不思議な違和感〜まねきTV、ロクラク最高裁判決に関する日経紙特集を読んで

フェアユース」には懐疑的でも、「番組転送サービス」に関しては知財高裁判決への執着心を隠せない日経新聞

先日の社説に続き*1、法務面にも、「テレビ番組の転送事業/最高裁「逆転違法」」というタイトルで、知財高裁判決と最高裁判決を見比べ、

「判決はサービスが合法か違法かの基準があいまいとの指摘もあり、映像や音楽を流通させる技術革新を萎縮させる恐れもある。」(日本経済新聞2011年2月7日付・第17面)*2

というトーンでまとめた記事が掲載された。

事例の紹介から丁寧に書かれており、全体的には良く調べて書かれているな、という記事ではあるのだが、

知的財産権分野の裁判では、専門知識を駆使して緻密に精査する知財高裁に対し、最高裁は社会や立法への影響も含め、より幅広い見地から判断を下すのが通例とされる。」*3
「ただ今回は、法曹関係者の間では「知財高裁の方が時代の流れに配慮した」(知財訴訟を多く手掛ける弁護士)との声が聞かれる。」
(強調筆者、以下同じ)

と述べるくだりなどは、先日の社説と比べてもさらに踏み込んだ印象を受けるもので、思い切ったなぁ・・・というのが率直な感想だ*4

そして、自分が一番違和感を抱いたのが、以下のくだりである。

「この最高裁の判断について文化庁著作権関連の立法に携わる担当官は知財高裁の判断に比べて抽象的。『入力』と言っても、業者はどこまでの関与ならセーフなのかという基準が不明確なままでは、技術開発の委縮は避けられない」と困惑する。」

メーカーの方のコメントならともかく、文化庁の担当官が、権利者勝訴の最高裁判決に疑義を投げかけるとは、何とまぁ大胆なことか*5

一応、記事の中では、件の担当官のコメントの真意が、↑に続いて解説されている。

「2つの訴訟は、行為主体の認定や行為自体の違法性の判断で新たな基準を打ち出すと期待されていた。文化庁「判決を待ち、コンテンツ流通の新規参入を促すためにサービスが合法か違法か予見しやすい立法をしたいと考えていた」著作権課)という。」
「ところが最高裁判決は基準があいまいなまま直接侵害の範囲を広げた格好になったため、同課は「間接侵害にあたる事例そのものがほとんどなくなり、議論を白紙に戻す可能性もある」という。」

一見、何となく納得してしまいそうな説明ではあるのだが、今の著作権法には「直接侵害」に関する規定しかないのだから*6、裁判所が侵害の成否を判断するとしたら、「直接侵害」にあたるかどうか、という判断をするしかない*7

それゆえ、最高裁がいずれの結論に転ぼうとも、その「基準」を「間接侵害違法化立法」に活用するのは難しかったと思われるわけで*8、上記のような「担当官のコメント」にはちょっと解せないものがある。

むしろ、かつて日経紙の「法務インサイド」で、ロクラク2を適法とする知財高裁判決が出たことで「間接侵害違法化立法がストップしてしまった!」と文化庁サイドが嘆いていたことが紹介されていたことを考えると*9、今回の一連の最高裁判決は、文化庁が立法を進める上で極めて好都合であるはずで、それにもかかわらず、それが上記のようなコメントに化けてしまう、というのは、何とも不思議な話*10

今回の判決の評価等も絡めて、この先の「間接侵害」型事例にかかわる議論は迷走していくことが予想されるだけに、今後の文化庁の動きも、しばらくウォッチしてみたいところではあるのだが、いずれにせよ、1年後、まったく違うコメントが出されることにでもならない限り、今の違和感は解消されそうもない。

なお、今回の特集の最後は、

「放送局自身のためにも、日本の番組を海外に効率的に流通させる権利処理の仕組みを行政、通信事業者、その他権利者らが追求する流れを後退させてはならない」

という一文で締めくくられている。

いつもの論調ではあるのだが、いつか巡り巡って・・・ということにならないように、新聞コンテンツについても、利用者のニーズに即した流通、利用スキームの構築に努めていただきたいものだなぁ、と思う次第である*11

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110201/1296966655

*2:瀬川奈都子記者担当。

*3:もっとも、自分が記憶する限り、最高裁に行ってまで争われるような知財分野の事件というのは極めて少ないし(最近増えたような印象はあるものの、それでも最高裁が実質的な判断を下すのは、年に3〜4件くらいにとどまっているのではないかと思う)、知財高裁の判断を最高裁がひっくり返した事例、となるともっと少ないから、「通例」と言うほど双方のスタンスが固まっているのかどうか、疑問なしとはしない。

*4:ロクラク2の知財高裁判決の「技術革新の歴史」発言のくだりをポジティブに捉えている、というのも面白い(知財高裁判決の結論を支持する人でも、あのくだりに関しては「ひいた・・・」という感想の方が多いくらいなのに。

*5:コメントした担当官も大胆だし、それを掲載する日経紙の記者も大胆だ、と見たとき思った。

*6:「間接侵害」を独立した侵害類型として違法とするかどうかは、あくまで立法論に過ぎない。

*7:それゆえ、先日のロクラク2の最高裁判決が出た際にも、当ブログでは「間接侵害事案」としてではなく、(いわゆる)「間接侵害」事案、という紹介の仕方をしている。

*8:もちろん補足意見、少数意見等で「間接侵害規定があったら・・・」という仮定の下での立論がなされる可能性はあったが、それに期待する、というのもちょっとどうかと思う。

*9:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20091201/1259681748

*10:さては、議論が進んでいかないことの言い訳か・・・?なんて、うがった見方もしてみたくなる(笑)。

*11:記事を書いた担当記者に言っても仕方ない話なのかもしれないけど。

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