「枠組み」はこれで良い。あとは・・・

政府の関係閣僚会合で「支援の枠組み」が決まってから*1あっという間に一ヶ月経ち、政権をめぐるゴタゴタに紛れて法案化は白紙か・・・?と心配し始めていた矢先に、ようやく「原子力損害賠償支援機構法」が閣議決定され、国会に提出されることになった。
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/taiou_honbu/index.html
(条文案:http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/taiou_honbu/pdf/songaibaisho_110614_03.pdf

第1条(目的)
原子力損害賠償支援機構は、原子力損害の賠償に関する法律第3条の規定により原子力事業者が賠償の責めに任ずべき額が賠償法第7条第1項に規定する賠償措置額(注:1200億円)を超える原子力損害が生じた場合において、当該原子力事業者が損害を賠償するために必要な資金の交付その他の業務を行うことにより、原子力損害の賠償の迅速かつ適切な実施及び電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営の確保を図り、もって国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする。」*2

という条項で始まるこの法律は、もっぱら「支援機構」という“ハコ”について規定するものであるが*3

「東電が原賠法に基づいて被害者への支払義務を負うことになる賠償原資に充てるため、支援機構が資金を調達し、東電に対して賠償に必要な資金を注入する」

という基本的な枠組みを裏付ける法律としては現時点では必要十分と言えるものであり、これが無事国会で可決されれば、原発事故賠償の本格的な支払いに向けた段取りは、一応整うことになる*4


原発事故に係る賠償支援の枠組みについては、外野の方で様々な意見が飛び交っている。

「株主や一般債権者が責任を取ることなく、国民や電力会社ユーザーの負担で東電が救済されるのはおかしい」という意見もあれば、「そもそも原子力政策を推進した国が一義的な責任を負うべきで、一時的とはいえ電力会社(とその株主や金融機関等)が相応のコストを負担しなければいけないこと自体がおかしい」という意見もあり、まさに百家争鳴状態だといえるだろう*5

だが、個人的には、「原賠法の伝統的解釈に基づく帰結」(被害者に対して実のある賠償をする、という前提に立つなら、「異常に巨大な天災地変」規定を発動した原子力事業者の免責はありえず*6、一義的に原子力事業者が責任を負う、というスキームに拠らざるを得ない。)と、「破産・会社再建に関する基本的な考え方」(破産手続に乗せるにしても、会社更生・民事再生手続に乗せるにしても、悪意なき不法行為により生じた損害賠償債権の優先順位は低く、事業者を存続させて対応する場合と比べて、結果的に国の負担が増加してしまう可能性が高い)を両立させる必要性に鑑みれば、現状のスキーム以外のやり方でことを進めるのは現実的でない、と思うところで、“社会主義的”と言われようが、“中途半端”と言われようが、「枠組み」としてはこれで良いのではなかろうか。

後は、各原子力事業者が納付義務を負う「負担金」がどのレベルの額で設定されるか、や、国債の交付等を受けるための「特別事業計画」がどの程度のハードルで認定され、それによって事業者(東電)がどの程度の資金交付を受けられるのか、といった数字を伴う“各論”が、賠償支援の成否(そして東電という企業の生死)を分けることになるのではないかと考えている。

なお、参考までに、今回国会に提出された法案の条文を確認しておくと、

◆負担金について

第37条(負担金の納付)
第1項 原子力事業者*7は、機構の事業年度ごとに、機構の業務に要する費用に充てるため、機構に対し、負担金を納付しなければならない。
第38条(負担金の額)
第2項 一般負担金年度総額は、次に掲げる要件を満たすために必要なものとして主務省令で定める基準に従って定められなければならない。
一 機構の業務に要する費用の長期的な見通しに照らし、当該業務を適正かつ確実に実施するために十分なものであること
二 原子力事業者の収支の状況に照らし、電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営に支障を来し、又は当該事業の利用者に著しい負担を及ぼすおそれのないものであること。

原子力事業者への支援について*8

第40条(資金援助の申込み)
第1項 原子力事業者は、賠償法第3条の規定により当該原子力事業者が損害を賠償する責めに任ずべき額(以下「要賠償額」)が賠償措置額を超えると見込まれる場合には、機構が、原子力損害の賠償の迅速かつ適切な実施及び電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営の確保に資するため、次に掲げる措置(以下「資金援助」)を行うことを、機構に申し込むことができる。
一 当該原子力事業者に対し、要賠償額から賠償措置額を控除した額を限度として、損害賠償の履行に充てるための資金を交付すること(以下「資金交付」)
二 当該原子力事業者が発行する株式の引受け
三 当該原子力事業者に対する資金の貸付け
四 当該原子力事業者が発行する社債又は主務省令で定める約束手形の取得
五 当該原子力事業者による資金の借入れに係る債務の保証
第41条(資金援助の決定)
第1項 機構は、前条第1項の規定による申込みがあったときは、遅滞なく、運営委員会の議決を経て、当該申込みに係る資金援助を行うかどうか並びに当該資金援助を行う場合にあってはその内容及び額を決定しなければならない。
第44条(特別事業計画の認定)
機構は、第41条第1項の規定による資金援助を行う旨の決定をしようとする場合において、当該資金援助に係る資金交付に要する費用に充てるため第47条第2項の規定による国債の交付を受ける必要があり、又はその必要が生じることが見込まれるときは、運営委員会の議決を経て、当該資金援助の申込みを行った原子力事業者と共同して、当該原子力事業者による損害賠償の実施その他の事業の運営及び当該原子力事業者に対する資金援助に関する計画(以下「特別事業計画」という。)を作成し、主務大臣の認定を受けなければならない
第3項 機構は、特別事業計画を作成しようとするときは、当該原子力事業者の資産に対する厳正かつ客観的な評価及び経営内容の徹底した見直しを行わなければならない
第4項
主務大臣は、第1項の認定の申請があった特別事業計画が次に掲げる要件の全てに該当すると認める場合に限り、同項の認定をすることができる。
一 当該原子力事業者による原子力損害の賠償の迅速かつ適切な実施及び電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営の確保を図る上で適切なものであること。
二 第2項第2号に掲げる事項(注:「原子力事業者の経営の合理化のための方策」)が、当該原子力事業者が原子力損害の賠償の履行に充てるための資金を確保するため最大限の努力を尽くすものであること。
三 円滑かつ確実に実施されると見込まれるものであること。
第47条(国債の交付)
第1項 政府は、機構が特別資金援助に係る資金交付を行うために必要となる資金の確保に用いるため、国債を発行することができる。
第2項 政府は、前項の規定により、予算で定める額の範囲内において、国債を発行し、これを機構に交付するものとする。
第3項 第1項の規定により発行する国債は、無利子とする。
第48条(国債の償還等)
第1項 機構は、特別資金援助に係る資金交付を行うために必要となる額を限り、前条第2項の規定により交付された国債の償還の請求をすることができる。
第2項 政府は、前条第2項の規定により交付した国債の全部又は一部につき機構から償還の請求を受けたときは、速やかに、その償還をしなければならない。
第50条(負担金の額の特例)
第1項 認定事業者が、当該認定に係る特別期間内にその全部又は一部が含まれる機構の事業年度について納付すべき負担金の額は、第38条第1項の規定にかかわらず、同項の規定により算定した額に特別負担金額を加算した額とする。
第2項 特別負担金額は、認定事業者の収支の状況に照らし、電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営の確保に支障を生じない限度において、認定事業者に対し、できるだけ高額の負担を求めるものとして主務省令で定める基準に従って定められなければならない。

◆機構による資金調達*9

第57条(借入金及び原子力損害賠償支援機構債)
第1項 機構は、主務大臣の認可を受けて、金融機関その他の者から資金の借入れをし、又は原子力損害賠償支援機構債(以下「機構債」)の発行をすることができる。この場合において、機構は、機構債の債券を発行することができる。
第65条(政府による資金の交付)
政府は、著しく大規模な原子力損害の発生その他の事情に照らし、機構の業務を適正かつ確実に実施するために十分なものとなるように負担金の額を定めるとするならば、電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営に支障を来し、又は当該事業の利用者に著しい負担を及ぼす過大な額の負担を定めることとなり、国民生活及び国民経済に重大な支障を生じるおそれがあると認められる場合に限り、予算で定める額の範囲内において、機構に対し、必要な資金を交付することができる。

◆その他

第51条(相談及び情報提供等)*10
機構は、原子力事業者に対する資金援助を行った場合には、当該原子力事業者に係る原子力損害を受けた者からの相談に応じ、必要な情報の提供及び助言を行うものとする。この場合において、機構は、当該業務を第三者に委託することができる。

といったところだろうか。

国会が混乱することも予想される時期ではあるが、いざ賠償支払の段階になって、運用面でグダグダな事態に陥ることがないように、法案の審議だけはきっちりしておいてほしいものだと思う。

*1:閣議」ではなく「関係閣僚会合」での決定となっていたところが嫌らしかった。

*2:( )で括られた定義の確認規定等は省略している。

*3:全76条のうち、第2条から第33条までは、専ら法人格や運営委員会の構成といった内容に割かれている。

*4:あとは、原子力損害賠償紛争審査会において、損害の範囲の全体像が固まるのを待つだけである。

*5:この辺りの議論状況をうまくまとめているのが、2011年5月25日付け日経紙の「経済教室」に掲載された野村修也・中大教授の論稿だろう。野村教授ご自身が示されているお考えには賛同しかねるが。

*6:この場合、国の責任まで免責されてしまうから。http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110416/1303046161参照。

*7:( )に含まれた定義条項が若干複雑になっているが、要約すると実用発電用原子炉等の許可を受けたことがある者であって(わざわざ「これらの者であった者を含む。」と注記されている)、現に原子炉の運転等をしている者、が対象となるようである。

*8:大別して機構による通常の資金援助と、「特別事業計画」に基づく国の実質的直接支援に分けることができる。少なくとも条文上は、後者の要件はかなり厳格になっているように思われるが・・・。

*9:法律上、機構の運営は、原則として自力での資金調達+負担金によりなされる、という建前になっているが、第65条で政府による直接の資金注入の余地も残されている。おそらく、負担金の納付義務を負う各電力会社への配慮に基づく規定なのだろうが、これについては、今後議論となる可能性が高いように思われる。

*10:こんな規定が入る、というのは想定外だった。果たして機能するのか、紛争審査会との役割分担をどうするのか、といったあたりが気になるところである。

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