「メーリングリスト問題」の顛末

年明け早々、新聞等で報道されて一部で大騒ぎになり、おかげで、多くの会員が何度も何度も日弁連からの「同じようなFAX」攻撃に晒されることになった「某弁護士法人の個人情報誤掲載事件」。

事件発覚から1ヶ月経って、ようやく「報告書」が出されたようである。

「開示が禁じられている裁判員裁判に関する個人情報などを弁護士が誤ってネット上に掲載した問題で、弁護士の所属事務所は6日までに、誤掲載された個人情報は577件だったとの報告をまとめた。」(日本経済新聞2012年2月7日付け朝刊・第34面)

残念ながら、肝心の事務所のHPの方に何も掲載されていないというのは、説明責任の観点からどうなんだろう・・・という気もするのだが、報告を受けて、厳格な処分と、きちんとした再発防止策がなされ、かつ漏洩した個人情報の当事者に対して真摯な対応がなされているのであれば、一応は一段落、ということにはなるのだろう*1


ちなみに、上記の日経紙のものも含め、本件に関する報道では「ネット上の掲示板に誤掲載した」という表現が飛び交っているのだが、実態を適切に表現するなら、「『yahoo!グループ』のメーリングリストに参加制限をかけ忘れていた」(参加リクエストメールを送ると自動的にそれまでのやり取りが閲覧できるような設定になってしまっていた)ということのようである*2

いまどき、『yahoo!グループ』のメーリングリストが多用されている、というのは、弁護士の世界に片足を踏み入れてみると分かる驚きの事実で、各種委員会系の連絡には多用されているし、「○○弁護団」の連絡などにも使われていることが多い。

確かに、無料で使える上にメンバーの加除修正も容易にでき、多数のメールが飛び交う状況でもナンバリング機能で情報を整理しやすい、自分が参加する前のメールのやり取りも一覧機能で閲覧することができる、といった利点があるのは確かだし、普通にメーラーで飛んでくるメールを見ている限り、その内容をメンバー以外の者が覗き見している、という感覚には陥りにくいから、ついつい安心感が生まれることも否定できない。

だが、筆者自身が、以前、『yahoo!グループ』のメーリングリストを何件か管理していた経験からすると、あのMLの設定・管理の作業をするには、結構な神経を使う。

今回問題になったような参加制限の設定忘れの問題もあるし、参加制限をかけていても、想定外のメンバー参加申請が来た時についうっかり承認をクリックしてしまうことだってないとは言えない。

また、長期間管理していると、メンバーの入れ替わりや、参加メンバーのアドレスの変更などが発生して、いつの間にか一部のメンバーにメールが届かなくなってしまったり、どれが誰のアドレスか分からなくなってしまったり・・・という事態もしばしば発生する。加えて、使わなくなって長期間放置していたMLが、何かのはずみで一斉に閲覧可能な設定になってしまう・・・ということだってないとは言い切れない。


そんな事態を招くのであれば、多少面倒でも、自分のOutLook(ないしその他のメーラー)のアドレス帳で、きちんと関係者をグループ化しておいて、守秘性の高い情報だけでもダイレクトなメールのやり取りで対応するようにすればいいではないか・・・というのが自分の意見で、ゆえに、「再発防止策」という点で言えば、ややこしい話をする前に、

「そんなセンシティブ情報を、一般プロバイダーが運営するMLに載せるんじゃねぇ!」

と一言言えば済む話だと思っているところ*3


まぁ、どうしても今のMLの機能を生かしたまま、何でもかんでも情報をやり取りしたい、というのであれば、弁護士会でセキュリティレベルの高い情報共有用ITインフラを整備するほかないのだろうけど、そこまで求めるのは、ちょっと現実味に乏しいだろうか・・・。

*1:逆に、そういった諸々のことがきちんと行われていないのであれば、日頃、企業の個人情報流出事案(というか不祥事全般)に対してエキセントリックなまでに過剰な反応を示す弁護士会としては、示しが付かず、ダブルスタンダードとの批判を免れ得ないのではないかと思う。

*2:報道が↑のような表現になっていたばかりに、今回の事象について誤解している人々は案外多いのではないだろうか。

*3:日弁連のFAXでは、わざわざ「当該サービスの運営会社を訪問し、利用規約の解釈などを確認」して、そのうえで「当該サービスは原則として公開される仕様になっており、秘密性を維持する必要がある情報を取り扱うことを前提としておらず」、それゆえ、「守秘義務上重大な疑義がある」という結論を導き出しているのであるが、何もそんな回りくどいことをしなくても・・・というのが、率直な感想である。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html