「ゆう」だけでは守れなかったブランド

今月の12日に判決が出され、翌日の朝刊にセンセーショナルな見出しが躍った「ゆうメール」商標権侵害差し止め請求事件*1

判決が最高裁HPに掲載されるまでに少し時間がかかったこともあって、本格的に紹介するのが遅くなってしまったが、もう1月も終わり、ということで、札幌市の一ダイレクトメール発送代行会社が天下のJPを完膚なきまでに打ちのめした、というこの歴史的な事件をここで見ておくことにしたい。

実務上貴重な、様々な教訓が散りばめられている、そんな事件である。

東京地判平成24年1月12日(H22(ワ)第10785号)*2

原告:株式会社札幌メールサービス
被告:郵便事業株式会社

全国的には無名の会社ながら、代理人に小松陽一郎弁護士を擁する原告と、あの三村量一弁護士を代理人に迎えた被告が、ガチンコでぶつかりあったこの事件。

以前のエントリーでもご紹介したように、原告が、

第35類「各戸に対する広告物の配布、広告、市場調査、商品の販売に関する情報の提供、広告用具の貸与」

を指定役務とする「ゆうメール」(標準文字)商標を保有していたのに対し(登録第4781631号)、第39類(郵便,メッセージ又は小荷物の速配,メッセージの配達,物品の配達)を指定役務とする「ゆうメール」商標を保有する被告が、

「ゆうメールサービス」:冊子状の印刷物等を送付するサービス(指定役務1)
「配達地域指定ゆうメールサービス」:あて名(受取人の氏名及び住所又は居所)の記載を省略した荷物について,一定の地域(町丁目単位)内のすべての世帯・事業所に配達するサービス(指定役務2)

と、「ゆうメール」を含む名称のサービスを提供していたことから、紛争に発展したものである。

「配布」=「配達」という判断がもたらした衝撃。

本件の最大の争点は、

「被告各役務が本件原告商標の指定役務である「各戸に対する広告物の配布、広告」と同一又は類似の役務であるといえるか。」

という点にあった。

「「配布」とは「広く配ること」であり、配布の相手方は不特定の者である。これに対して、「配達」は「配り届けること」であり、配達の相手方は特定の者である。」(6頁)

として、「配布と配達とは本質的に異なる概念」だと主張し、さらに、「類似商品・役務審査基準」における分類や「取引の実情」等などを挙げて反論を試みる被告に対し、原告が、

「配布(広く行き渡るように配ること)と配達(家々に配り届けること)は類語であり、各戸に対する配布と配達は同義である。」(11頁)

と再反論し、現に第35類において「ダイレクトメールによる広告物の配布」、「郵便による広告物の配布」といった役務名が採用されていること等も合わせて指摘して自らの主張の妥当性を訴えた、というのが、この争点をめぐる議論の概要。

被告は、自ら出願した商標が蹴られたこと等から、原告が第35類において「ゆうメール」商標を保有していることを重々承知していたにもかかわらず*3、それでもなお、自社の役務に「ゆうメール」という名称を付けて使った・・・という経緯があっただけに、被告としても負けられない戦いのはずだった。

だが、地裁が示した判断と言えば・・・

ア 本件指定役務である「各戸に対する広告物の配布,広告」の意義について
(ア) 「配布」とは,ひろくくばること(広辞苑,略),広く行き渡るように配ること(略)である。したがって,「各戸に対する広告物の配布」とは,広告物を広く行き渡るように家々に配ることを意味する。なお,「配達」とは,くばりとどけること(広辞苑,略),家々に配り届けること(略)である。
(イ) 「広告」とは,商品,役務(サービス),情報等をその提供者を明示して,第三者に告知し,その入手,使用等を勧誘する活動をいう(当事者間に争いがない)。
イ 上記(1)アのとおり,被告役務1は,冊子状の印刷物等を,利用者が指定した荷受人の住所又は居所に配達する役務であり,信書や手書きの紙など印刷を利用していないものは役務の対象から外されており,配達の対象となるものは,書籍,雑誌,商品カタログ類,会報,各種マニュアル類及び電磁的記録媒体(CDやDVD等)と様々である。そして,上記(1)エのとおり,被告自身,被告役務1の利用方法として,商品カタログ,パンフレット,ダイレクトメールといった広告物が含まれるものの配送に利用することを宣伝しており,上記(1)ウのとおり,実際に,被告役務1は広告物の配達に利用されているから,被告役務1の利用者も,被告役務1を広告物の配達に利用することができると認識していると認められる。したがって,被告役務1の配達の対象が広告物であるときは,被告役務1は,利用者が指定した荷受人の住所又は居所に広告物を配達する,すなわち,広告物を配り届ける役務である。
これに対して,本件指定役務の「各戸に対する広告物の配布」とは,広告物を広く行き渡るように家々に配ることを意味するから,配達の対象が広告物であるときの被告役務1とは,「広告物を配る」という点において共通し,両役務は類似する関係にあるといえる。さらに,被告役務1の利用者が,多数の家々に広告物を配る際に被告役務1を利用すると,被告役務1は,広告物を広く家々に配り届ける役務となる。このような場合において,本件指定役務と被告役務1とは,ほぼ同一の内容となる
以上検討したところによれば,被告役務1の配達の対象が広告物である場合には,被告役務1と本件指定役務の「各戸に対する広告物の配布」とは,少なくとも類似の関係にあるといえる。(33-34頁)

ウ 上記(1)イのとおり,被告役務2は,あて名の記載が省略されること,利用者が指定した一定の地域内のすべての世帯・事業所に荷物を配達すること以外は,被告役務1と同内容の役務である。そして,上記(1)エのとおり,被告自身,被告役務2を広告の手段として利用することを宣伝しており,上記(1)ウのとおり,実際に,被告役務2は広告物の配達に利用されているから,被告役務2の利用者も,被告役務2を広告物の配達に利用することができると認識していると認められる。したがって,被告役務2の配達の対象が広告物であるときは,被告役務2は,利用者が指定した一定の地域内のすべての世帯・事業所に広告物を配達する,すなわち,一定の地域内のすべての世帯・事業所に広告物を配り届ける役務である。
これに対して,本件指定役務の「各戸に対する広告物の配布」とは,上記のとおり,広告物を広く行き渡るように家々に配ることを意味するから,被告役務2の配達の対象が広告物であるときは,両役務は,広告物を広く行き渡るように家々に配るという点で,ほぼ同一の内容となる。
よって,被告役務2の配達の対象が広告物である場合には,被告役務2と本件指定役務の「各戸に対する広告物の配布」とは,ほぼ同一の内容であり,少なくとも類似の関係にあるといえる。(34-35頁)

という被告には実に厳しい判断。

そして、被告の反論については、

「そもそも配布と配達は類語の関係にあり(略),また,「商品及び役務の区分」は,商品又は役務の類似の範囲を定めるものではない(法6条3項)から,被告が主張する第35類と第39類の関係が,直ちに本件指定役務である「各戸に対する広告物の配布」と被告各役務が類似するか否かの判断に影響を及ぼすものではない。そして,被告各役務の具体的内容と本件指定役務の「各戸に対する広告物の配布」の意義から両役務の類似性について検討すると,上記ウで説示したとおりとなる。」(35頁)

と一蹴される結果となってしまった*4

「配布」「配達」それぞれの日本語の語義はともかく、いわゆる「広告物の配布」といって常識的に思い浮かべるのは、街頭でのティッシュ配りだったり、「ポスティング」の類だったりすることが多いだろうから、「郵便を使った広告送付」を「広告物の配布」と事実上同視する上記のような判断に違和感を抱いた人もそれなりにいることだろう。

また、仮に「配布」=「配達」という判断を前提とした場合、「特定地域の住戸に一斉に配達する」という指定役務2のサービスについては、性質上、原告商標の役務と(少なくとも)類似するという判断は避けられなかったように思われるが、指定役務1については、考えようによっては被告の反論の理屈も成り立つように思えただけに、ここまで一方的な展開になるとは・・・というのが自分の率直な感想である。

とはいえ、この肝心要のポイントで不利な判断を食らってしまったがゆえに、被告は一気に窮地に追い込まれることになってしまった。


これに続く被告の反論はどれも苦しい。

「被告のハウスマークが打ち消し表示として働く」という主張や、「郵便局の窓口で被告各役務の提供を受ける際には、被告の役務の提供を受けることを認識している」という主張は、「常にそのような表示、場面に限られるわけではないことが明らか」とあっさり片付けられている。

また、かねてからゆうパック商標を被告が長年保有、使用していることを根拠とする商標法4条1項15号該当性の主張についても、

「本件商標「ゆうメール」と被告商標「ゆうパック」とを比較すると,外観は「ゆう」のみが共通するだけで全体として異なったものであり,称呼は「ユウメール」と「ユウパック」で異なり,その観念においても,「ゆう」だけではいかなる観念が生じるか直ちに明らかではなく,「メール」からは,郵便,郵便物,電子メール(広辞苑第6版)の観念が生じ,他方「パック」からは,包装すること,包装したもの(広辞苑第6版)の観念が生じるから,両者は観念においても異なる。したがって,そもそも本件商標と被告商標「ゆうパック」とは,その類似性が乏しいといわざるを得ない。その上,被告商標「ゆうパック」は,一般小包郵便物に利用されているが,そのサービスと本件指定役務である「各戸に対する広告物の配布,広告」との関連性も大きいものとはいえない。そうすると,たとえ被告商標「ゆうパック」自体が著名であったとしても,以上説示の点を考慮して総合的に判断すると,本件商標が,その出願時及び登録時において,被告商標「ゆうパック」を使用した被告の役務と出所混同のおそれのある商標であったということはできない。」(40-41頁)

とあっさり退けられた。

ゆうパック」という被告商標の著名性それ自体については、裁判でも争われていたものの*5、裁判所は、「平成11年以降、宅配便業界で5%以上のシェアを占め、毎年1億個以上の荷物を取り扱っていた」という事実から、原告商標登録時点において、「既に全国的に著名な商標となっていた」ことを認めていた。

しかし、上記のとおり、「ゆうパック」と「ゆうメール」の商標法的3要素(外観、称呼、観念)からみた類似性が乏しい上に*6

「被告は,「ゆう○○」の構成の商標は,郵便事業に関係する商品・役務については,被告又は日本郵政の使用する商標として需要者に認識されており,「ゆう」は郵便の「郵」を意味する旨主張する。確かに,被告が主張するとおり,上記「ゆうパック」のほか,郵便貯金を意味する「ゆうちょ」(略)や郵便局で郵便物の引受け等を行う「ゆうゆう窓口」(略)など,「ゆう」が「郵」を意味する「ゆう」として使用されていると考えられる商標が複数存在する(略)。しかし,「ゆう」自体,ひらがな二文字から構成される短い言葉であること,「郵」以外にも「ゆう」に対応する漢字が多数考えられること,実際に,郵便の「郵」以外を意味すると考えられる「ゆう」を使用した登録商標も多数存在すること(略)からすれば,必ずしも「ゆう」が「郵」を意味するとはいえず,本件指定役務と郵便事業との結び付きの程度をも考慮すれば,被告の主張は失当であるといわざるを得ない。」(41-42頁)

と、「ゆう」だけでは、被告の出所識別標識にはなりえない、と判断されてしまったことが致命的だった。

平仮名2文字とは言え、「ゆう○○」というネーミングの商品・サービスが出てくれば、「郵便局のサービス」*7を思い浮かべる人は決して少なくないはずだ*8

だが、それを裁判の場で前面に押しだして、出所識別性あり、と主張するには、自社の宣伝も、多数登録されている他社の「ゆう○○」商標等への備えも、不十分だった・・・というのが、地裁段階での裁判所の評価につながってしまったものと思われる*9

統一的なブランド構築を考える上で、どういうフレーズを共通の“接頭辞”にするか、というのは、一番重要で、悩ましいところなのだが、本質的に出所識別力がない短い文字の組み合わせ等を“接頭辞”にしてしまうと、第三者商標とのバッティング等でいろいろ苦労することになる、ということは、心にとどめておいた方が良い、ということなのだろう*10

実らなかった被告の反撃〜商標法4条1項7号、商標法4条1項19条該当性及び権利濫用の抗弁について

さて、こういう展開になってくると、被告としては、原告の出願経緯等に着目した公序良俗違反(4条1項7号)、不正目的使用(4条1項19号)といった商標無効理由の主張や、権利濫用の抗弁等を立てるくらいしか打つ手がなくなる。

かたや地方の一ダイレクトメール事業者に過ぎない原告に対し、被告は、全国規模、官業の流れを受け継ぐ一大企業だから、「被告又は日本郵政が使用する可能性が予測できる商標を先取り的に登録しようとする不正目的」あり、という主張も、それなりに説得力を持って聞こえるところではある。

だが、裁判所は、以下のような経緯を認定した上で、被告側の主張をバッサリと切り捨てた。

(ア) 原告は,平成15年4月30日,本件商標の登録出願をした。
(イ) 原告代表者A及び原告の専務取締役であるBは,平成15年7月28日,郵政公社を訪れ,郵便事業本部営業企画部の商品開発担当部長らと面会し,「ゆうメール」(仮称)と原告が名付けたビジネスモデルについて説明を行った。このビジネスモデルは,概要,郵便局と原告の業務提携を提案するもので,あて名のない,ちらしが封入されたダイレクトメールを配布するサービスで,郵便局等で受付を行い,ちらしの封入,仕分けを原告が行い,郵便局がダイレクトメールを配達するというものであった。しかしながら,郵政公社は,原告のこの提案を断った。
(ウ) 佐川急便株式会社は,平成16年3月,同社がメール便を集荷し,郵政公社冊子小包を利用してその配達を行うという,「佐川ゆうメール」のサービスを開始した。
(エ) 本件商標は,平成16年6月25日に登録された。
(オ) 郵政公社は,平成16年4月8日,商品及び役務の区分を第35類,指定役務を広告等としてゆうメール(標準文字)の商標登録を出願した(商願2004−033411号)。しかし,上記商標は,その出願の日より前の商標登録出願に係る登録商標である本件商標と同一又は類似であって,本件商標に係る指定役務と同一又は類似の役務に使用するものであり,法4条1項11号に該当するとして,平成17年1月18日,特許庁により上記商標登録出願は拒絶された。なお,郵政公社が,上記の出願と同日である平成16年4月8日に出願した,商品及び役務の区分を第39類,指定役務を郵便,メッセージの配達,物品の配達,小荷物の配達等としたゆうメール(標準文字)の商標は,同年11月26日,商標登録された。さらに,郵政公社は,同日,ゆうメール(標準文字)の商標を,商品及び役務の区分を第6類,第9類,第16類,第17類,第18類,第19類,第20類,第22類,第38類及び第41類として登録出願し,いずれも商標登録された。
(カ) 原告は,平成18年2月2日,株式会社一条(以下「一条」という。)に対し,同日から平成20年1月31日まで,同社の所在地である和歌山市を中心とした近畿圏において,本件商標権について通常使用権を無償で許諾した。そして,一条は,平成18年4月から9月にかけて,本件商標を使用し,クーポン券が付属した広告物を各戸に配布する役務を,配達地域指定冊子小包を利用して提供した。
(キ) 被告は,平成19年10月1日に設立され,郵政公社からその事業を引き継ぎ,これまで冊子小包として提供していた役務の名称を「ゆうメール」と変更し,この役務について,被告各標章の使用を開始した。
(ク) 原告は,札幌市内において,平成19年10月,4460戸に対し本件商標が付された広告物を配布し,平成20年8月,6000通の本件商標が付された広告物を各戸に配布し,同年9月,9498戸に対し本件商標が付された広告物を配布し,また,平成21年2月,2万1000通の本件商標が付された広告物を各戸に配布した。
ウ 上記イのとおり,原告は,本件商標の登録出願をした後の平成15年7月,郵政公社に「ゆうメール」という名称のビジネスモデルを提案したところ,郵政公社はこの提案を断っており,その後,郵政公社から事業を引き継いだ被告は,平成19年10月まで「ゆうメール」の標章を使用していなかった。このように,原告が,本件商標の登録出願をした平成15年4月当時において,郵政公社が「ゆうメール」の標章を同社の役務に使用することについて具体的な話がされていたことをうかがわせる事実は認められず,また,近い将来において,郵政公社が「ゆうメール」の標章を使用する可能性を予想させる事情も認められず,さらに,上記(1)ウのとおり,「ゆうパック」と本件商標とが類似しないことをも併せ考慮すると,原告による本件商標の登録出願に,不正の目的があったと認めることはできない。
(42〜44頁)

上記の経緯から、「不正の目的」がなかった、と直ちにいえるか、と言えば、疑問を入れる余地は多々あるように思われる。

特に、原告が自ら「ゆうメール」を出願した直後に、郵政公社に業務提携を申し入れた、というくだりなどは、「俺達と組め、さもなけば刺す!」といった意図すら推察させるもので*11、あまり気持ちの良いものではない。

「不正目的がなかった」という前提に立つならば、後発的な4条1項7号該当性についても、

郵政公社は,平成16年4月に,被告標章1(ゆうメール)について,指定役務を第35類の広告等として商標登録を出願し,本件商標の登録があることを理由にその出願が拒絶されたにもかかわらず,郵政公社から事業を引き継いだ被告は,本件商標と同一又は類似の標章である被告各標章を平成19年10月以降,本件指定役務と類似する役務について使用している。他方,原告は,平成18年2月に,一条に対し,本件商標権について通常使用権を許諾し,一条は,同年4月から,本件商標を使用し,広告物を配布する役務を提供しており,また,原告自身も,平成19年10月から,本件商標を使用し,広告物を配布する役務を提供している。このような事実経過にかんがみれば,現時点において,被告各標章が被告の役務を表すものとして周知・著名になっているとしても,本件商標は,被告が被告各標章の使用を実際に開始する4年以上前に,上記ウのとおり不正の目的なく出願されたもので,しかも,その後,実際に使用されているものであるといえるから,本件商標が事後的に公序良俗に反するものになったと認めることはできない。」(44〜45頁)

という判断になるし、4条1項19号該当性についても当然否定されることになる。

しかし、当時の郵政公社、あるいは郵便事業の公共性、といったものを考えた時、4条1項7号該当性について、もう少し考慮すべき要素はないのかどうか、本件が知財高裁に舞台を移して争われることとなった場合には、(役務の類似性に関する争点と合わせて)注目すべきポイントになってくると思われる。

なお、権利濫用の抗弁については、

郵政公社は,自らの第35類の広告等を指定役務とする「ゆうメール」の商標登録出願が,本件商標の存在を理由に拒絶されたことを認識しており,その上で,郵政公社から事業を引き継いだ被告があえて被告標章1(ゆうメール)を使用して,本件指定役務と類似する役務を行っているのであり,このような事情の下では,その結果として,被告標章1が全国の需要者に広く認識されることになっているとしても,原告による本件商標権の行使が権利の濫用に当たるということはできないというべきである。
また,被告は,本件商標の出所識別力が乏しいことの理由として,「ゆう」が「郵便」を表すものであることを主張するが,この主張が失当であることは上記2(1)エで説示したとおりである。
そして,被告が平成19年10月に被告各標章の使用を開始してから1年6か月後である平成21年4月には,原告が,日本知的財産仲裁センターに本件について調停の申立てをしていること(略)にかんがみれば,原告による本件商標権の行使の時期が遅きに失するものであるとはいえない。」(47頁)

というのが裁判所の判断で、現に原告にも「ゆうメール」商標の使用実績がある、ということに照らせば元々厳しい抗弁であることに加え、「原告商標が存在することが分かっていて、それでもあえて使い続けた」という被告側の事情がある以上、厳しかったというほかない。


おそらく、被告側は当然控訴して知財高裁で再び争うことになるのだろし*12、その際には、上で取り上げた争点に加えて、廃棄請求の認容範囲*13や、場合によっては損害賠償額等についても争われる可能性がある*14

また、それと並行して、被告側からの原告「ゆうメール」商標に対する無効審判請求等の動きが出てきても、決して不思議ではない・・・と思われるところである*15

最終的に、今回の判断がそのまま維持されて「ゆうメール」という商品名の変更を被告が迫られることになるのか、それとも、知財高裁で判断がひっくり返るのか、あるいは、原告の商標を被告が買い取る形で和解する(その代わり、一定のエリアでの原告の使用権を無償で認める等)という解決になるのか・・・

双方に、判決文からだけではうかがい知れない事情もあるように思われるだけに、どういう落とし所が良いのか、測りかねるところではあるのだが、いずれにせよ、ネーミングの際には細心の注意が必要・・・ということを教えてくれる好事例。

“各種研修の材料にもってこい”の素材を生み出してしまった被告の二の轍を踏まないよう、各社で商標をつかさどる担当者は、本件の「教訓」を深く胸に刻む必要があるのではないかと思う。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120113/1327153203

*2:第47部・阿部正幸裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120120170250.pdf

*3:そもそも出願の時点で、一通りの先行出願・登録の調査はしているはずだから、出願する以前から原告が「ゆうメール」を出願していたことは重々承知していたはずだ。

*4:ただし、原告主張のうち、被告役務が「広告」役務にあたる、という主張については退けられている。

*5:原告は、「ゆうパック」の文字そのものが著名であることの被告の立証がない、と指摘した上で、「原告が本件商標を出願した平成15年4月の時点において『ゆうパック』にブランドイメージは全くなく、事業自体が危機的状況にあった」という挑発的な主張(笑)までしている(26頁)。

*6:もっとも、役務の類似性に関し、「一般小包郵便物」と「各戸に対する広告物の配布、広告」の関連性が大きくない、とした裁判所の判断には、疑問を入れる余地があるのではないかと思う。

*7:厳密に言えば、「JPグループのどこかの会社のサービス」ということになるだろうが、民営化されてもう何年も経った今となっても、「郵便局の・・・」と言った方が、しっくりくる。

*8:本件判決の中でも、「ゆうちょ」、「ゆうゆう窓口」等、「「郵」を意味する「ゆう」として使用されていると考えられる商標が複数存在する」と認定されている。

*9:なお、被告は、「ゆう」の文字を用いた商標を使用すると、「郵便」を利用した役務であるかのごとく役務の質について誤認を生ずるおそれがある、として商標法4条1項16号該当性も主張しているが、この主張も、「ゆう」の語が必ずしも「郵便」の「郵」を意味するものとはいえない、として退けられている(46頁)。

*10:そもそも、営業サイドが最初から統一的なブランド戦略を志向するのではなく、たまたまヒットした商品の名称の一部を用いて、第二、第三の商品をネーミングする(しかもそれが定着してしまう)ことも多いので、商標担当者としては悩ましいことになる。

*11:裁判所は、「郵政公社が「ゆうメール」の標章を使用する可能性を予想させる事情」がなかった、と認定しているようだが、「ゆうパック」等の派生標章として「ゆうメール」という商品名をサービスすることは、ちょっと勘のいい人ならすぐに予想できることのはずで(商標法上それが「ゆうパック」や「ゆうちょ」と類似しているといえるかどうかはともかく)、このくだりについては、ちょっと言い過ぎなのでは・・・?という感もある。

*12:これだけ一方的な判断になっているにもかかわらず、地裁は判決に仮執行宣言を付していないことからしても、当然に上級審で判断を仰ぐことが期待されているものと思われる。

*13:地裁判決では原告が請求した物品のうち、「カタログ」の廃棄しか認められなかった。

*14:あくまで原告が請求を追加する、という前提だが。

*15:これまでは、そもそも被告の役務が原告商標の指定役務とは無関係、という前提だったから、被告の側でも原告商標の無効審判を請求する必要性をあまり感じていなかったのかもしれないが、地裁の判断を前提とすれば、このまま放置する、という手はないだろう。今から審判請求するとなれば、登録からとうに5年経過していることとの関係で、難しい問題も出てくるとは思うけど・・・。