか,そして,如何に多くの種類・数量の商品を効率的に配置するか,などの機能的な観点から選択される」ものであって,営業主体の出所表示を目的とするものではないから,本来的には営業表示には当たらないものである(なお被告は「商品, 陳列方法」と称すべき旨主張しているが,本件で問題であるのは,特定の陳列方法を用いた商品陳列の結果として作り出される商品陳列の外観であるから,以下においては,その意味で,原告の表現に従った「商品陳列デザイン」という表現を用いる。)。
イ しかし,商品陳列デザインは,売場という営業そのものが行われる場に置かれて来店した需要者である顧客によって必ず認識されるものであるから,本来的な営業表示ではないとしても,顧客によって当該営業主体との関連性において認識記憶され,やがて営業主体を想起させるようになる可能性があることは一概に否定できないはずである。したがって,商品陳列デザインであるという一事によって営業表示性を取得することがあり得ないと直ちにいうことはできないと考えられる
ウ ただ,商品購入のため来店する顧客は,売場において,まず目的とする商品を探すために商品群を中心として見ることによって,商品が商品陳列棚に陳列されている状態である商品陳列デザインも見ることになるが,売場に居る以上,それと同時に什器備品類の配置状況や売場に巡らされた通路の設置状況,外部からの採光の有無や照明の明暗及び照明設備の状況,売場そのものを形作る天井,壁面及び床面の材質や色合い,さらには売場の天井の高さや売場の幅や奥行きなど平面的な広がりなど,売場を構成する一般的な要素をすべて見るはずであるから,通常であれば,顧客は,これら見たもの全部を売場を構成する一体のものとして認識し,これによって売場全体の視覚的イメージを記憶するはずである。そうすると,商品陳列デザインに少し特徴があるとしても,これを見る顧客が,それを売場における一般的な構成要素である商品陳列棚に商品が陳列されている状態であると認識するのであれば,それは売場全体の視覚的イメージの一要素として認識記憶されるにとどまるのが通常と考えられるから,商品陳列デザインだけが,売場の他の視覚的要素から切り離されて営業表示性を取得するに至るということは考えにくいといわなければならない。したがって,もし商品陳列デザインだけで営業表示性を取得するような場合があるとするなら,それは商品陳列デザインそのものが,本来的な営業表示である看板やサインマークと同様,それだけでも売場の他の視覚的要素から切り離されて認識記憶されるような極めて特徴的なものであることが少なくとも必要であると考えられる。」(17-18頁、強調筆者、以下同じ)

そして、「ア 原告の営業実績」、「イ 原告商品陳列デザインを除く原告店舗の外観内装等の特徴」、「ウ 原告店舗における営業方法の特徴」、「エ 原告店舗における商品陳列デザインの変遷等」、「オ 原告店舗についての広告宣伝等」、「カ 商品陳列デザインに関するインターネットによるアンケート調査」、「キ 競合他店舗における商品陳列デザイン」といった要素について、認定した事実を列挙した上で、上記「キ」の事実を用いつつ、

「原告商品陳列デザイン1は,「a 商品を,全てハンガー掛けの状態で陳列する。」,「b 床面から少なくとも210?の高さにまで陳列する。」,「c ひな壇状ではなく陳列面を連続して陳列する。」,「d 少なくとも陳列面の3分の2はフェースアウトの状態で陳列する。」,「e 各陳列フックに複数枚陳列する。」,「f 来店者の使用に供するための商品取り棒を,一壁面に少なくとも1本設置する。」という構成要素に分説することができるが,上記(2)キによれば,各構成要素のうちaないしeは,それぞれの構成要素を個別に見れば,原告と同種の衣料品を販売する多数の店舗壁面の商品陳列デザインとして普通に用いられているありふれたものと認められる。そして,これらの構成要素の組み合わせという点で見ても,メガマート平島店(上記(2)キ(イ))及びユニクロららぽーと横浜店(同(ケ))において,上記aないしeの構成要素をすべて備える店舗壁面の商品陳列デザインが使用されており,メガマート一宮店(同(ア))においては,上記aないしc及びdの構成要素を組み合わせた店舗壁面の商品陳列デザインが使用されているのであって,上記aないしeの各構成要素を組み合わせること自体も普通に行われていたものと認められる。」
もっとも,以上の組み合わせに,さらに「f 来店者の使用に供するための商品取り棒を,一壁面に少なくとも1本設置する。」という構成要素を組み合わせた商品陳列デザインは,他店舗においては見られないから,その限度で原告商品陳列デザイン1は,全体として既存店にはない原告独自の商品陳列デザインであるということができる。」
(29-30頁)

といったように、原告が主張する「商品陳列デザイン」の特徴を認定し*4、その結果、

「原告商品陳列デザイン1,2には,原告独自の特徴が認められないわけではないが,それだけでは,顧客にさほど強い印象をもたらすものではないというべきである。」(33頁)

とした。

また、裁判所は、原告の商品陳列デザインが「機能的要素を組み合わせたもの」であることに着目し、

「店舗の運営管理コストを低減するため効率を追求した機能的な原告店舗の売場の他の特徴と調和して「味も素っ気もない無骨」(乙39)とも表現され得る原告店舗の売場のイメージを作り出す一要素」(33-34頁)

になっているものに過ぎない、とした。

そして、これらの過程を経て、

「したがって,原告商品陳列デザイン1ないし3が顧客に認識記憶されるとしても,それは,売場全体に及んでいる原告店舗の特徴に調和し,売場全体のイメージを構成する要素の一つとして認識記憶されるものにとどまると見るのが相当であり,顧客が,これらだけを売場の他の構成要素から切り離して看板ないしサインマークのような本来的な営業表示(原告における「西松屋」の文字看板や,デザインされた兎のマーク)と同様に捉えて認識記憶するとは認め難いから,原告商品陳列デザイン1ないし3が,いずれもそれだけで独立して営業表示性を取得するという原告の主張は採用できないといわなければならない。」
「またしたがって,この原告商品陳列デザイン1ないし3を,いくら組み合わせてみたとしても,同様のことがいえるから,原告商品陳列デザイン1及び2を組み合わせた商品陳列デザイン及び原告商品陳列デザイン1ないし3を全て組み合わせた商品陳列デザインについても,営業表示性を取得することはないというべきである。」
(34頁)

と結論付けたのである*5

一方、不法行為については、「被告において低価格帯の子供服販売を展開するに当たり、原告店舗における商品陳列デザインを参考にしたこと自体を否定していない」という事実を前提としつつも、

原告商品陳列デザインは,店舗の運営管理コストを低減させるという営業方法ないしノウハウが化体したものと見るべきものであって,そもそも特定の事業者によって独占されるべきものではないのであるし*6,被告が原告商品陳列デザインと一部類似したような商品陳列を行っている事実は否定できないけれども,証拠(甲1の1ないし5,乙36)及び弁論の全趣旨によれば,被告がそのような商品陳列デザインを採用した目的は,主としてコスト削減という営業方法として採用したものであって,またその限度で原告商品陳列デザインを参考にしたものと認められる。さらに,そもそもその参考の程度は模倣という程度に至っているわけではない。」
「したがって,被告の行為をもって著しく不公正であり,公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において許されないとの原告の批判は当たっているということはできず,被告の行為が不法行為を構成するということはできない。」(39-40頁)

と、こちらについても原告の請求を退けた。

コメント

本判決は、これまで本格的に争われた実例が乏しかった「商品陳列方法(デザイン)」について、不競法で保護されるか否かの一定の判断基準を示した、という点で、意義のあるものということができる。

細かいことを言えば、営業表示該当性を判断する際の考慮要素(ア〜キ)が、具体的にどのように最終的な判断結果に結び付いているのか、説明が不十分なように思えるのも事実である*7

また、裁判所は、上記「営業表示性」該当性判断に続いて、「仮に、原告商品陳列デザインが、それ自体で売場の他の構成要素から切り離されて認識記憶される対象であると認められる余地があったとしても・・・」と述べた上で、

「原告において売上増大を目的としてされた商品陳列デザイン変更の到達点として確立した原告商品陳列デザインは,商品の陳列が容易となるとともに,顧客が一度手にとった商品を畳み直す必要がなくなり,見やすさから顧客自らが商品を探し出し,それだけでなく高いところの商品であっても顧客自らが取る作業をするので,そのための店員の対応は不要となり,結果として少人数の店員だけで店舗運営が可能となって,店舗運営管理コストを削減する効果を原告にもたらし,原告事業の著しい成長にも貢献しているものと認められるのであるから,原告商品陳列デザインは,原告独自の営業方法ないしノウハウの一端が具体化したものとして見るべきものである。」
「そうすると,上記性質を有する原告商品陳列デザインを不正競争防止法によって保護するということは,その実質において,原告の営業方法ないしアイデアそのものを原告に独占させる結果を生じさせることになりかねないのであって,そのような結果は,公正な競争を確保するという不正競争防止法の立法目的に照らして相当でないといわなければならない。」
「したがって,原告商品陳列デザインは,仮にそれ自体で売場の他の視覚的構成要素から切り離されて認識記憶される対象であると認められたとしても,営業表示であるとして,不正競争防止法による保護を与えることは相当ではないということになる。」(38頁)

と、本件の「商品陳列デザイン」については、なお不競法による保護を与える余地はない、と明言しているのだが、「コスト削減効果をもたらす陳列方法」といっても、その選択肢は“原告の商品陳列デザイン”以外にも考え得るように思われ、“コスト削減”という営業方法的な観点が入っているだけで、常に同様の結論になってしまうかのようにも読めてしまう上記判旨に、突っ込む余地は十分あるのではないかと思う*8

ただ、これまで「アメリカでは保護された例があるんだけど・・・」的なもやもやした解説しかできなかったこの分野で、国内法の解釈に基づく具体的な議論ができる素材が提供されたことの意味は、やはり大きい。

できれば、原告にはもうひと踏ん張りしていただいて、高裁の判断まで示してもらえると、なお面白いと思っているのであるが、果たしてどうなるか*9

本件の今後の展開に注目するとともに、これを機に、“トレード・ドレス”をめぐる議論が盛り上がることも、合わせて期待したいところである。

*1:まいどおおきに食堂対めしや食堂、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20070806/1186332281

*2:第21民事部・森崎英二裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101227182046.pdf。なお、判決は16日付けだが、PDFのファイル名からすると、アップされたのは年末ギリギリの27日だったようだ。

*3:請求額は2億2725万円である。

*4:なお、原告は1〜3の3種類の「商品陳列デザイン」を営業表示として認められるべきものとして主張していたが、「商品陳列デザイン2」については、上記「1」と同様の点に限って“原告デザイン独自の特徴”を認定し、「商品陳列デザイン3」については、特別な特徴があるとはいえない、と認定した。

*5:なお、原告の依頼を受けた調査会社が行った「インターネットによるアンケート調査」の結果(上記カ)によれば、「被告店舗の商品陳列方法」を見て「原告」の店舗と誤認した回答者が相当数存在していたが、裁判所は多くの紙幅を割いてアンケート結果を分析し(34-37頁)、原告主張の「商品陳列デザイン」以外の要素が回答に影響を与えていること等を指摘したうえで、「このアンケート結果に基づいて、・・・営業表示性を取得していると判断することはできない」(37頁)と結論付けている。

*6:この点については後述。

*7:詳細に検討を加えられた「カ」(アンケート結果)と、原告商品陳列デザインの特徴をあぶり出すために用いた「キ」(他店舗の陳列方法)以外の要素については、考慮要素としてどのように機能したのか、がイマイチ分かりにくい(原告に有利、と思える材料も結構あるだけに・・・)。

*8:この判断は、最終的に一般不法行為の成否を判断するための前提にもなっているだけに、なおさら上記のような判断過程の“安直さ”が気になるところではある。結論自体はこれで良いのだと思うのだけれど・・・。

*9:本件では、被告が商品陳列方法を考える上で原告のデザインに依拠したことは、明確に争われていないように思われる上に、「被告ショッピングセンター内に出店した原告店舗の商品陳列デザインと、同一ショッピングセンター内に出店した被告店舗の商品陳列方法が類似していた」という事情もあるようだから、一般不法行為の土俵で本格的に戦えば、僅かな額の損害賠償くらいは認められる可能性がないともいえない。特にかつての“塚原コート”だったら・・・といったことを考えると、なかなか面白い。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html