取るのは簡単。とはいえ・・・

本人にとっても元所属していた会社にとっても、そして、「依頼主」と疑われる会社にとっても、不名誉なことこの上ない、そんなニュース。

弁理士の資格がないのに、報酬を受け取って商標登録の出願書類を作成していたとして、神奈川県警戸塚署が、横浜市戸塚区の男性コンサルタント(68)を弁理士法違反(無資格)の疑いで5日書類送検したことが、捜査関係者への取材で分かった。」(日本経済新聞2011年4月5日付け夕刊・第15面)

これだけなら、まぁありそうな話だなぁ(記事になるのは珍しいけど)、で済むのだが、この記事が目を引くのはその次のくだり。

コンサルタントNECのコーポレートブランド統括部長やブランドマネジメント統括マネージャーなどを歴任。知財関係者の間で名前が知られている。2002年に退職後、個人事務所「発明ブランディング研究所」を開設し、ネーミング考案のほか、企業や個人発明家へのコンサルティング、講演などをしている。社団法人「発明学会」の役員も務めていた。」

何のために名前を匿名にしたのか分からないくらい、被疑者の経歴を細やかに掲載した日経紙の報道スタンスにはある意味感服せざるを得ないのだが(苦笑)、一発で個人特定されてしまう被疑者にとっても*1、処分的には、10年近く前に退職した人間の“元勤務先”として名前が出てしまった会社にとっても、何とも“痛い”話になってしまったのではないかな・・・と思う*2

幸か不幸か、一応は知財関係者でありながら、自分はこの御方の名前自体は知らなかった。

だが、21世紀初頭、“知財バブル”的現象が起きていた頃、“ブランド”戦略を打ち出して名を挙げたいくつかの会社の中に「NEC」という会社も含まれていたことは良く覚えている。

ネット上にはこんな古い記事↓も残っていたりするのだが、
http://www.nikkei.co.jp/ad/cb/brand/main10_3.html
要するに、あの頃、かの会社にいてブランド管理を担当していた方々の中に、ブランドの話を「戦略論」として組み立てるのが上手な方がいたのは確かなのだろう*3

それが、10年経って、こんな形でメディアに登場してしまう、というのは不幸以外のなにものでもない*4

ついでに言うと、「書類送検容疑」に関する報道の中で、件の被疑者に対して報酬を支払った「依頼主」として登場する、

「同市(横浜市港北区の大手カメラ関連会社など3社」

も、十分に特定性のある情報だけに、残念なことこの上ない。

弁理士法75条違反の罪(79条3号)は、あくまで無資格行為者を処罰するだけで、仮に被疑事実どおりの事実が認められるとしても依頼主が直接的に処罰を受けるわけではないが、これらの会社の担当者は、既に散々参考人として取調べに応じなければならない状況になっていたはずだし、加えてこんな報道まで出てしまった、ということになると、「残念」では済まされないかもしれないのだから・・・。


ちなみに、件の被疑者の方もやっておられたような、ネーミングの選定・考案から、商標出願まで一手に引き受ける、というのは、近年のブランドコンサルティング会社の標準的なサービスといっても過言ではないと思う。

もちろん、普通のコンサルティング会社であれば、必ず提携している弁理士がいて、その弁理士を通じて手続きを進めることになっているのだが、商標っていうのは、“出して権利を取るだけ”なら案外簡単にできてしまうものだから*5、そういうルートで出願される商標っていうのは(たとえ本物の弁理士が出願代理人になっている場合であっても)、態様や指定商品/役務が安易に設定されていたりして、会社の商標部門がきちんと目を光らせていないと結構危なかったりもする。

「ブランド」のプロを自負していたであろう被疑者としては、そういう事情を熟知した上で、「自分でやっても同じだ」と思ってしまったのかもしれないし、それを一概に“不合理な過信”とは言えない状況があるようにも思えるだけに、いろいろと複雑な思いはが残るところである*6

*1:仮に報じられていることが事実だとしても、前科がなければ起訴猶予になる可能性はあるし、起訴されるとしても略式で罰金くらいの事案だと思われるので、本来ならここまで晒し者になることはないだろうに・・・。

*2:なお、コンサルはともかく、「出願代行」を「業として」行っていたかどうかは報道だけでは良く分からないし、報道されているように、「ネーミングと商標出願代行」で「1件10万円」というのであれば、そもそも後者について「報酬を得て」やっていたと言えるのか(中身にもよるが、「10万円」というのは、ネーミングの対価だけだとしても安い部類に入るのではないかと思う)。

*3:コンサル会社から知恵を借りていたようなところもあったのだろうが、社内にもある程度“宣伝”が上手な人がいないと、こういう「戦略論」はなかなか表に出せないものである。

*4:当時の意気込みとは裏腹に、今では会社自体の勢いも陰りがちと思われるだけになおさら・・・。

*5:その代わり、いざという時に“使う”のは非常に難しいのだけれど。

*6:もっとも、「ブランド」のプロ=「商標」のプロではないのも事実で、知財畑一筋、というわけではない被疑者が、どこまで商標の奥深さを理解していたのか、には疑問も残るところ。ましてや、商標に強い一流の弁理士とは比べようもない・・・。

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