これは「クラウド」の問題なのか?

年明け最初の日経法務面。
どんな記事が出るんだろう、とワクワクしながら9日の朝刊紙面を開けたら、期待通り、

「『クラウド』普及に法的課題」

という、何とも美味しい見出しの特集が組まれていた。

確かに、最近、講演やセミナー等で登場する著作権絡みの話題といえば、「自炊」でなければ「クラウド」、と相場が決まっている(笑)*1

それだけネットワークを通じたコンテンツの利用と著作権法との関係に関心が集まっているということで、そこを新年早々取り上げる日経紙はさすがだなぁ、と思ったのだが・・・。


残念ながら、記事を読んでいくと、「これって、『クラウド』特有の問題なのかなぁ」と首を傾げたくなるネタも多かった*2

特に冒頭で出てくる、「大量にテレビ番組を録画できるデジタル録画機を修理に出した顧客に対し、その間の番組を録画機メーカーが録画してネット上に保存し、修理完了後に顧客に送る」などというのは、「クラウドサービス」の問題でも何でもない、単純に「それは違法でしょ」と片づけられてしまう問題のようにも思える*3

これに関連した、

「コンテンツ利用自体を目的としたサービスでは法改正も必要で議論に時間がかかるだろうが、バックアップ目的のクラウド利用には既存の著作権法の枠組みで早めに対処したい」

という文化庁著作権課の大胆なコメント(?)も紹介されているのだが、上記のような事例がそもそも「バックアップ目的」と言えるのかどうか疑問だし、著作権者以外の者が権利者に無断で「配信」サービスを行うことについて、「既存の著作権法の枠組み」の中で対処できるとも到底思えない。

「ハードディスクに保存している適法にダウンロードした画像、映像を、バックアップ目的で第三者が運営するサーバ上に退避させ、修理後にダウンロードする」というのであれば、まだ分かるのだけれど・・・。


記事の中でもちょっとだけ取り上げられている平成19年の「MYUTA」事件のように、

「実質的には「私的使用」の枠内で完結していても、第三者の運営するサービスを介する、というシステム構成ゆえに違法とされてしまうことの問題性」

こそが、「クラウド著作権」というテーマの元を論じる上での最大のトピックだと思うのだが、この記事は、どちらかというと、このようなトピックと、単純な「配信サービス」の事例の適法性の問題とがごっちゃになってしまっているように見受けられるところがあり、自分はそこにどうしても違和感を抱いてしまう。

限られた紙面の中に、外為法や個人情報保護の話と一緒に著作権法の話題を押し込めないといけない、という制約ゆえなのかもしれないが、そんな消化不良さが、(見出しで期待しただけに)ちょっと残念であった*4

*1:しかもこの2つのネタは二律背反的なものではないので、内容的には何となくかぶるところも多い。

*2:元々「クラウド」という用語自体が、極めて多義的に使われており、特に日経紙の産業関連記事には、その傾向が顕著なので、今回の法務面を担当した記者の方も、それに引きずられてしまったのかもしれない。

*3:もしかすると、この「スパイダー」という機器は、機器本体に録画した番組映像を蓄積するものではなく、録画指示を出した番組をサーバ上に蓄積してダウンロードする、というタイプのものなのかもしれない(そうであれば、一応「クラウド」特有の議論が出てくる余地はある)が、記事からはそうは読めない。

*4:せっかくこのテーマに手を付けられたのだから、今回担当された記者の方には、より制約が少ない別の機会に、著作権にテーマを絞って腕を奮っていただきたいものだと思う。

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