日本の裁判所の命令は“軽い”のか?

プリンスホテル日教組教育研究全国集会会場使用取消事件については、高裁判決が出された、というニュースを先日ご紹介したところであるが*1、日経紙の法務面が、「独特な」切り口からこのニュースを紹介している。

「この紛争で浮かび上がったのは日本の「司法判断の軽さ」だ」
日本経済新聞2011年1月17日付朝刊・第16面)

という一点に集約されてしまうようなこの記事。

「裁判所の仮処分命令を無視したプリンスホテルに対する(損害賠償以上の)制裁がない」ということを指摘した上で、「英米における法廷侮辱罪のような、司法判断無視に対する抑止制度が我が国にないのはなぜか?」についての分析で締める、という構成になっている。

執筆者が三宅伸吾編集委員、というのは、以前、同氏が同じ欄でプリンスホテルの主張にも一定の理解を示すような記事を書いていたこと*2に鑑みると、ちょっと不思議な気はするのだが、それはあまり突っ込まないでおくことにしよう。

ただ、個人的には、このコラムで書かれているほど「裁判所の命令無視」が我が国において軽いことなのか?という点に大いに疑問を感じているところ。

というのも、件のプリンスホテルの訴訟では、地裁が“実質的には原告の言い値丸のみ”といった感のある、強烈な額の損害賠償請求を認容しているし、高裁においても、今回のコラムに書かれているような、

日教組の非財産的損害を財産的損害の「3倍に相当する8547万円と認めるのが相当」」

といった懲罰的損害賠償と見まがうかのような判決が出されているとのことで*3、こういったエキセントリックな判決が出された背景に、「仮処分命令無視」という被告の“重罪”に処すべき振る舞いがあった、ということは想像に難くない。

もちろん、単なる損害賠償額のかさ上げや、金銭面からのアプローチにとどまる間接強制といった手法よりも、“身体拘束”を伴うような制裁の方がインパクトが強いのは間違いないのだけれど、コラムで指摘されるほど、「裁判所の命令無視」に対する制裁が弱いか、といえば、大いに疑問を感じたところではある。

我が国の場合、民事訴訟における偽証や証拠のねつ造といった問題が散見されることがかねてから指摘されており、そういった行為に対する制裁が弱い、という批判は確かに以前からあった。

だが、そういった訴訟手続上の話を越えた「命令無視」というレベルになってくると、さすがに裁判所も甘くない。

プリンスホテルの訴訟は、まさにそれを示した好例だと自分は思っていただけに、個人的には上記コラムにおける“批判”にはちょっとした違和感を覚えているところである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20101126/1292035530

*2:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20091116/1258963475参照。

*3:ちなみに自分は高裁判決にこのような判旨が散りばめられていたことを、本コラムを読んで初めて知った。前後の文脈も踏まえて判決文を読まないと断定的なことは言えないのだけれど、個人的にはちょっとした衝撃だった。

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