近頃不思議に思うこと。

昨年の後半くらいから、いろいろとネタが上がっていた「新卒就職活動見直し」について、経団連がようやく方針を決めたようだ。

日本経団連は12日、大学新卒者の就職活動の見直しを会員企業に要請すると発表した。2013年4月の入社予定者から対応を改め、会社説明会やインターネット登録を大学3年(大学院は修士1年)の12月1日以降に始めるよう求める。就職活動の早期化や長期化を避けるため、開始時期を2カ月程度遅らせる。」(日本経済新聞2011年1月13日付朝刊・第3面)

商社団体がアホなパフォーマンスを見せた時は、いったいどうなることかと思ったが*1、さすがに他の会員企業の反発は強かったようで、試験や面接の実施時期については、従来通り「4月1日以降」ということで落ち着いた模様*2


それにしても不思議なのは、ここに来て、

「早くから就職活動をするのは悪いことだ」

という論調が、日経紙上で定着しているということ。

少しでも学生を大学に来させたい、という観点からの大学関係者の言い分は、ひとまず置いておくとして(心情としては理解できなくもないから)、

「これでは大学生は、学業に振り向ける時間を増やせそうにない。在学中に専門性を身につけてもらい、日本の担い手を育てようという問題意識が、企業にどこまであるのだろうか」(同上)

というセリフが、世の中のことをよく分かっているはず(?)の日経の編集委員氏から出てくることに、自分は違和感を隠せない。

今の大学の教育プログラムや教育環境を考えれば、真面目に教室に通って机にかじりついて授業を受けたところで、得られる「専門性」なんてものはたかが知れているわけで、その程度の知識は時間が経てばすぐに雲散霧消するし、会社に入って数カ月必死で仕事に取り組めば、同じレベルの「専門性」はすぐに身に付く*3

ゆえに、昔っから、大学は「専門性を身に付ける場」としては位置付けられていなかったし*4、社会に出てから本当に必要になること(論理力、コミュニケーション能力、マネジメント能力等々)は、“あらかじめカリキュラムに組み込まれた教室でのあれこれ”以外のところでの実体験の中で学ぶ、というのが言わば“正道”だったわけで、企業の採用選考においても、面接官の多くは、「教室の中での経験」よりも、「教室以外での経験」の方に遥かに高い関心を示している、ということは、一度就職活動をした人であれば容易にわかることだろうと思う*5

最近の学生さんたちは昔に比べて遥かに真面目なので、就職雑誌に時折出てくるような人事担当者のコメント(「専門性のある人材を求めています」云々)を真に受けて、「何が何でも勉強して専門性を・・・」などと追いつめられている人も中にはいるのかもしれないが、ああいうコメントは真に受けてはいけない*6

大体、採用活動をしている会社の人間自体が、「専門性を学ぶ」こととは無縁な学生生活を送ってきた人たちばかりなのだから(笑)、スペシャリスト採用ならともかく、説明会を受けて入ってくるような一般の学生が、「一生懸命勉強して「専門性」を身に付けて入社してくれること」を心の底から期待しているはずもないのである。

さすがに、あまりに過熱化すると、本来一番貴重な経験ができるはずの、サークルやらアルバイトやら留学やら・・・といった経験を積む機会まで失われかねないので、そこに食い込まないように一定の配慮をせよ、というのはまだ分かるけど*7、「学生は学業に専念すべき」という使い古された“大義名分”を盾に、採用活動の実態を批判するのは、ちょっとお門違いだなぁ、と思う。

そして、怪しげな自主規制を課せば課すほど、「表」と「裏」が入り混じって、不明朗な採用活動が水面下でまかり通るようになってしまった、という、過去の忌まわしい歴史を、決して繰り返すべきではない、というのは、これまでこのブログでも何度か主張してきたとおりである*8

* * * *

なお、ちなみに、今回話題になっている「説明会」(採用活動解禁日以前に行われるもの)についてだが、基本的には、

「他に予定があるなら無理して参加する必要はない」

という類のもの、と考えて良いのではないかと思う*9


自分の会社なんて、若手社員を根こそぎ動員してコストをかけた説明会をやる割には、4月以降の採用選考時に「説明会に来ていたかどうか」ということは一切評価の対象にしていないし、同様のスタンスを取っている会社は多いと聞く。

「説明会に出ること」が採用活動に向けたエントリーの条件になっているかどうかは、問い合わせればすぐにわかる話なのだから、そんなに焦ってインターネットで申し込みをして、3年生の秋冬から駆けずり回る必要なんて、本来全くないのである*10

以前、このブログで書いた「シュウカツの心得」の「その7」として、追加しておくこととしたい*11

(参考)
前編:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080320/1206035284
後編:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080421/1208715338

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20101119/1291566071

*2:個人的には、ここを「3月1日以降」にまで引き上げた方が学生にとっての負担はむしろ軽くなったんじゃないかと思うのだが・・・。

*3:もちろん大学院レベルになれば状況は異なってくるが、本当に実務に結び付くような専門性の高い教育を受けている学生(理系の院生とか法科大学院生とか)の中で、リクルートスーツの一般学生に混じって、苦労して説明会に足を運ぶ必要性に迫られている人が一体どれほどいるというのか?大いに疑問を感じる。

*4:建前はともかく、世の中一般的な認識としては。文系の場合は特に。

*5:そのこと自体がいいかどうか、という議論は当然出てくるだろうが、自分がいた頃に比べてもより一層大衆化してしまった「大学」(学部)に専門教育の場としての機能を求めること自体がもはやナンセンスだと思うので、個人的な見解としてはそれでいいんじゃないかと思っている。本当に専門知識を身に付けたければ、しばらく働いてから大学院に行く手だってあるわけで、それで十分だろうと(そもそも実体験に裏打ちされない「専門性」ほどいかがわしく、有害無益なものはない)。

*6:時代のトレンドに合わせて適当にそれっぽいことを言っているだけだから(笑)。

*7:もっとも、人間って素直なものだから、本当に身になる活動に真摯に打ち込んでいる人であれば、それを犠牲にするほど、シュウカツにのめり込むこともないのが普通だろうと思う。自分の経験からしても。

*8:就職説明会すら、7月1日(6月1日)以前には開くことができなかった1996年以前は、リクルーター等の会社とのパイプにアクセスできない多くの学生が、就職説明会を受ける機会すら与えられないまま、実質的に門前払いされていた(正確に言うと解禁日に「就職説明会」を開いた段階で、採用枠のほとんどが埋まっており、そこにのこのこ出かけていっても、宝くじのような確率でしか採用される可能性はなかった)ことを忘れてはならない。

*9:3月以降に開始される「説明会」については、位置づけがちょっと微妙なので、行きたいという気持ちがあるならば、念のため出て見た方が無難かもしれないが。

*10:もちろん、説明会に行くと、社員と話ができる機会等もあるから、どうしても行きたい会社について、面接に備えて「やりたいこと」や「志望動機」を明確化するために足を運ぶのは悪いことではないと思うが、「公式の説明会」という場面設定である以上、そこで聞ける話が“会社の実態”をすべて表しているなんて思っちゃいけない、というのは、言うまでもないことだろう(自分の場合、プライベートなOB訪問なんかだと、かなり辛辣に会社の悪いところを指摘したりもする(もちろん、相手に見どころがある場合の話だが)が、さすがに説明会の場だと、それなりに控えめに話すようにしている)。その意味でも、説明会参加がその会社に就職するためのmustな条件だとは、自分は思わない。

*11:「シュウカツの心得」は、就職戦線が悲惨の極致に達していた「平成21年採用予定組」に向けて書いたエントリーだが、あれから3シーズン経った今でも、基本的にはあてはまる内容だと自分では思っている。