波乱なき選考を覆う影

11日に行われた国内最後の五輪選考レース、名古屋ウィメンズマラソンが終わったのを受けて行われた、ロンドン五輪ラソンの日本代表選考。

結果は、全く、と言って良いほど波乱がない、順当なものだった。

日本陸連は12日、都内で開いた理事会でロンドン五輪ラソン代表を決定した。女子は大阪優勝の重友梨佐天満屋、24)、横浜優勝の木崎良子ダイハツ、26)と、11日の名古屋で2位に入った尾崎好美(第一生命、30)、男子は東京で日本勢4季ぶりの2時間7分台をマークした藤原新(東京陸協、30)とびわ湖4位の山本亮(佐川急便、27)、同5位の中本健太郎安川電機、29)。公務員ランナーとして注目された川内優輝(埼玉県庁)は選ばれなかった。」(日本経済新聞2012年3月13日付け朝刊・第37面)

これまでの代表選考(特に女子)で、毎回のように、“疑義”を呈する声が上がっていたことを考えれば、今回すんなりと決まってやれやれ、と思う関係者もいるのかもしれないが、これは、今回の一連の選考レースで、それだけ、「代表に推される」ような選手が出てこなかったことの裏返しでもあるわけで、手放しで喜ぶことは到底できないだろう。

遡ればバルセロナ五輪の松野明美選手に始まり、アトランタ五輪鈴木博美選手、シドニー五輪弘山晴美選手、そしてアテネ五輪高橋尚子選手、と、選考会で惜しくも落選した選手たちは、皆、実績や、選考レースでのタイムなり、順位なり、といった「結果」があった。

そして、評価基準をどこに置くか、で議論はあったものの、彼女たちを押さえて選出された選手たちにも、落選した名選手たちを上回る、と評価されるだけの要素は必ずあった。

もちろん、選考する側も選考される側も、見据えていたのは五輪でのメダルで、選ばれた選手たちには、それを期待させるだけの何か、があったし、実際、上記3度の五輪では、すべて女子マラソン代表選手がメダルを獲得している。

だが、今回の選考に関して言えば、東京マラソンでの好タイムと終盤のごぼう抜きで名を馳せた男子・藤原新選手を除き、選考レースで強烈なインパクトを残した選手、というのがあまりに少なかったように思う。

男子は誰ひとりとして選考レースで「優勝」という結果を残せなかったし、女子も、横浜と大阪は、外国勢のライバルが少ない中での日本選手の優勝、さらに、野口みずき選手をはじめとする歴代の名ランナーが顔を揃え、好勝負を期待された名古屋ウィメンズに至っては、日本勢同士が牽制している間に無名のロシア人選手に足元を掬われる始末。

度々選考レースにチャレンジし、最後は「日本人最上位」のポジションにこだわって代表切符を勝ち取った尾崎選手の執念*1は、物語的には立派かもしれないが、冷静に見れば、13日付けの日経紙の記者コラム(山口大介記者)で書かれているような、

「現場の目線が『まず五輪出場を』と下がっている現実」

を象徴するようなエピソードでしかないようにも思える。

スポンサー向けの煽りも多少入っていたとはいえ、日経紙名物の吉田誠一編集委員*2が“異端”と評する「市民ランナー」(川内選手)が選考レースの主役となってしまうような現状で、多くを期待すること自体、間違っているのかもしれないが・・・。

もしかすると、前回の五輪で、連続メダルという“呪縛”が解けたことが、今回の代表選手たちへの注目の低さとあいまって、本番での良い結果につながる可能性もあるのだけれど*3、一視聴者としても“裏切られる”というのは、あまり気持ちの良いことではないだけに、今は多くを期待することなく本番を待ちたい・・・そう思うところである。

*1:名古屋のレースでマヨロワ選手が後方から一気に追いついてきた時に、追って行こうと思えば追えるだけの脚は残っていたのでは?とテレビで見ている限りは思った。だが、彼女は追わなかった。

*2:元々競馬記事等にも定評があるが、最近ではもっぱら自らマラソンを走りコラムを書く、というスタイルで活躍されている。

*3:特に、藤原新選手の本番での爆発や、伸び幅が大きそうな重友選手の大ブレイクには微かに期待するところもある。

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