著作権の世界に見えた希望の光〜『BLJ』2012年6月号より。

日経新聞の広告で、特集のタイトルが「著作権法はビジネスの足かせか」となっているのを見て、是非とも買わねば・・・と思っていた、『Business Law Journal』の最新号。

いつもなら、Amazonでクリックして週末にじっくり、というところだったのだが、今回は待ちきれなくて本屋まで買いに行ってしまった。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2012年 06月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2012年 06月号 [雑誌]

・・・で、この特集が、また想像していた以上のクオリティ、である。

何が凄いって、先月末に公表されたばかりの著作権法改正案の解説が入っている上に、それを福井健策弁護士が執筆し、さらに上野達弘教授や業界関係者のコメントまできっちり収められているところ。

今回の改正案については、いずれこのブログでもじっくり取り上げる予定だし、解説や各コメントの内容については、その際にしっかり吟味させていただくつもりだが、この動きの早さは、他誌の追随を許さない機動力を誇るBLJ誌ならでは、ではないかと思う。

そして、何より、改正案関連記事の前段に収められている「鼎談」(「ビジネスの中の著作権法」)*1は、この最新号の最大の目玉というにふさわしい。

メンバーは、齋藤浩貴弁護士、小倉秀夫弁護士、奥邨弘司准教授(司会)という極めて現場の実務に近いところで活躍されている先生方なのだが、座談会構成のこの記事の中で、それぞれ拠って立つところが異なるこれらの先生方*2がそれぞれのポジションから持論を展開して火花を散らす、という展開は、非常に見応えのあるものになっている。

「インターネット社会の進展に伴い、著作権法の負の側面が強く出てきています」
「投下資本の回収可能性を保持することと無関係のところで過剰に規制されている部分があるのではないでしょうか」
「特に、当該商品・サービスの代替となるものが権利者により提供されていないときに、著作物等の無許諾の利用だとしてこれを禁止することが、権利者の投資回収に資するのかは疑問です。」

と、記憶に新しい最近の事例を持ち出しつつ、問題提起をする小倉弁護士に対し、

「権利を守るべき著作物に対して許諾権を与えつつ、知る権利を保障することは可能だということには社会的合意があり、その「加減」をいかに法律で決めていくかが問題になっているのであって、皆が解決できない問題ではないと考えています」

と切り返す齋藤弁護士。

齋藤弁護士が、「黙示の許諾論」について、

フェアユースと違って法理とまではいかなくても、一定の利用行為を認める立派な理由と認識していいのではないでしょうか。」

と評価すれば、小倉弁護士は、

「新しい情報流通の仕組みを作ろうとする際には、どの程度が黙示といえるのかが不明確なことが大きな問題となります」

と反論して、「米国型フェアユース規定」等、他の解決策の理を説き、
小倉弁護士が、「ITベンチャーにとって、米国著作権法に比べて日本法が面倒な点」として、

「利用主体に関する認定が米国法に比べて緩やかであること」

を指摘すれば、齋藤弁護士がすかさず、

「日本のほうが利用主体に関する認定が緩いというのは、フェアではないと思います」

と突っ込む・・・

詳細については、実際にBLJ誌を買って読んでいただくのが一番だと思うが*3、ところどころで登場する奥邨准教授の的確なコメントと合わせて、本稿が現在の著作権をめぐる議論を凝縮したような、価値ある対談録になっているのは間違いないところだろう。

個人的に興味深かったのは、あたかも権利者の声を代弁しているように見える齋藤弁護士からも、

MYUTA事件について)「MYUTAが複製の主体というのは無理があったのではないかと思います。」
「09年改正は、もっと汎用的な書きぶりにしてもよかったものがあるのではないでしょうか。」

といったリベラルな解釈が示されていたり、一方の小倉弁護士からも、「フェアユース」一本槍ではなく、

「個別規定の柔軟化によって実際に柔軟に解釈してくれる裁判例が蓄積されれば、意見書を書きやすくなるとは思います。」

といった選択肢や、

「放送に関していえば、日本ではテレビ局が県域で分かれていて、県域を越える転送が許されないという特殊な事情があり、著作権法だけを攻撃するのはフェアではないと思います」

といったコメントが出されていること。

また、これまで我が国でお題目のように唱えられていた、「日本の著作権法の下では新規ビジネスが満足に提供できない」といった“常識”に対して、どの先生方も大なり小なり異なる分析を見せている、というのも面白い*4


自分も、とかく“コンテンツビジネス促進のために必要”という理屈が先行して、あたかも「一般規定型フェアユース」の導入を万能の処方箋のようにもてはやしていたたここ数年の動きには、正直戸惑っていたところが多かっただけに、「米国型フェアユースの弱点」等を明確に指摘した齋藤弁護士のコメントには、思いのほか共感できるところが多かったし、先生方が皆、上記のような産業界の“言い訳”に一石を投じる形で、対談の最後をまとめている、ということにも好感が持てた。

これまで、「権利保護」と「自由利用促進」というそれぞれのポジションがくっきりと分かれていて、議論を噛み合わせる余地をなかなか見出しにくい状況もあったことに鑑みれば、将来に希望が持てる内容となっているこの対談録。

自分の主観では、正直これを読むだけでも雑誌購入費の元が取れるんじゃないか・・・、とすら思えるだけに、この記事が少しでも多くの方の目に触れることを願っている。

*1:BLJ2012年6月号・18頁以下。

*2:「まねきTV」事件で、齋藤弁護士が日本テレビ代理人小倉弁護士は永野商店の代理人、として相対した例などは、両弁護士の今のポジションを理解する上で、もっとも分かりやすいものかもしれない。

*3:一連のやり取りが8ページにわたって掲載されている。

*4:個人的には、「国際検索エンジンハ検索精度や使いやすさで負けただけで、それに対するまっとうな反論も見たことがありません。」といったくだりや、「『米国著作権法では許諾なしにできるビジネスだが、日本では無許諾ではできない」というビジネス類型がまったくないとは思いません。ただ『なるほど、そういうビジネスができないのは問題だ』と思わせるような具体的な指摘はあまり聞いたことがありません」、「ベンチャービジネスはグレーでも実行するからこそ勝負になるという面もあります」といった齋藤弁護士の発言にも傾聴すべきものが多数含まれていると思っている。

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