まねきTV&ロクラク2最高裁判決の先にあるもの

今年の1月、多くの知財業界関係者に強いインパクトを与えた2件の最高裁判決(まねきTV、ロクラク2事件)が出されたのは記憶に新しいところである*1

判決当初の“射程無限大”的な理解は、その後の冷静な議論を経て最近ではすっかり影をひそめ、今では、「放送の取得」という上記2事件のサービス運営事業者の行為の特徴に着目したり、最高裁判決の細かい文言の言い回しに着目するなどして、最高裁判決の射程をかなり限定して理解する見解が有力になっているのであるが*2、いかに“外部”の人間が議論を繰り返したところで、肝心の裁判所が今後「最高裁判決」をどう使うか、というところをしっかり見ていかないと、本当の意味での判決の“射程”について断定的なことは言いづらいのも事実。

そんな中、おそらく判決が公表された事例では初めて、上記最高裁判決を参照しつつ結論を導いた下級審判決が登場した。

最高裁判決の“その先”を議論する上での第一歩、として、今後取り上げられることも多いであろうこの判決を、少し眺めてみることにしたい。

東京地判平成23年9月5日(H22(ワ)7213号)*3

原告:日本放送協会
被告:A

本件で問題とされたサービス(ジェーネットワークサービス)は、

「海外居住者向けに、日本国内でテレビ放送された番組を有料でインターネット配信するサービス」

であり、裁判所が認定したサービスの構成は、以下のようなものとなっている。

(ア) テレビ番組のストリーミング配信
ケーブルテレビ等の配線から,原告を含む放送事業者らが放送したテレビ番組の映像(音及び影像)を受信し,チューナーを通してサーバ機に入力し,コンピュータが処理できるようデータ変換した上で,マイクロソフト社が提供する「Windows Media サービス」との名称のアプリケーションを使用して,利用者に対し,テレビ映像データをストリーミング配信(利用者が,サーバ機からファイルをダウンロードすることなく,リアルタイムで画像及び音を視聴することができる動画配信形式)する(以下,本件サービスにおいて,上記のとおりストリーミング配信に使用されるサーバ機を指して「ストリーミング配信用サーバ機」という。)。
(イ) テレビ番組の動画ファイル形式による記録及び配信
ケーブルテレビ等の配線から,原告を含む放送事業者らが放送したテレビ番組の映像(音及び影像)を受信し,チューナーを通してサーバ機に入力し,動画ファイル形式へとデータ変換を行い,上記動画ファイルデータを記録媒体に記録し(以下,本件サービスにおいて上記の動画ファイル記録のために使用されるサーバ機を指して「録画用サーバ機」という。),録画用サーバ機に記録された動画ファイルデータをウェブサーバ用ソフトウェアがインストールされたサーバ機の記録媒体に複製又は移動させ,利用者からの求めに応じて,利用者が,上記動画ファイルデータをダウンロードすることを可能とする(以下,本件サービスにおいて上記の動画ファイルデータをダウンロード可能な状態に蔵置するため使用されたサーバ機を指して「動画ファイル配信用サーバ機」という。)。
(ウ) 上記(ア)のストリーミング配信システムにより,利用者は,インターネット回線に接続したコンピュータを使用して,上記のとおりストリーミング配信される映像データにアクセスして,原告を含む放送事業者らが放送したテレビ番組を,その放送とほぼ同時に視聴することができ,また,上記(イ)の動画ファイル記録システム及び動画ファイル配信システムにより,過去に放送されたテレビ番組のうち,被告が録画用サーバ機に動画ファイルとして記録しているもの(なお,被告は,各テレビ番組の放送日から1か月間,当該テレビ番組の動画ファイルを録画用サーバ機に記録することとしていた。)について,インターネット回線に接続したコンピュータを使用してアクセスし,ダウンロードすることにより,過去分のテレビ番組を視聴することができる。」(3〜4頁)

このような構成の下、会員ID及びパスワードの割当てを受けたユーザーが、インターネット回線に接続して、本件サービスにログインし、利用登録した放送局のテレビ番組について、ストリーミング配信される映像を視聴したり、「録画予約」したテレビ番組の動画ファイルをダウンロードして視聴していた、というのが、本件サービスの実態であったようである(7頁)*4

詳細な構成について図解した資料等が添付されていないため、あくまで文字面からの推測だが、「1対1送信」機能を有する機器を用いる等、違法評価を回避するために相当苦心していたまねきTVの事業者等と比べると、本件におけるサービスはかなりラフなもののように思われる。

そして、そういった評価をしたのは、捜査当局も同じだったようで、本件被告(個人)は、本件民事訴訟の提訴に先立つ平成21年6月1日、著作権法違反の公訴事実によっって東京地裁に起訴され、同年10月23日に懲役3年(執行猶予5年)及び罰金500万円の有罪判決を受けている*5

そのような状況を受け、放送局側が満を持して、送信可能化権、複製権に基づく損害賠償請求を行ったのが本件であった。


さて、東京地裁は、上記2つの権利侵害の成否を判断するにあたり、今年1月の最高裁判決を参照したことを明示した。

まず、送信可能化権侵害の成否については、ストリーミング配信と動画ファイル形式による記録及び配信に分けた上で以下のとおり判示している。

「本件サービスは,前記前提事実(2)イ(ア)のストリーミング配信システムにおいて,テレビ放送に係る音及び影像を,ケーブルテレビ配線を介して受信した上,これをストリーミング配信用サーバ機にデータ化して入力するものであり,上記ストリーミング配信用サーバ機は,インターネット回線を利用して,本件サービスにアクセスしてきた利用者に対し,上記のとおりデータ化した音及び影像をストリーミング配信するものであるから,上記ストリーミング配信は自動公衆送信であり,上記ストリーミング配信用サーバ機は,自動公衆送信装置に該当し,本件サービスは,上記のとおり自動公衆送信装置に該当するストリーミング配信用サーバ機にテレビ放送に係る音及び影像を入力することで,利用者からの求めに応じテレビ放送に係る音及び影像を自動的に送信できる状態を作り出しているのであるから,テレビ放送に係る音又は影像を送信可能化するものということができる。」
「また,本件サービスは,前記前提事実(2)イ(イ)の動画ファイル形式による記録及び配信システムにおいて,テレビ放送に係る音及び影像を,ケーブルテレビ配線を介して受信し,録画用サーバ機に動画ファイル形式により記録した上,上記動画ファイルデータを動画ファイル配信用サーバ機の記録媒体に複製又は移動させ,上記動画ファイルデータを,インターネット公開フォルダに指定されたフォルダに記録・蔵置することにより,インターネット回線を利用して当該動画ファイルにアクセスしてきた利用者に,当該動画ファイルをダウンロードすることを可能とするものであるから,上記動画ファイル形式による記録及び配信は自動公衆送信であり,上記動画ファイル配信用サーバ機は自動公衆送信装置に該当し,本件サービスは,上記のとおり自動公衆送信装置に該当する動画ファイル配信用サーバ機のインターネット公開フォルダに動画ファイルデータを記録させることで,利用者の求めに応じテレビ放送に係る音及び影像を自動的に送信できる状態を作り出しているのであるから,テレビ放送に係る音又は影像を送信可能化するものということができる(以上につき,最高裁平成23年1月18日第三小法廷判決・裁判所時報2103号124頁参照)。」
(20-21頁)

「全体として行われているのが自動公衆送信だから、配信に用いられる機器は自動公衆送信装置」であり、そこに「放送を入力」している事業者は送信可能化を侵害している、という理屈は、まさに「まねきTV」最高裁判決で示された考え方を踏襲するもの、といえるように思われる。

そして、本件の場合は、あえて送信主体に関する評価を交えるまでもなく、事業者が送信主体となる、と断定して差し支えないような事案であるから*6、若干言葉足らずのきらいはあるものの、ここまでの評価にそんなに違和感はない。

一方、複製権侵害については、裁判所は下記のように述べるのみである。

「本件サービスのうち,前記前提事実(2)イ(イ)のテレビ番組の動画ファイル形式による記録及び配信システムにおいては,テレビ放送を,ケーブルテレビ配線を介して受信した上,記録用サーバ機に記録するものであるから,テレビ放送に係る音及び影像を録音,録画するものであり,これを複製するものということができる(最高裁平成23年1月20日第一小法廷判決・裁判所時報2103号128頁参照)。」(21頁)

おそらく、本件では、「ロクラク2」のように「枢要な行為」かどうか、というのを吟味するまでもなく、「(共通の)サーバに録画したファイルを記録する」という行為が、(従来からの基準に照らしても)明白に複製権侵害といえるものだったから*7、判決も上記のようなあっさりとしたものになったのだろう。

だが、これだけあっさりとしていると、後行判決として最高裁判決の射程を明らかにする、という観点からはあまり役に立たず、あえて最高裁判決を参照引用しなくても良かったのでは、という思いも残るところである。


ちなみに、本件で被告側は、故意過失の有無を争う場面で、

「被告は,まねきTVやロクラク2に関する東京地裁及び知財高裁の各決定及び判決の趣旨を正しく理解しておらず,機械が共通でも個々の契約者が個別に機械を操作することができれば著作権法には違反しないものと考えていたのであり,契約者から個々の機械を預かる代わりに高額なソフトを導入し,個々の契約者に仮想PCを割り当て各契約者に機器の操作を可能ならしめることにより,本件サービスが著作権法に違反することはないと考えていた。」(12-13頁)

という興味深い反論を行っているのだが、裁判所は、

「(1) 前記前提事実(2)イでみた本件サービスにおけるテレビ番組配信システムの具体的内容並びに前記前提事実(2)イのとおり上記配信システムの発案及び構築に当たり被告が主体的に関与したと認められることに加え,被告が,本件サービスの開始に当たり,配信元のIPアドレスを隠匿する手段を模索していたこと(甲8),被告が,本件サービスを開始するに当たり,タイにジェーネット合資会社を設立し,同社の日本支社の本店所在地をバーチャルオフィスにするなどしていること(甲8,11)も考慮すれば,被告は,本件サービスの開始当初から,本件サービスの違法性について認識していたものと認めるのが相当であり,本件サービスが原告を含む放送事業者の著作隣接権を侵害するものであることにつき,被告には,故意があったものと認められる。
(2) なお,被告は,東京地決平成18年8月4日(まねきTV仮処分決定)などを挙げて,被告が本件サービスを適法であると考えていた旨主張するが,本件サービスの配信システムは,上記事件におけるシステムと全く異なるものであることに加え,被告の上記(1)の行動も考慮すると,被告の主張を採用することはできない。」

とばっさりと被告の主張を退けている。

本件では、事業主体とされている会社の本店所在地がタイ王国になっている等、いかがわしさが漂ってくる状況であることは間違いないところで、被告の主張を退けた結論自体に、特段の違和感はない。

ただ、本件以外の同種事案等で、同様の主張がなされた場合にどう判断するか・・・というところにまで、応用が利くような判断基準になっていないのは、少し残念なところである。

なお、本エントリーでは割愛するが、このほかにも、損害額の算定にあたって著作権法114条2項が適用できるか、という争点(及びそれに対する判断)等、損害論に関して興味深い争点がいくつか散見された。

「まねき・ロクラク」法理はどこに?

上記のとおり、本件では、最高裁の2判決が「参照」判例として挙げられている。

もっとも、本件が、最高裁判決以前の基準に照らしても違法性が明確のように思える事案だっただけに、本判決においては、ギリギリのところで争われてきた最高裁の事案の解決に用いられたような規範が必ずしも完全には再現されておらず、今後登場する事案において繰り返し適用されるに値する「まねき・ロクラク法理」というべきものの姿の全容はまだ見えていない、と自分は考えている*8

同じ放送に関するサービスでも、より著作権法に抵触しないような形で練って作られたサービスが俎上に上った場合や、放送以外の領域において最高裁判決の基準を応用して用いようとする場合であれば、もう少し法理の内容やその外延が明確になるのではないか、と期待したいところであるが、今後果たしてどうなるか。

最高裁判決の存在を奇貨とした安易な判断が下級審で定着することのないよう、専門家としては、裁判所の判断の動向にもう少し目を光らせておく、そんな余裕があっても良いのではないか、と思うところである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110121/1295756295http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110124/1295795815

*2:申し訳ないことに、現時点では、当ブログ上でこの辺の動きを十分にフォローしきれていないのだが・・・。

*3:第29部・大須賀滋裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110907161859.pdf

*4:判決の認定によると、サービス停止時における登録人数は5000人弱、ということである。

*5:同時に法人である「ジェーネットワークサービスインターナショナル非公開株式会社」も、罰金2000万円+追徴2177万3953円の有罪判決を受けている。

*6:被告は、「本件サービスでは、利用者に個々の仮想PCが割り当てられ、各利用者に対する機器の操作が可能であって、各利用者が録画予約した番組のみをダウンロードできる仕様としていた」旨を主張したが、あっさりと退けられている。

*7:「選撮見録」事件を彷彿させるような事例だと思われる。

*8:逆に言うと、今回の判決のようなヌルッとした説明による「評価」が、今度の同種事案で繰り返し多用されるような状況は、好ましいことではない。