それなりにファンの多い厩舎だったから*1、いきなりの発表にショックを受けた人も多かっただろう。
袂を分かったかつての弟子、三浦皇成騎手の吉報が報じられ、その余韻も冷めやらぬタイミングでのこの記事。
「日本中央競馬会(JRA)は26日、河野通文調教師(61、美浦)について、暴力団関係者との交際が調教師としての欠格事由に該当するとして、免許を同日付で取り消したと発表した。」(日本経済新聞2011年9月27日付け朝刊・第37面)
元々、「公営賭博」という性質上、馬主の“名義貸し”等々、闇社会の関与が疑われるような問題については、比較的センシティブな対応を見せるのがJRAという組織だ*2。
だが、過去の免許取り消し事例と比べても、今回のケースはやや異質なもののように思えてならない。
「同調教師は昨年7月、指定暴力団山口組系暴力団関係者の知人に貸し付けた1000万円を詐欺され、この人物は詐欺罪で一審で有罪判決を受けた。」
「JRAは事件発覚を受け、河野調教師との関係について調査。その結果、この知人が暴力団関係者であると、遅くとも一昨年3月までに認識していながら関係を維持したと断定。また、この人物から借金の申し出を受けた際も、即日、伊丹空港に出向いて現金を渡すなど、「尋常でない交際」があったと認定し、「競馬の公正・安全な実施に支障を生ずる恐れがあると認めるに足りる事由」(競馬施行規程53条6項)に該当すると判断した。」(同上)
某元名ジョッキーのように、自ら犯罪を犯したわけでもなければ、名義貸しや血統書改ざんといった競馬そのものにかかわる不正行為に加担したわけでもない。むしろ形式的には詐欺の「被害者」なのに、業界的には“極刑”に値する処分を受けてしまう・・・。
いかにJRAとはいえ、数年前では考えにくかったような厳罰、というべきなのではなかろうか。
このご時世だから、仮に見た目だけでなく、現実にも“その筋”とかかわりのある人だった、というのであれば、その事実だけで不利益を受けたとしても、やむを得ないというべきなのかもしれないが、調教師本人が「集団的に、又は常習的に暴力的不法行為その他の罪に当たる違法な行為で暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行規則第1条各号に掲げるものを行うおそれがある」という欠格事由(競馬施行規程第46条第5項)に該当する場合であっても、免許の必要的取消ではなく、裁量的取消にとどめられている(同第52条、第53条参照)ことなどと対比すると*3、“かかわり”の程度如何によっては、この量定判断が妥当なものかどうか議論の余地はあるように思われる*4。
記事によると、
「処分に対し、河野調教師は同日『暴力団関係者との認識はなかった』として、取り消しを求めて提訴する意向を示した。」(同上)
ということなので、ガチンコ勝負にもつれ込むようなことになれば、いろいろと面白い論点が出てくることだろう。
信用で成り立っている商売だけに、仮に処分が取り消されたとしても、調教師としての再起の道は険しいと言わざるを得ないのだけれど・・・。
◆参考
(調教師又は騎手の欠格事由)
第46条 次の各号のいずれかに該当する者は、調教師又は騎手の免許を受けることができない。
(1)成年被後見人、被保佐人及び破産者で復権を得ない者
(2)禁錮(こ)以上の刑に処せられた者
(3)法、日本中央競馬会法、自転車競技法、小型自動車競走法又はモーターボート競走法の規定に違反して罰金の刑に処せられた者
(4)令第14条第1項第4号の規定により本会、都道府県又は指定市町村が行う競馬に関与することを禁止され、又は停止されている者
(5)集団的に、又は常習的に暴力的不法行為その他の罪に当たる違法な行為で暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行規則第1条各号に掲げるものを行うおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者
(6)本会の経営委員会の委員
(7)本会の役員及び職員
(8)馬主
(9)第52条第3号(第2号又は第3号に係る部分に限る。)又は第53条第2号若しくは第3号に該当することにより、第52条又は第53条の規定により免許を取り消され、その取消しの日から5年を経過しない者
(10)前各号に定めるもののほか、競馬の公正かつ安全な実施の確保に支障を生ずるおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者
(免許の取消し)
第52条 調教師又は騎手が次の各号のいずれかに該当するときは、その免許を取り消す。
(1)死亡したとき。
(2)免許の取消しを申請したとき。
(3)第46条第1号から第4号まで又は第6号から第8号までの規定のいずれかに該当することとなったとき。
第53条 調教師又は騎手が、次の各号のいずれかに該当するときは、その免許を取り消すことがある。
(1)集団的に、又は常習的に暴力的不法行為その他の罪に当たる違法な行為で暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行規則第1条各号に掲げるものを行うおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者であることが判明したとき。
(2)不正の手段により調教師又は騎手の免許を受けたことが判明したとき。
(3)調教師免許証又は騎手免許証を他人に利用させ、偽造し、又は変造したとき。
(4)地方競馬の競走のため馬を調教し、若しくは騎乗したとき又は地方競馬の競走に馬を出走させたとき。
(5)身体に故障を生じ、調教師又は騎手として適当でなくなったとき。
(6)前条第3号及び前各号に定めるもののほか、調教師又は騎手として競馬の公正かつ安全な実施の確保に支障を生ずるおそれがあると認めるに足りる相当な理由があることが判明したとき。