だから商標は面白い。

「『面白い恋人』なんて面白くない」

という、笑うところなのかどうか迷ってしまうような見出し*1が紙上に踊った、「吉本『面白い恋人』事件」*2

日経紙の記事によれば、

「北海道の人気菓子「白い恋人」を製造・販売する石屋製菓(札幌市)は28日、類似商品で商標権を侵害されたとして、吉本興業大阪市)と子会社のよしもとクリエイティブ・エージェンシー(同)など3社に商品の販売差し止めや廃棄を求め、札幌地裁に提訴した。対象となったのは、3社が2010年7月から企画・販売する菓子「面白い恋人」」(日本経済新聞2011年11月29日付け朝刊・第42面)

ということで、現時点では差し止め、廃棄請求だけだが、今後損害賠償も請求するとのこと。

自分は、去年の秋だったか、今年の初め頃だったか、とにかく仕事で大阪に行った時に、大阪駅の土産物店に並んでいたこの菓子を見て、正直、「大丈夫かいな(苦笑)」と思った。

明らかに札幌の本家をもじったタイトルに、明らかに本家にインスパイアされたパッケージデザイン。

元々、大阪のお土産には、こういう“もじり”商品が多いし、「これ!」というずば抜けた菓子がない大阪の土産物業界にとっては、これくらいのインパクトのある商品の方が良かったのかもしれない。

だが、元ネタが「札幌出張の土産といえば『白恋』」というくらいスーパーメジャーなポジションにある菓子で*3、しかも、製造販売元が、法令違反には人一倍敏感になっていると思われる会社だった・・・というのは、吉本興業にとっては不幸の始まりだった*4

タカアンドトシや、大泉洋を輩出した土地柄を考えれば、当地の人々に、ジョークを理解するセンスがないとは思わないが、時計台、クラーク像と並ぶ地元のシンボルを“パクられた”となれば、心穏やかではない人も多いはずで、石屋製菓の訴え提起は、そんな地元の思いを代弁したもの、と言えるのかもしれない。


ところで、興味深いのは、本件で原告が「商標権侵害」に基づく請求を行っている、ということ。
商品パッケージの酷似性を考えれば、不競法違反を主張すれば当然に認められそうな気がするし、より詳しい記事等を見ると、当然ながら商標権だけでなく不競法違反に基づく請求も行っているようである。

だが、これが「商標権侵害か?」、と問われれば、首を傾げる人も少なくないのではなかろうか。

訴えられた側の商品名が、例えば「超白い恋人」とか、「もっと白い恋人」などであれば*5、当然、分離観察して“はい同一ですね”と一本取れるところだが、これが「面白い恋人」となれば、分離できるのはせいぜい

「面白い+恋人」

までが限界で、通常であれば、「面白い」という一応独立した称呼、観念を有する語の一部だけをひっかけて、「類似」と言ってしまうような判断手法は、取りづらいのではないかと思う。

既に報道されているとおり、「株式会社吉本倶楽部」が出願した「面白い恋人」という商標*6は、商標法4条1項11号等で拒絶理由通知が出され、意見書提出の甲斐なく、その後、平成23年5月31日に拒絶査定が出されている*7

石屋製菓というのは、かなり念入りに商標権を押さえている会社のようだから、出願された当初から「面白い恋人」の動きもきちんとウォッチしていて、登録を阻止すべく、特許庁に対して充実した情報提供等を行っていたのかもしれない。

しかし、査定時の類比判断と、侵害訴訟における類比判断が必ずしも一致するわけではない、というのは、本件に限らず、他の商標でも多々見られる現象だけに、上記のような「拒絶査定」となった実績だけで、今後を単純に占えるわけでもない・・・。


個人的には、何となくあっさりと和解で紛争を終えて、いつの間にか、石屋製菓吉本興業のタイアップ製品が出ていたりする・・・そんな展開も予想しているのであるが、果たしてどうなるか。

もし判決まで行くようなことになれば、最後の最後まで「商標の面白さ」を感じさせてくれるような展開になって欲しいものだなぁ・・・と思っていたりもするところで、今後の本件の帰趨には、ちょっと厚めに注目しておくことにしたい。

*1:石屋製菓の島田社長の発言、ということで各紙で共通して紹介されていたようなので、記事を書いた人を責めるわけにもいかないんだろうけど、なんかAERAの中吊りキャッチコピー的な見出し(苦笑)で、うーん・・・と思ってしまう。

*2:ここは日本随一のエンタメブランドに敬意を表して、事件名に発売企業名を入れておくことにしたい(笑)。

*3:お菓子としてのクオリティでいえば、「マルセイバターサンド」や「じゃがポックル」の方が上だと思うのだが、職場でばらまくには最適な分量と小分け包装、そしてコストパフォーマンスの良さゆえに、(例の不祥事で店頭から商品が消えていた時を除けば)「土産物」としては不動の地位を保っている、といって良い。

*4:大体、不祥事を起こした後に真面目に反省した会社、というのは、自社の過ちにも他社の過ちに対しても敏感になるものだ、と思う。

*5:センスのない例しか思いつかなくて恐縮である・・・。なお、IPDLを調べて見たら「知床の白い恋人」という商標が、今年に入ってから出願されていたが(出願人はオホーツク観光株式会社)、当然のことながら拒絶査定を食らっていた。

*6:平成22年8月25日出願、商願2010-66954号。

*7:通常であれば、ダメ元でも、不服審判を起こして不思議ではないところだと思うのだが、なぜか争われることなくすんなりと確定してしまったようである。

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