青と白。壮絶な戦いの末に。

成人の日が高校サッカーの決勝戦の日になって、はや10年近くになるだろうか。
高校野球と同じく、自分の世代がだいぶ離れてしまったこともあって、ここ数年は、見ても決勝戦だけ、ということが多く、特にこの2、3年は決勝戦の試合も見たか見てないか記憶が怪しいくらいなのだが、かつて憧れた“青の軍団”が3年ぶりに、しかも自分と同年代の新監督を擁して大会に戻ってきた、となれば話は別。

ある意味冷や汗ものだった初戦の結果を見たくらいでは、そんなに燃えることもなかったのだが、3回戦であの宿敵・清水商を圧倒して葬り去った*1、というニュースを聞いて、少年のように狂喜乱舞し、以後は、準々決勝、準決勝とヒートアップしながら、実に強い勝ち方を続けた千葉県代表チームを応援していた。

そして、今日の決勝戦

日テレのアナウンサーの空気読まない実況を聞かされるのも苦痛なので*2、昨日の夜までは、9年ぶりに国立競技場で見届けるつもりだったのだが*3、いろいろあってやむなく断念。

とはいえ、何年ぶりだろう、ってくらいに、テレビ桟敷にかじりついて、キックオフから1つ1つのプレーを見守っていた。

その結果は・・・

淡々と言葉で説明するなら、

開始直後に四日市中央工がコーナーキックから、浅野選手が先制ゴール。
試合終了間際、ロスタイムに、混戦から市船・和泉主将が同点ゴール。
延長後半、和泉主将が決勝ゴール。

と、たった3行で終わってしまう展開。
だが、それで終わらせてしまうのはあまりに無粋だし、この3つのシーンだけに派手な形容詞を付けたところで、その無粋さに大して変わりはない、というべきだろう。

点と点を取るまでの間、具体的には、四中工が1分経つか経たないかのうちに思いもよらぬ電光石火の先制点の利を得てから、91分に和泉選手が執念の同点ゴールを叩き込む(というか押し込む)までの90分間の張り詰めた緊張感と、双方が存分に持ち味を見せつけた激しい攻防こそが、この試合の最大のハイライトだったと思うから。


先制した後の四中工の戦術は、“堅守速攻“の伝統を誇る市船のお株を奪うような見事なものだった。

守備の要である國吉主将を累積警告で欠いた上に、個々の選手の能力では明らかに一枚落ちるように見えた白いユニフォームの軍団でも、全選手が献身的に守備に回り、ドリブル突破を図る青の選手を必死で止めに行けば、そうたやすくゴールを奪うことはできない。

そして、ボールを奪い返した僅かな隙を狙って、一気に速攻をしかけ、得点王争いをしていた2年生2トップ(浅野、田村翔の両選手)にボールを入れれば、あっという間にゴールに迫ってあわや、のシーンを作り出す。

GK・積田選手の再三にわたる好セーブ*4があったから良かったものの、前半から後半にかけて、こんな“蟻地獄”のような展開がずっと続いていたから、四中工があと一点取っていれば、市船イレブンの戦意を打ち砕くには十分だっただろう。

だが、運命の女神は、「とどめの一点」をなかなか白の軍団に与えなかった。

そうこうしているうちに、四中工の守備陣に疲れが見え始める。
特に、國吉主将の穴を体を張って埋めていた背番号25・生川選手が足を攣っているシーンが何度となく画面に映り、青い波がパス交換とドリブルを伴って何度となく白一色で固められた相手ゴール前を襲う・・・

いつ追いついても不思議ではない展開。

それでも、何度か大きなチャンスをもらった市船が、それを生かせないまま残り10分を切り、声援は涙交じりに変わっていく。

スタンドで観戦していた國吉主将がベンチコートを着てピッチサイドに降りてきたシーンがテレビ画面に映り、名将・樋口監督が90分近く耐え抜いた生川選手を交替でベンチに下げる。

ふわりと浮かしたFKに合わせた市船・岩渕選手の決定的なヘディングシュートは四中工の1年生GK・中村選手がはじき出し、44分過ぎのCKも四中工DFがクリア。何とか持ち直して右サイドから切り込んだ渡辺選手のクロスも、DFがあっさりクリア・・・。

コーナーキックを蹴るか蹴らないか、というタイミングで、僅か「2分」というロスタイムの表示が出たのを見た時、正直終わったかなぁ・・・と思ってしまったのは、自分だけではなかったはずだ・・・。


結局、その10秒後に和泉選手の同点ゴール*5が飛び出し、振り出しに戻った試合は、予定調和的に“青の軍団”の掌の中に収まることになるのだけれど*6、一方に肩入れして見ていたはずの自分ですら、白黒付けずに終わらせてほしい・・・そんなふうに思える試合だった。


市立船橋にしてみれば、土壇場の同点劇といい、延長戦に突入してからの一番苦しい最後の20分間での、全く隙のない試合運びといい、80年代後半から21世紀初頭まで“強豪”として名を馳せたチームの真骨頂を見せた試合だった、と言って良いだろう*7

子供の頃、エースストライカー・野口幸司選手率いる市船に憧れてボールを蹴ってたのが自分たちの世代で、そんな世代のいわば代表として、市船のユニフォームを着て国立のピッチに立ったのが初優勝を飾った世代の選手たち。

そして、その世代に憧れた選手たちが高校生になって青いユニフォームを着て、ピッチで優勝を飾る、というサイクルを何度か繰り返した末、ついに初優勝世代の元選手が監督として国立競技場の大舞台に帰ってきて、“強豪復活”を印象づける9年ぶりの優勝を飾るとは、何と素晴らしいストーリーだろう、と思う*8

ただ、今日だけは・・・。

市船よりも、もっともっと長い伝統を持ち、“三羽ガラス”を擁しての初優勝も3年早く成し遂げた、四日市の名門チームに、最大限の敬意を表したい・・・心からそう思った次第である。

*1:名将・大瀧監督のラストシーズンを飾らせてあげられなかった、というのは何か申し訳ない気持ちにもなるが、あと1点が遠かった88年決勝戦の悔しさを少年時代胸に焼き付けた筆者としては、やっぱり「清商に勝った」という爽快感に勝るものはない。

*2:カメラを回し続けていても、“静止画”のような絵になってしまいがちな駅伝中継ならまだしも、あんなに動きも展開も早いサッカー中継の中で、「OBの励ましの言葉」とか「スタンドのお母さんのコメント」とかをダラダラと垂れ流す意味が果たしてあるのか・・・と思ってしまう。試合を伝えてくれよ、って。

*3:9年前の選手権といえば、布・元監督が作り上げた最後の傑作と言われた世代(鉄壁DFの小宮山、青木、増嶋、そしてボランチ的ポジションの大久保を中心に完璧な守りを作り上げ、さらに原一樹カレン・ロバートの2枚看板が前線で暴れる、という市船の歴史上、最強に近いチームだった)が輝いていた大会である。ついこの前のことだと思っていたが、随分経ったものだ・・・。

*4:市船は、伝統的にGKの守備力には定評があるチームなのだが、今大会の何試合かを見る限り、このGKの反応とかポジション取りの良さは、歴代の名キーパーと比べても遜色ないレベルだと思う。準決勝、大分高校戦でFK後の決定的シュートを止めたシーンでも完璧にコースを読み切っていたし、他にもさらりとスーパーセーブを決めたシーンがいくつもあった。

*5:何が何だか分からない混戦の中で、和泉選手が叩きこんだあのゴールは、“執念”とか“値千金”とかいう言葉では形容できないような壮絶なものだった。そのちょっと前の時間帯には、軽いプレーでボールを相手に取られるようなシーンもあって、集中力が切れてしまったのかなぁ・・・と心配していたのだが、土壇場で見せたこの集中力。延長戦後半の見事なゴールと合わせて、主将としての責任を最大限果たすとともに、自らの将来への道も切り開いた、そんな活躍だったのは間違いない。

*6:代役とはいえ、守備の要で獅子奮迅の活躍を見せていた生川選手と、2トップの一角・田村翔選手をベンチに下げ、かつ疲労が目立つ守備陣を抱えた四中工と、俊足で技巧もさえる池辺選手、パスセンスが素晴らしい宇都宮選手、と、行きのいい交替選手が余力を残していた市船とでは、延長戦に入ってからの戦力差も明白だった。

*7:テレビの実況では、「伝統校」というフレーズが繰り返し使われていたが、布監督が就任して間もないフレッシュな時代の市船を知っている自分としては、どうもしっくりこない(もちろん、その後に短期間で作り上げた実績は物凄いものだったのだけど。)。

*8:朝岡新監督は高校時代はFWだったが、あの大会の得点王・森崎選手とスーパー1年生・北嶋選手の陰に隠れ、少なくともあの選手権では地味な存在だった(決勝戦、発熱でベンチに入れなかった、というエピソードはテレビでも何度か繰り返し伝えられていたが、アクシデントがなくても・・・というところではあった)。それがこんなところで堂々と主役を張るとは。全国レベルの強豪校ぞろいで予選を勝ち抜くことさえ容易でない千葉県内のチームの宿命もあり、期待がより大きくなる次年度からがまた大変だなぁ・・・とは思うけど、頑張ってほしいな、と。

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