仁義なき“囲い込み合戦”の末に。

ここ1、2年の間に、一気に拡大した携帯電話向けソーシャルゲーム市場で、激しくしのぎを削ってきたDeNAとGREE。

自分が携帯でやるゲームは、買い切り、追加出費なしで楽しめるような代物だけで、アイテムだ何だとで金がかかるようなものには基本的に手を出さないことにしているので、どちらの会社にも縁がないのだが、まぁ、双方で打ち合っている(似たり寄ったりの)広告やらCMやらを見ていれば、“中身以外の部分での戦争”が激しそうな業界だな・・・ということは大方察しがつく*1

そんな中、かねがね言われていた、この業界のブラックな側面がとうとう公に認定されることになってしまった*2

公正取引委員会は,株式会社ディー・エヌ・エー(以下「ディー・エヌ・エー」という。)に対し,独占禁止法の規定に基づいて審査を行ってきたところ,次のとおり,不公正な取引方法の第14項(競争者に対する取引妨害)に該当し同法第19条の規定に違反する行為を行っていたとして,本日,同法第20条第2項の規定に基づき,排除措置命令を行った」

公取委が排除措置命令の根拠とした、不公正な取引方法第14項(旧第15項)とは、

「自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法を持ってするかを問わず、その取引を不当に妨害すること」

というものであり、弊害要件が「取引を妨害」という漠然とした文言によって規定されているがゆえに、

「守備範囲が際限なく広がる可能性をはらんでいる」*3

という指摘も受けているいわくつきの規定である。

そして、今回認定された違反行為も、

ディー・エヌ・エーは,特定ソーシャルゲーム提供事業者に対し,GREEを通じてソーシャルゲームを提供した場合に当該特定ソーシャルゲーム提供事業者がモバゲータウンを通じて提供するソーシャルゲームのリンクをモバゲータウンのウェブサイトに掲載しないようにすることにより,GREEを通じてソーシャルゲームを提供しないようにさせていた。」

という、「競争者の取引の相手方」に対して行われた行為であり、本来であれば、他の一般指定の条項(例えば、排他条件付取引・一般指定第11項など)への該当性を論じられても良いようなものであるから*4、競争者(ここではグリー)の代替的競争手段の有無等、本来検討されるべき弊害要件について十分に吟味された痕跡を(少なくとも発表資料上では)見てとることができない今回の排除措置命令に対して、法的な突っ込みを入れようと思えば、いろいろと入れる余地はあるといえるのだろう*5


だが、このジャンルの代名詞「モバゲー」を生み出した最有力企業が、携帯ゲームコンテンツを提供する事業者にとっての“命綱”である「リンク掲載」を人質にとってプレッシャーをかけていた、ということになれば、やはり印象はよろしくない。

有力な競争者の数が限られている市場において、優位なポジションを示している会社が陥りがちなトラップ*6とはいえ、そうでなくてもPTAやら消費者団体やらに差されやすい業界。しかも、最近のスマホブーム等、一瞬で競争環境が変わってしまうリスクをもはらんでいる業界だけに、これ以上変なところで足元をすくわれないよう知恵を絞る必要があるんじゃないか・・・そう思えたニュースであった。

*1:大体、商品が暇つぶし用の携帯電話向けゲームコンテンツということになると、中身で差をつけようとしても所詮限界はあるし、宣伝広告合戦でも大きな差は付けづらいから、後は、ブランド力のあるゲームメーカーとのタイアップ(囲い込み)作戦と、それを有利に進めるための水面下での足の引っ張り合いくらいしか、勝つための方策がなくなってくるんじゃないか、と思う。

*2:公取委の公表資料は、http://www.jftc.go.jp/pressrelease/11.june/110609honbun.pdf参照。

*3:白石忠志『独占禁止法218頁(有斐閣、2006年)

*4:白石教授は、このような類型を「何らかの意味での反競争性があって初めて公正競争阻害性が認められる・・・『反競争性必要型行為』と位置付け、「行為それ自体によって公正競争阻害性が認められる行為類型(不正手段型行為)」とは区別して論じられている(白石・前掲218-219頁)

*5:市場のパイ自体が急激な拡大を見せている上に、世の中にゲーム開発業者が数多あることを考えれば、DeNAが囲い込んだ業者以外の開発業者を自分たちの陣営にかき集めて対抗することも十分に可能、という反論が出てきても不思議ではない。

*6:競争者が多ければ間接的なやり方では効果が薄いだろうし、自社のポジションが低ければそもそも条件を付けて取引を行うこと自体が現実的ではなかったりする。逆に上記のような前提条件が備わっている場合には、ちょっとした取引先へのプレッシャー(他の業界、市場であれば、問題にされにくいようなプレッシャー)が一気に「違法」とまで認定される可能性が高くなる。

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