百家争鳴状態の「自炊代行」論議に一石

当ブログでも過去に何度か取り上げてきた「自炊代行」論戦に、日経紙の「法務インサイド」も遂に参戦した。
担当されたのは、三宅伸吾編集委員*1

見出し、小見出しや、書き出しの文章などを見ると、比較的中立的な論稿なのかな・・・と錯覚してしまうのだが、読み進めていくと、あの「橋詰卓司さん(35)」が、

「送った本が溶解処分されるのなら、著者に何の経済的被害も与えていないのではないか」

と語ってみたり*2、「書籍提供型」で、通常の複製代行よりもむしろ違法性があるんじゃないか、という指摘もある「自炊の森」を好意的なスタンスで取り上げてみたり*3、と、何となくこのコラムの方向性が見えてくる。

そして、決定的なのは、最後に残された以下のくだりだ。

著作権法の本来の目的は「著作者等の権利保護を図り、文化の発展に寄与する」(第1条)こと。同法が著者などに経済的損失を与えない電子化支援サービスまで違法とすることは同法の狙いから外れるわけで、もしそうした部分があれば早急に見直す必要がある。」

“新聞の自炊代行”をうたう業者が街中で堂々とサービスを始めたらこの会社は許容するのか(途端に紙上で違う主張を展開し始めるのではないか?)、という疑問は残るものの、日経紙上で、(「もし・・・」という注意深い表現が用いられてはいるが)“自炊代行”の適法性(適法化)を主張する人々に対して大きな援護射撃が加えられた、という事実は非常に大きいのではないかと思う。

編集委員氏には、「電子化」時代を下支えする“自炊代行”という画期的サービスへの共感があったのかもしれないし*4、細々とやっていた業者を廃業に追い込むような、出版社7社連名の一方的な「質問書」というある種の反動的な動き*5への反発もあったのかもしれない(記事の中では正面切っての批判は避けられているが)。

だが、いかなる理由があるにせよ、明らかに「踏み込んだ」という印象があるこの記事は、百家争鳴状態に陥りつつある“自炊代行”“複製代行”をめぐる議論に大きな一石を投じることになるのではないだろうか。


なお、個人的には、単に書籍の裁断、複製を「代行」するだけであれば(利用者が自分で購入した本を店舗に持ち込んで、裁断・複製した後に持ち帰るかその場で処分する、というだけであれば)、それが現在の著作権法第30条1項の私的使用にあたる、と解する余地は十分にあると思っていて*6、様々なところにハレーションが出そうな法改正をわざわざ志向しなくても・・・と思ったりもするところであるが、とりあえずは今後の動きを注目しながら見ておくことにしたい。

*1:日本経済新聞2011年10月17日付け朝刊・第19面。

*2:もはや“一般人”のカテゴリーに含めるには怖れ多いような方を、あたかも“普通の会社員”のように紹介するのは、ちょっとルール違反じゃないか(笑)、と思ったり。日経紙に限らず、新聞のコラムや特集記事にはこの種の仕込みが多いのではあるが。

*3:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20101229/1293642664でも指摘したように、自分は、これまでの“間接(的)侵害”に関する著作権判例の動向に照らせば、このタイプの業態を安易に適法、というのは憚られるのではないか、と思っている。

*4:記事の中では専ら「橋詰氏」がその魅力を語らされている(笑)のだが。

*5:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110906/1315415967参照。記事を見ると出版社側の代理人は、久保利英明弁護士だそうだ。時代を超えた「革命児」の印象が強いこの方も、こと著作権の話となると、保守反動的な側に権利者の側に与することが圧倒的に多いような気がしてならない。この辺に“依頼者”に縛られる弁護士という仕事の限界があると言ってしまえばそれまでなのだが、時々残念な気持ちになる。

*6:そもそも利用主体が誰か、ということについては、従前から極めて規範的な解釈がまかり通っているのであり、こと30条1項の場面でだけ「手足論」等の規範的解釈ができない、と考えるのは、明らかに不整合だと思う。

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