これを“お手盛り”と言わずに何と言おうか。

ここのところ毎日のように業界の話題に上がってくる、会社法改正の中間試案の話題。

経団連が予想通り、強気の意見を出してはいるものの*1、「ガバナンス強化」一辺倒の掛け声の中では多勢に無勢。

おそらく、社外取締役最低1名の導入義務付けは不可避だろう、というのが業界雀たちの共通認識ではある。

だが、そんな情勢に悪ノリするかのような意見書が、日弁連から出されているのを発見して、自分は愕然とした。

日本弁護士連合会「会社法制の見直しに関する中間試案に対する意見」(2012年1月18日付け)
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/opinion_120118.pdf

問題なのは、社外取締役の要件に関する16頁の以下の記述である。

社外取締役の独立性を高めるために,業務執行に関与する者,親会社等の関係者,経営者の近親者等でないことのほか,(注2)にある重要な取引先等の関係者でないことを「社外」性の要件とすることが必要である。ただし,重要な取引先等の関係者の対象(範囲)を,法的規律として適切かつ明確に定めることができるかどうか,法的安定性の観点より,なお検討を要する。」
「さらに,社外取締役の独立性を高め,近年の上場会社に発生している不祥事を未然に防止するためにも,社外取締役の業務監査(特に適法性監査・監督)の実を上げ,コンプライアンス監査の質を向上させる必要があり,社外取締役の中に1人以上の法律専門家(旧弁護士法第5条の大学法学部教授,裁判官,検察官の職に一定年数以上在職した者及び弁護士)を選任するよう会社法で義務付ける必要がある。」

「法律専門家」というオブラートに包んだ書き方としてはいるものの、上記の定義であれば、その圧倒的多数が「弁護士」になることは言うまでもあるまい。

そして、日弁連の意見書では、「社外監査役」についても同様に「法律専門家」の選任義務付けを提言した上で、「責任限定」については、

「責任限定契約等の規律が会社法に導入された経緯を考察すると,実務的に広く人材を募りやすくする必要性が高いことから,職務執行の対価として,取締役等が受ける財産上の利益の一定額とする責任の限度を設けることが,望ましい。」(18頁)

と、ちゃっかり主張している・・・。


そもそも、この意見書は、社外取締役の役割に関し、

「この点,(1)経営効率の向上のための助言を行う機能を求めるのであれば,確かに事業に対する理解が必要であろう。しかし,国内・海外投資家をはじめとする利害関係者の一層の信頼確保のために,社外取締役に求められる機能で重要なものは,(1)(注:経営効率の向上のための助言を行う機能)よりも(2)(注:経営全般の監督機能)、(3)(注:利益相反の監督機能)である。(2)(3)の機能を発揮するためには,当該会社における業務特有の事業環境に対する理解は必要ではなく(当該会社の事業への理解については,取締役会における報告事項や議案について,余裕をもった日程で事前説明が十分に行われれば足りると考えられる。),会社経営一般に対する理解,法令遵守コンプライアンス,倫理,社会通念等に対する理解が必要である。したがって,このような知見を有する者を社外取締役に選任すればよく,かかる人材は市中に多く存在するはずである。」(2〜3頁)

という見解を開陳してしまっていて、その辺に企業経営に対する理解の浅薄さが如実に現れてしまっているため*2、その後の記述が何ら説得力を持たないものになってしまっているのであるが、仮にこの前提を是として考えるとしても、

「業務監査の実を上げ、コンプライアンス監査の質を向上させるために、なぜ『法律専門家』の選任を義務付けることが効果的なのか?」
「上記のような目的達成のために義務付けられる『法律専門家』が、なぜ法曹関係者(&大学教授)だけなのか?」

という素朴な疑問に答えるだけの理由づけが何らなされていない、という点で、致命的な欠陥があると言わざるを得ない。


そもそも、「監査」において「法に違反しているかどうか」という判断は、「現にその会社の中で何が行われているか」という事実の正確な認識なくしては、成しえないものである。

そして、そのための材料を拾い上げることができる能力は、既存の「法律家」よりも、「財務・会計・税務の専門家」や、「企業犯罪に精通した警察関係者や新聞・雑誌記者」の方が、遥かに高いのではないか、と思われる*3

事業や会社の業務運営そのものに対する理解、経験が乏しく、かといって財務、経理関係議案のからくりを一目で見抜けるほどの“知識”も持たない「専門家」が、一般論を振りかざしたところで、不正をたくらむ輩がひれ伏すはずもなく、指示された事項に淡々と「法令上問題はございません。」「適切に対処されております。」といった模範解答を返して終わり・・・となるのは目に見えているわけで*4、この提案が現実化した結果、必要な能力を欠く「専門家」が社外取締役としてあちこちに迎えられ、最終的には会社もろとも“打ち首”になる、ということになるリスクも極めて大きいのではなかろうか*5


まぁ、弁護士過剰が叫ばれるこの時代、ちょっとでも「職域拡大」につながれば・・・という思いを込めての提案なのかもしれないが、“ステルス”にもなっていない、こんな露骨なマーケティングを、公に出す意見書の中でしでかすとは、あいた口がふさがらない・・・というのが、率直な感想である。

日経紙あたりで晒し者になって、辱めを受ける前に、↑のくだりだけでも、良識ある中の人によって、撤回していただけないものか、と末端の人間としては、願うのみなのだが・・・。

*1:http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2012/007.html

*2:ありきたりな汎用的知識だけで「経営全般の監督」ができるほど企業経営というのは甘い世界ではないし、「事業に対する理解は、議案の事前説明を受ければ十分」などという心構えで取締役会に臨むような社外取締役であれば、何人集まったところで、各議案に孕む潜在的なリスクを一つたりとも見抜けないまま、“物言わぬ取締役”として任期を全うして終わり、ということになってしまうだろう。

*3:この点に関してはあまり強気なことは言えないが、それでも、「会社の中のドロドロとした案件が、どのようにお化粧して取締役会の場に出てくるのか」ということを良く良く分かっている企業法務の経験者や監査業務経験者の方が、巷の弁護士よりは、まだマシだと自分は思っている。

*4:この意味において、「弁護士バッヂ」は水戸黄門の印籠には決してなりえない。

*5:逆に、隠れた事実を見抜けるだけの優れた洞察力と、法律に限らず企業経営全般に有用な知識を備えた「法律専門家」であれば、今でも既に多くの会社によって社外取締役に迎えられているはずだし、今後も、あえて法で義務付けるまでもなく、(社外取締役を義務付けることさえすれば)自ずからその能力にふさわしいポストで迎えられるはずだ。

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