これで三冠?されど三冠。

他のプロスポーツと同じく、大震災の影響で、シーズンの始まりがグチャグチャになってしまったこともあって、「いつの間にか3冠目」という感が強い今年のクラシック。

三冠全てのウィナーが入れ替わった牝馬に対し、牡馬の方は、ステイゴールド産駒・池江(息子)厩舎所属のオルフェーヴルが、ディープインパクト以来、6年ぶりとなる三冠を達成した。

もっとも、今季に関しては、↑のような事情もあって、「三冠」と言われてもイマイチピンと来ない。
世の中の盛り上がりも、過去の三冠馬誕生の瞬間に比べると、何とも静かだなぁ・・・というのが率直な印象である*1

そもそも、何で牡馬の「三冠」に価値があるかといえば、春先の、

◆ 弥生賞スプリングSといった本番仕様のトライアルレース 
→ 有力馬が殺到して常に激しい戦いになり、前年冬〜年明けに満を持してデビューした有力馬が時々切符を取り逃がす。
◆ 皐月賞 
→ 狭く直線が短いコースで、器用さがない大器晩成型の馬が取りこぼしやすい。
◆ ダービー 
→ 左回り、かつトータルの距離も最後の直線も長い、というタフさゆえ、皐月賞で上位に来た先行馬がスピードで押し切れずに逆転を食らう。

という強烈コンボゆえ。

しかも、“西高東低”と言われて久しいにもかかわらず、なぜかこの春の牡馬のクラシックだけは、舞台が「東」に大きくシフトしていて、本来実力で上回るはずの栗東の有力馬が、何度も長距離輸送を余儀なくされ、体力を消耗することになるため、有力馬といえども、ここで二冠を獲るためのハードルはかなり高く、さらに、二冠を獲った後にケガなく調子落ちもなく夏を乗り切るためのハードルは、もっともっと高くなる・・・。

これが「三冠も・・・」と言われながら、現実には一冠、二冠止まりに終わってしまった馬を毎年大量に輩出してきた最大の要因であり、だからこそ、この苦行を乗り越えた「三冠馬」が称賛され、記録だけでなく人々の記憶にも刻み込まれてきたのだといえる。

だが、今年に春のシーズンに関して言えば、上記のような原則は当てはまらない。

まず、中山で行われるはずだったスプリングSは、大震災の影響で阪神に舞台を移して催行されたため、栗東所属の馬にとっては、長距離輸送の負担が一度減ることになった。

また、一冠目の皐月賞が、東京コースに舞台を移して行われたことで、本来“ダービー向き”の馬にとって、一気に戦いやすい状況になった、ということも忘れてはならない*2

33秒台の切れ味ある息の長い末脚を持ちながらも、先行馬を捕まえ切れずに重賞で連敗を重ねていたオルフェーヴルにとって、東の舞台が東京コース一本に絞られたのは、タイトルを狙う上では実に大きかったはずだ。


このブログにも書いたように、春の二冠を制したときのオルフェーヴルのレースぶりは、まさに“勝者”にふさわしい堂々としたものだったし*3、さらに、秋の復帰戦・神戸新聞杯の時の馬体の充実ぶりや、レースでの圧倒的な勝ち方を見ると、菊花賞については、もはや死角が見当たらなかった(実際に圧倒的な力の違いを見せた)といっても過言ではない。

元々、ノーザンテーストの肌馬に、メジロマックイーンステイゴールド、という丈夫で息長く成長を続けた名馬を掛け合わせた、というオールドファン泣かせの美しい血統をバックグラウンドに持っていることに加え*4、伝統的に古馬になってからの成功確率が高い「菊」のタイトルを獲ったとなれば*5古馬になってからの活躍も、既に保証されたようなものだろう*6

そして、来年以降無事に国内外でレースを重ねていくことができたなら、“三冠馬“のタイトルにふさわしい結果を、きっと出してくれることだろうと思う。

・・・でも、冷静に考えると、変則的な番組編成の中でとった「三冠」の価値を、過去の名馬たちが取ったそれ、と、並べて評価して良いものかどうか。
リアルタイムでナリタブライアンの三冠レースを目撃した世代の人間としては、ちょっと悩ましく思えるところでもある。

まぁ、時代の変化を感じながらも、ついつい「昔の馬の方が強かった」と言いたくなってしまう、オールドファン特有の心理じゃねえか、と言われてしまえばそれまで、ではあるのだけれど。

*1:もちろん、競馬そのものに対する関心が、6年前や、Nブライアンの頃(売上がピークに向かっていた時代だ)に比べて大きな衰えを見せているのが、最大の原因だとは思うけど。

*2:一冠目と二冠目の違いは、単に距離が2ハロン伸びるだけ・・・なんていうのは、ダービーを目標に置いていた(あるいは脚質的に中山ではつらいような)馬にとっては実に美味しい話だ。

*3:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110529/1306679375

*4:この渋い血統が圧倒的な力を発揮した、という事実を、欧米系の良血繁殖牝馬をあてがったはずのディープインパクト初年度産駒が、三冠最後の大舞台にたった2頭しか立てなかった(さすがにトーセンラーが最後で意地を見せたとはいえ)という事実と見比べると、なおさら象徴的である。

*5:二冠→天皇賞という路線が珍しくなくなった最近では、必ずしもそう言えなくなっている現実もあるのだけれど・・・。

*6:この馬の場合、切れ味も脚を使える距離の長さも、全兄のドリームジャーニーを一回り上回るものになっていて、その分、どこかでダメージが出てくるのではないか・・・ということも若干心配されるのであるが、こればっかりは年を越してみないと何とも言えない。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html