“指揮権発動”発言の不可解さ

東京地裁小沢一郎元代表に対する「無罪」判決が出て以来、連日のように“戦犯”探しのような報道が展開されている今日この頃。
「虚偽内容を記載した捜査報告書」を作成した、というのが事実だとすれば、重たい話であるのは間違いないが、検察側としては起訴を見送った事件で、強制起訴議決の判断をしたのはあくまで検察審査会、そして、例の「捜査報告書」は、検察審査会における判断材料の一つに過ぎなかったわけだから、そこまでバッシングしなくても・・・と、思わなくもない。

だが、そんな中、内閣改造で法相のポストから去ることになった人物の口から、思わぬ発言が飛び出した。

小川敏夫前法相は4日の退任記者会見で、陸山会事件を担当していた検事が虚偽内容を記載した捜査報告書を作成した問題を巡り、検事総長に対する指揮権発動を野田佳彦首相に相談していたことを明らかにした。野田首相は了承しなかったといい、前法相は指揮権を発動しなかった。」(日本経済新聞2012年6月5日付け朝刊・第38面)

詳しい相談内容は明かさなかった、というものの、

「検察内部の案件について検察が消極的な場合、積極的ならしめるのは法務大臣の本来の姿。(報告書問題は)指揮権を発動する典型的なケースだと思う」
「いい加減な形で幕引きしたと国民に受け止められれば、検察の信頼回復が遠のく」

といった踏み込んだ発言を行い、さらに渦中の田代政弘検事の「以前の取り調べ内容と記憶が混同した」という説明に対し、

「客観的証拠を見れば、記憶違いじゃないと誰しも思う」

とまで言った、となると穏やかではない。

当然ながら、上記記事の隣には、検察幹部のコメントとして、

「在任中ならともかく、退任直後の突然の発言の真意がくみ取れない」
「『法と証拠』の世界に政治的判断を持ち込むもので理解できない」

といった発言が掲載され、さらに法務省幹部の

「処分方針の軌道修正を迫る政治的圧力ともなりかねない発言。指揮権の重みを理解しているのだろうか」

といったかなり強いトーンの反論まで飛び出している。


小川元法相は、検事、裁判官、弁護士を全部やった、というのが選挙でのトレードマークになっている政治家だし、この業界に疎い人物、というわけでは決してない。
それゆえ、不祥事が相次いでいるにもかかわらず動きの鈍い“古巣”に対して、在任中、いろいろと思うところもあったのだろう。

だが、行政機関でありながらも、準司法機関として一定の独立性が保たれることが当然の前提となっている「検察庁」という組織に、政治的要素が強い「指揮権」を行使する、ということはそう簡単にできることではないし、なされるべきことでもない、と自分は思う。

そして、仮にやむなく行使せざるをえなくなった場合でも、最も実効性のあるタイミングでピンポイントに行使するのが賢いやり方、というもので、政治的な思惑でチラつかせるようなものでもなければ、ましてや、行使できる立場になくなった者が、これ見よがしに後付けの講釈をする時に持ち出されるようなものでもないはずだ。


もしかしたら、このたびの小幅改造で、問責決議が出されていた大臣たちとセットで交替させられてしまった*1ことへのあてつけ的意味合いもあったのかもしれないが、振り回される側としてはいい迷惑なわけで、一外野の人間にとっても、不可思議な思いだけが残っている。

たぶん、この話が後任の法相に引き継がれることは決してないのだろうけど・・・。

*1:いろいろと週刊誌でゴシップ報道等も流れていたから、フェイルセーフ的観点からはやむを得ない措置だったと思うけど・・・。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html