未だ彷徨い続ける「MYUTA」の亡霊とクラウドの未来。

昨年初めに、まねきTV/ロクラク2の最高裁判決が出て以来、「クラウドサービスと・・・」というネタだけで一年が終わってしまった感がある著作権業界。

年が明けても、その流れは未だ健在のようで、我らが日経紙も先週の「法務インサイド」に続き、「@ネット」面でもこの話題を取り上げている。

題して、

「音楽クラウド『暗雲』」

という、ちょっと洒落たタイトルの記事*1

もっとも、内容としては、巷で言われているような、

「米国など諸外国では、アップルの『iCloud』をはじめとするクラウド音楽配信サービスが続々と開始されているが、我が国では著作権が壁となって導入が遅れている」

というレベルの話に留まっており、さほどの真新しさは感じられないのだが・・・。


ちなみに、記事の中では、「日本では(クラウド型サービスの)著作権に関する線引きが曖昧で、見解に違いがある」という点がかなり強調されており、

「利用者が一度購入した楽曲であっても、サーバーに手元の楽曲を送信することは「事業者」による複製となる、との立場」

を採用するJASRACが、「クラウドサービスの利用に(追加コストとしての)著作権料の支払いを要求していること」が導入の障害になっているかのような書かれ方をしているのだが、現実には、アップルと権利者サイドの交渉の内容は、“神のみぞ知る”状況なわけで、本当にそうなのか、というのは、記事を読んでも、正直よく分からないところである。

いくら米国にフェアユースの規定がある、といっても、アップルが全く無許諾で当地でのクラウド型音楽共有サービスを行っているわけではなく、当地のレコード会社から許諾を受けてことを進めている、というのは日経紙の記事に書かれているとおりだし、他に例として挙げられている英国のスポッティファイにしたって、米国での音楽配信を行うにあたっては、現地のレコード会社からかなり激しい抵抗を受けていたようだ*2

また、グーグルやアマゾンなどは、クラウド型のサービスを開始するにあたって、レコード会社の許諾を取っていない、という話も見聞きするところだが、そういったサービスが米国で未来永劫適法なものとして継続しうるか、といえば懐疑的にならざるを得ず、将来的には、強力な音楽業界のロビー活動に基づく法改正の結果か、あるいは、コンテンツ配信を可能にすることとのバーターといった手法によって、包括的な許諾契約の枠の中に取り込まれる可能性も否定できないだろう。

要するに、

「新しく登場したユーザーフレンドリーなサービスに対して、既存の権利者が抵抗感を示し、その導入がなかなか進まない」

というのは、(特に音楽の世界では)日本に限らず万国で共通して生じ得る問題、ということなのだと思う。

日本の場合、JASRACが音楽著作権を集中管理して事業者との交渉をも担っている、という事情があるから、レコード会社と直接交渉する場合と比べて、融通が利かない側面はあるのかもしれないし*3、「日本だけが特殊なんだ!」と強調することによって、事業者、ユーザー主導で、コンテンツを利用しやすくする世論を形成していく、というのは決して悪いことではないと思うのだが*4、だからといって、感情的な権利者&JASRAC批判、さらには、日本の著作権制度批判に走る、というのは、ちょっと筋が悪いのではないかな・・・と思うところ。


あと、記事の中で、「アップルなどのクラウド事業者」が日本進出をためらう「元凶」のように名指しされた、

「2007年に音楽クラウドに似たサービスが著作権侵害として訴えられ、音楽権利者側が勝訴した地裁判決」

が現に存在するのは事実で、(当ブログを5年以上前からご覧になっている読者の方には改めてご説明するまでもない)「MYUTA」事件判決と称されるこの忌まわしい判決(東京地判平成19年5月25日)*5のおかげで、国内においても、参入を検討している事業者の間で、クラウド型コンテンツサービスに対する警戒感が未だに強いことも否定できないのだが*6、地裁判決だけで終わっている5年前の一事例の“亡霊”に、いつまでも脅えて、そこから先に踏み出せない、というのは、あまりに寂しい話だ。

結局、時代の先を行き過ぎた(?)のか、当事者となったイメージシティ株式会社は、判決の約1年後に解散を余儀なくされてしまったわけだが*7著作権者側を条件面でうまく巻き込んでサービス開始にこぎつけるのか、それともサービス開始を強行して法廷でJASRACと再度白黒決着を付けるのか、といったやり方はともかく、誰かが先陣を切って、この亡霊を退治しないことには、時代はなかなか前に進んでいかないだろう。

できれば、GoogleでもAmazonでもAppleでもない、日本の会社に、サービスの先陣を切って、イメージシティの無念を晴らし、この亡霊を退治して欲しいものだ、と願っているのであるが・・・。


なお、記事の中で紹介されていた「クラウドコンピューティング著作権に関する調査研究報告書」については、既に文化庁の審議会HP上にもアップされているところなので(http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h23_shiho_06/gijiyoshi.html)、機会があれば、後日おって内容をご紹介することにしたい。

*1:日本経済新聞2012年1月19日付け朝刊・第12面。おそらく記者の方は、「クラウド」と「雲」をひっかけて、こんなお洒落なタイトルにしたのだろうけど、気付かずに通り過ぎた一般読者も少なからずいたのではないかと思われる・・・。

*2:http://www.lait.jp/copyright.php?itemid=765など参照。これは純粋な音楽配信の話なので、ここでの話題とはちょっとフェーズが変わってくるが、「音楽」に抵抗はつきもの、というのが、洋の東西を問わず共通していることが分かる、という点では、意味がある話題だと思う。

*3:レコード会社と配信業者が直接交渉するのであれば、双方の思惑の一致により、トントンと話が進む場合もあるだろうが、原則としてすべての権利者を同一条件で扱わなければならない集中管理団体との交渉、ということになると、どうしても統一的なルールが形成されるまでは、お互い動きにくい、という状況になってしまうものと推察される。

*4:もちろん、筆者もそれによって大いに恩恵を受ける立場にあるので(笑)。

*5:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070528141551.pdf

*6:まねきTV事件やロクラク2事件のインパクトは、「テレビ放送」という狭い領域に最高裁判決の射程を押し込めることによって縮小されつつあるが、「MYUTA」事件のインパクトは、両最高裁判決を検討する過程の中で、かえって高まっているようにすら思われる。なお、当時の記事については、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20070530/1180457919参照。判決が出た当時から、凄まじい反響があった事件だった。

*7:http://www.infocom.co.jp/info/press/2008/p08033101.html参照。地裁での敗訴判決後、「改めてサービスを再開することを目指します」と高らかに宣言していたこの会社が消滅してしまったことが、事件の“亡霊感”をなおさら濃くしていることは否めない。しかも、「差止請求権不存在確認訴訟」という、サービス事業者が自ら提起した争訟で後々まで引きずられるような判断が示されてしまった、ということも、ことの悲劇性を際立たせているように思える。