グリーのしたたかな戦略

以前から当ブログでも取り上げてきたDeNA対グリーの果てしなき闘争*1だが、遂にグリー側から正式に訴訟提起のリリースがなされた。

「交流サイト(SNS)大手、ディー・エヌ・エーDeNA)が取引先のゲーム開発会社に対し、他のSNSにゲームを提供しないよう圧力をかけたなどとして公正取引委員会の排除措置命令を受けた問題で、同業のグリーなどは21日、DeNAに計10億5千万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。請求額はグリーが9億円、共同でサイトを運営するKDDIが1億5千万円。」(日本経済新聞2011年11月22日付け朝刊・第39面)

1ヶ月前の報道*2では、

「ゲーム開発会社など通信関連企業数社とともに数十億円を請求する見通し」

とされていたから、スケール的には若干小さめに抑えられた感もある。

ただ、大手通信キャリアの一角、KDDIを巻き込んで共同で提訴した、というのは、この問題がSNS事業者同士の“コップの中の争い”ではなく、「インターネット産業全体の問題」だとするグリー側のスタンスを支える上で大きな意味を持つものといえ、その意味で、グリー側の「舞台づくり」は一応功を奏している、ということができるだろう。

また、グリーは、11月21日付けでプレスリリースを出しており*3、その中で本件訴訟の経緯について、かなり丁寧に説明しているのだが、最終的に訴訟提起に至った理由として、

当社におきましては、上記排除措置命令確定後、DeNAによる上記違法行為に対し、どのような対応を取るべきか慎重に検討してまいりましたが、
公正取引委員会という国家機関が違法であると認定した行為に対し、当社として何等の法的措置を講じないことは、株主様に対する当社経営陣の責任遂行という点においても問題があること
上記違法行為は、当社の事業のみならず、数多くのソーシャルゲーム提供事業者、キャリアその他インターネット業界に対しても大きなマイナスの影響を与えており、その影響はいまだに続いていることから、健全な競争環境確保という点で大きな問題が継続していること
・そのため、今後の日本の産業界の牽引車と目されるインターネット業界自体の健全な発展を歪める恐れがあり、また、ひいては消費者の選択肢を狭めるという点でも公益を害しており、そのような意味で極めて問題のある行為であること
DeNAは、昨年12月、上記違法行為を取りやめる方針を示しながら、その一方で、それ以後もMobageでゲームを提供しているソーシャルゲーム提供事業者がGREEでもゲームを提供しようとすると、これを妨害していると思われること 等の事情を勘案し、この度、DeNAに対して訴訟(以下「本訴訟」)を提起することといたしました。なお、当社と「au one GREE」を共同提供しているKDDI様におかれましては、上記の健全な競争環境確保の趣旨等にご賛同いただき、共同原告として本訴訟にご参加いただくこととなりました。
(強調筆者)

と「DeNAが現在に至るまで違法行為を継続している」という趣旨の主張をしている、というのが注目に値する。


これに対し、迎え撃つDeNA側は、同日付のプレスリリース*4で、

「グリー株式会社及びKDDI株式会社が、当社に対し、独占禁止法違反に関し訴訟を提起したとの報道がございましたが、本日まで、両社より当社に対し、何ら請求、打診等の無いまま、報道に至っております。」
「加えて、訴状が届いていないため、その内容も確認できておりません。」

と、グリー側の不義理をやんわりと批判しつつ、あっさりとかわし、さらにそれに続けて、

「なお、現在、当社が独占禁止法に違反する行為を行っているかのようなリリースがなされましたが、そのような事実はございませんので、お知らせいたします。」

と静かに反論しているのだが、グリーの側でも、当然にそのようなリアクションを予期していたのだろう、プレスリリースと同じ日に行われた記者会見*5においては、

─2011年6月にディー・エヌ・エーの代表が南場氏から守安氏に交代したが,マネジメントの入れ替えに伴う状況の変化は何かあったのでしょうか?
田中氏(注:グリー代表取締役社長・田中良和氏):
我々としては,とくに体質の影響はないと思っております。
あくまで我々のほうで,ゲーム会社から聞いた話ですが,当時の社長の方や今の社長の方に直接会うなり電話で,公正取引委員会から認定されたようなことを言われたが,どうしたらいいのかと,よく聞いておりました。
単独の役員の方がそう言っているのではなく,複数の社員,あるいは会社全体のマネジメントの意思として,こういう活動をされていたわけですから,我々としては,変わっていないのではないかと考えています

と、現在に至るまでDeNA社の“違法”体質が変わっていないことを匂わせるような応答もなされているところである。

既に公取委から排除措置命令が出され、DeNA側でもそれを争うことなく恭順の意を示している、という状況において、「いまもなお(同社の)違法行為が継続している」という攻撃を仕掛ける、ということは、一歩間違えば、信用棄損行為として大反撃を食らいかねない、リスクの大きい仕掛けといえるだろう。

にもかかわらず、上記のようなプレスリリース、記者会見により、大々的に論陣を張る(しかも、DeNAプロ野球界参入、という大きなイベントに合わせて)というところに、グリーという会社の覚悟と、したたかさを見てとることができる*6


さらに言えば、今回の訴訟に、DeNA側の行為の最大の“被害者”と目されるゲーム開発業者が加わっていない理由が、グリー側が言うような、

「報復行為に対する恐れがあるということで,難しいと考えている会社が多い」

というところにあるのだとしたら、今後の訴訟の進行や業界の勢力図の変動如何によって、DeNA側が更なるダメージを受ける可能性もある*7

そういう余韻を残したプレスリリース、記者会見を仕掛けることにより、市場での評価(投資家、取引先、ユーザーそれぞれの評価)において競合会社よりも優位なポジションに立つ・・・

一連の仕掛けが、そこまで見越して行われたものだとすれば、相当の策士だなぁ・・・と*8


今は事実上沈黙を保っているDeNA側が、今後どういう反論に打って出るか*9、そして裁判所によっていかなる事実が認定されるか、ということによって、今回の一連のグリーの訴訟戦略に対する評価もまた変わってくるだろうが*10、果たして状況が変わることがありうるのか。

いずれにしても、今後の展開から目が離せなくなっているのは、間違いないところである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20111022/1319311070http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110609/1319305910

*2:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20111022/1319311070

*3:http://www.gree.co.jp/news/press/2011/1121_02.html

*4:http://dena.jp/press/2011/11/post-106.php

*5:http://www.4gamer.net/games/136/G013654/20111122034/

*6:とはいえ、記者会見でのやり取りを見ていると、グリーの法務・知的財産部部長(長谷川泰彦氏)などは、比較的慎重な受け答えに終始しており(おそらく、長年この業界で経験を積んで来られた方だけに、勇み足の怖さは十分承知されているのだろう)、その辺りはまだおそるおそる・・・といった感は見え隠れしているのだが。

*7:DeNAの形勢不利」と見て、大手の業者を中心に訴訟参加や別訴提起の動きが相次ぐことになれば、DeNAのブランドイメージがより一層傷つくことになるのは間違いない。

*8:個人的には、グリー側に自社開発のゲームを供給して得られる利益と、DeNAに独占的にゲームを供給することによって得られた利益の「差額」を観念する、というのはかなり難しいような気がしていて、その意味で、ゲーム開発業者がDeNAの行為による損害を立証して賠償請求する、というのは、「報復」云々の問題抜きに、やりづらいことなのではないかと思ったりもするのであるが・・・。

*9:そもそも以前指摘した通り、公取委が一般指定14項を適用した、という判断自体に争い得る余地はあり、DeNA側が(風評を意識して)排除措置命令自体は争わなくても、こちらではガチンコで争う、という選択をしてくる可能性もある。http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110609/1319305910参照。

*10:今まで明らかになっていなかった「訴えた側の事情」が明るみに出ることによって、仕掛けた側が逆にダメージを受ける、というのも良くある話である。

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