競業避止特約の有効性をめぐる一事例

14日付けの朝刊に掲載された「アリコ社の転職禁止条項『無効』」事件を、少し懐かしい気分で眺めていた。

「優秀な人材とノウハウの流出防止を目的に、外資系生命保険会社が執行役員との間で取り交わした「退職後2年以内に競合他社に就業するのを禁止し、違反した場合は退職金を支給しない」とする契約条項の有効性が争われた訴訟の判決で、東京地裁は13日、「職業選択の自由を不当に害し、公序良俗に反して無効」との判断を示した。」(日本経済新聞2012年1月14日付け朝刊・第38面)

「労働者の退職後の競業避止義務」というのは、我妻栄博士の時代からの(もしかすると、もっと前からの)一大論点、知財法と労働法の規律が交錯する(そして、双方の研究者がそれぞれ言いたいことを言っている)非常に面白い領域で、自分も一時、いろいろと調べ物をしていたことがあった。

さすがに、最近はほとんどフォローできてないし、ちょっと判例DBを見ると、ここ数年でかなりの数の裁判例が世に出されているようだから、すっかり時代に取り残されてしまったかも・・・という不安はあるのだけれど、

「光本洋裁判官は、男性はアリコ社で機密情報に触れる立場になく、転職後は異なる業務に携わっていたとして「アリコ社に実害が生じたとは認められない」と指摘。「転職先が同じ業務を行っているというだけで転職自体を禁じるのは制限として広すぎる。禁止期間も相当ではない」とした。」

といった判示を見ると、「秘密保持(機密保持)とリンクする競業制限」なのか否か、によって有効性の判断基準を変える(リンクしない場合は、競業禁止規定の有効性を厳格に判断する)、というここ10年くらいの流れは、依然として踏襲されているように思われる。

競業行為の差し止め自体には厳しい姿勢を示しつつも、損害賠償請求や退職金の一部減額(特に後者)については比較的許容しがちな傾向にあった裁判所のスタンスを鑑みれば、メットライフアリコ社の競業制限規定が、「退職金全額の不支給」ではなく、もう少し段階的なもの(原則半額、悪質な場合には全額等)になっていれば、もう少し異なる結論になったのでは・・・という気もするのであるが、「執行役員」という地位ゆえに、会社としても、ある種教条的な厳しい規定を設けていたのかもしれない。

いずれにしても、事実認定とそれに基づく評価によって、結論が正反対の側に振れても不思議ではない事案だと思うだけに、今後の行く末に注目したいところである。

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