一時、このブログでも頻繁に取り上げていた「ひこにゃん」問題だが、ここに来てまた火を噴いてしまっているらしい。
「滋賀県彦根市のキャラクター「ひこにゃん」の図柄使用について原作者と市が争っている問題で、ぬいぐるみ=写真=などの立体グッズ製作を市が業者に許可するのは、両者が交わした調停に違反すると大阪地裁が認定したことが、8日分かった。」(日本経済新聞2011年1月9日付朝刊・第31面)
社会部の記者が書いた記事のようで、全体を通して読まないとどうも要領を得ないのだが、記事を整理すると、↓のようなことになるらしい。
(1)「ひこにゃん」の立体のぬいぐるみ等の制作を市が業者に許諾することについては、原作者と市の間で元々対立があった。
(2)彦根市が、ひこにゃん類似グッズを原作者が販売する行為について、平成22年6月、大阪地裁に仮処分を申し立てた。
(3)平成22年12月24日付けの仮処分決定で、大阪地裁が彦根市の申し立てを却下した。そしてその理由の中で、彦根市による立体グッズ製作許可行為を「平成19年12月の調停合意に違反する」と指摘した。
(4)平成23年1月、彦根市が大阪高裁に即時抗告。
思えば、近所のファミマで、「ひこにゃん」ではないが「ひこにゃん」に似ている何か、が販売されているのを見かけたのは昨年のことだったか。
“手打ちでめでたしめでたし”と報道されていた平成19年12月の彦根簡裁での調停合意内容とその伝えられ方が何となく腑に落ちないものだったゆえに*1、後々禍根を残さなければ良いなぁ・・・と思っていたら、案の定であった。
* * * *
当時伝えられた調停合意内容を見る限り、著作者人格権は原作者に留保されているものの、著作(財産)権そのものは、市側に帰属する*2ということになっている。
そして、原作者に留保された著作者人格権(同一性保持権)の関係で、市側に「3種類の原画イラスト」以外の改変されたイラストの使用が認められない、という前提にたっても、「3種類の原画イラストを立体化した」グッズの製作は、市が権利を有するイラストに係る翻案権行使の一環として認められる、という解釈は、本来成り立ちうるはずで、だからこそ、彦根市としてはぬいぐるみ等のグッズにも引き続き許可を出していたのだろう。
それが、大阪地裁のまさかのダメ出し・・・。
あくまで、彦根市側が申し立てた仮処分の決定理由中での説示、ということだろうから、現時点で直ちに彦根市の許諾に法的な縛りがかかる、ということにはならないのだが、大阪高裁でも同様の判断が示され、そのうちに原作者側が反訴でも提起しようものなら、彦根市としては一気に窮地に立たされてしまう。
調停を行っていた段階で、既にぬいぐるみは出回っていたのだから、そこまできちんと特定して調停条項を作れば良かったのに・・・といったところで後の祭り。
いつになったら終焉するのか分からないこの争いを見ていると、
「かわいいキャラには毒がある」
という業界格言がいかに的を射たものか、つくづく思い知らされる。
なお、自分は、キャラクターの使用をめぐって原作者と利害対立が生じたときの対応としては、
「潔くそのキャラクターの使用をあきらめる」
か、
「追加の報酬を払ってでも、原作者のご機嫌をとってしっかり手を結ぶ」
かのどちらかしかない、と思っている。
今回は一方当事者が自治体だけに、予算面等で原作者を満足させるだけの手立てを打てなかったのかもしれないが、「人気があるから・・・」という理由だけで、原作者との折り合いも付けられずにズルズル使い続ける、というのでは、せっかくの“イメージキャラクター”で、「イメージダウン」という最悪の結果を招くことにもなりかねないわけで・・・。
いろいろ考えさせられるところは多い。
*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20071217/1197821851
*2:当時は「祭の実行委員会」だが、イベントが終わった段階で、然るべき機関、組織に権利が移されていることと思う。