“伝説”になりそこなった馬。

ここ数年、「主役を張れる存在」をなかなか出てきていなかった古馬G1戦線だが、今年の春の天皇賞には、オルフェーヴルがいた。

前年のクラシック三冠+有馬記念という、かつてのディープインパクトを上回る堂々たる実績。

そして、年明け初戦の阪神大賞典で、レースを途中でやめるんじゃないか・・・、ってくらいの大逸走をしたあげく、最後方から追いすがり、直線一気で2着に食い込む、という超個性的なパフォーマンスを発揮したことで、一躍、4歳春にして「神話」の域に近づき迎えた大舞台。

“何が起きるか分からん”というハラハラ感を感じながらも、皆、それを吹き飛ばす圧勝を期待したのだろう。
断トツの人気*1を集めて、堂々とチャンピオンロードを歩むはずだったのだが・・・。


終わって見れば、何とも無様な結果に終わってしまった。

先行馬が止まらない京都の良馬場。ペースとしては決して超スローというわけではなかったのだが、ゴールデンハインドとビートブラックの2頭がスルスルと気持ちよく先行する中、最後方に近い位置どりのままダラダラと走り、3角手前の下り坂を過ぎても、3角を回っても、エンジンはかからないまま。

そして、4角を回るところで、大きく外側に膨らむコースロスをして、最後の直線の入り口に差し掛かった時点では絶望的と思えるくらいの差を付けられてしまっていた。

結果、トップから2秒近く離されての11着。

ゴール板を先頭で駆け抜けたのは、スイスイと気持ちよく逃げ通したビートブラック*2で、オルフェに次ぐ人気を集めていた有力馬達は、皆オルフェに気を取られて仕掛けが遅れたせいもあったのか、トーセンジョーダンが4馬身差の2着、上がり33秒台の脚を見せたウインバリアシオンも3着が精いっぱい。密かに打倒オルフェ1番手、との評価もあったヒルノダムールも、オルフェとほぼ同じ位置どりで進んだあげく、最後まで同タイムで11着惨敗・・・*3

たら、ればは、禁物だが、もし、最後の直線で大外からオルフェの栗毛の馬体が豪快に、32秒を切るくらいの脚で突っ込んでくれば、たとえ最先着でゴールに入れなかったとしても、「個性的な馬」として、一つの伝説が紡ぎ綴られた可能性は高い。

しかし、残念なことに、オルフェーヴル上がり3ハロンのタイムは34秒0。
それ自体目立つタイムでもないし、3着、4着の馬の上がりタイムにも及ばない。

最後まで闘志に火がつくことなく、淀のコースを1周半回って帰ってきただけ、という不甲斐ないレースでは、「伝説」には程遠い、と言わざるを得ないだろう。

一部で言われているように、前走で痛い目にあった池添騎手が、羹に懲りて膾を吹くが如く、慎重に慎重に手綱を取り過ぎた結果、馬が闘争心そのものをなくしてしまった、ということなのか、それとも、前走のちぐはぐなレース*4やその後の調教再審査等、このレースに至るまでの過程の複雑さが馬に見えない疲労をため込んでいたのか・・・

敗因についてはいろいろな分析がなされるだろうが、いずれにしても、新たな“伝説”は、そんなに簡単には誕生するものではない、という現実を突きつけられて、ちょっと残念な気持ちになった。

おそらく、騎手が乗り替わり、しばらく間隔をあけて臨むことになる次のレースで、真価が試されることになるのだろうけど、今のままではディープも、ナリタブライアンも到底超えることはできないなぁ・・・というのが、今のオルフェに対する率直な感想である。

*1:単勝オッズは実に1.3倍。2番人気のウインバリアシオンが9.8倍だから、いかに圧倒的な人気だったか、良く分かる。

*2:14番人気、とほとんどノーマークに近い馬だったが、よく考えるとこの馬、同じコースで行われた菊花賞の時も13番人気で先行粘り込み、3着で複勝1150円という波乱を演出している。ここのところ華やかな結果は残せていなかったものの、京都の重賞では手堅い結果を出しており、そんなコース相性の良さと、初めて手綱を取った石橋脩騎手の思い切った騎乗が、この素晴らしい結果を引き出した、ということなのだろう。なお、父は名牝ノースフライトの血を引くミスキャスト。3歳時には弥生賞3着、プリンシパルS優勝など、一瞬クラシック戦線にも名乗りを挙げた馬だ。SS系で他に有力な種牡馬が多くいる中では存在感に乏しく、これまでの産駒も中央で出走したのが3世代でわずか11頭、勝ち馬はビートブラックを含めて2頭しかいない馬だったのだが、孝行息子のおかげで歴史に名を残すことができた(これまで6勝中5勝を挙げたのがビートブラック、そしてこの天皇賞が初の産駒重賞勝ち、である)

*3:後方で有力馬が牽制しあって、前残りになる、という展開は、競馬を長く見ている者としては当然頭をよぎったわけで、それゆえ、追い込み一辺倒のウインバリアシオンジャガーメイルよりも、柔軟に先行できるトーセンジョーダンギュスターヴクライといったあたりをヒモで狙う、というリスクヘッジはしていたのだが、それもあくまでオルフェーヴルだけは、どんな展開でも豪脚で差し切る、という前提の話。当然ながら馬券の方は散々な結果となった。

*4:いったんレースを止めてそこから再加速した、ということで2レース分走ったようなものだ、と評する解説者も多かった。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html