歪められつつある「平成24年著作権法改正」

3月に提出されて以降、国会の混乱もあってしばらく店晒しになっていた著作権法改正案だが、自民党が審議復帰したタイミングに合わせて、衆院委員会で2度目の趣旨説明が行われ、さらにそこから1週間であっという間に本会議まで通ってしまう・・・という展開で、後は参院の審議を待つばかり、という状況になってしまった。

しかも、衆院で委員会の審議に入るや否や、議員サイドから予定調和的な修正案が提出され、以前懸念していたとおり*1、「違法ダウンロードに罰則」というシュールな規定が入った形で改正がなされようとしている。

「インターネットに違法投稿された音楽や映像などをダウンロードする行為が罰則の対象となる法案が今通常国会で成立する見通しとなった。10月1日にも施行する予定。「海賊版」と知りつつパソコンやスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)に取り込むと2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科せられる。」(日本経済新聞2012年6月16日付け朝刊・第34面)

私的使用領域への過度の法介入(特に刑事罰による規制)に慎重な態度を取り続けている審議会の賢慮を嘲笑うかのように、5年前の「映画盗撮禁止法」*2に続いて議員立法で、罰則が設けられる(しかも権利者サイドからの一方的な要望により・・・)というのは、決して好ましいこととは言えない。

そして、それ以上に気になるのが、この議員立法による修正が、今回の改正の「目玉」になってしまいつつある・・・という現状だ。

本来であれば、今回の著作権法改正の目玉は、平成23年1月の文化審議会著作権分科会報告書を受けた権利制限規定の導入にあったはず*3

当初の構想(日本版フェア・ユース)や、審議会報告書で導入が提言されていた内容(これまでのものよりも包括的な権利制限規定)に比べれば大きく後退した規定になっているものの、権利者保護に引っ張られがちな著作権法改正の歴史の中では平成21年改正に続く、利用者のニーズに配慮したものとして、地味ながらじわじわと実務に浸透していく・・・そんな改正として評価されることになるはずだった。

だが、上記記事にもあるとおり、横から割り込んだ「違法ダウンロード罰則規定導入」のインパクトの強さゆえ、今回の改正案の衆院通過を伝える記事も、専らそれ一色になってしまっている。

おそらく、修正案では、違法ダウンロード罰則規定が「追加」されただけで、元々入っていた権利制限規定には手が付けられていないと思われる*4から、実質的にそんなに状況は変わっていないのでは・・・? という指摘もあるだろうが、著作権法のように、現実のエンフォースメントよりも“世の中に醸し出されるムード”でルールが形成されていく傾向がある法律の場合、法改正をめぐる報道の影響力は決して無視できるものではない*5

もし、余計な修正案がくっつくことなく、原案のまま衆院を通過していたら、新聞記事の見出しは、「権利制限規定拡充へ」といったものになっていたかもしれないし、少々勇み足の記者なら「日本版フェアユース第1弾導入へ」と書いたかもしれない*6

その表現に多少の誇張はあるとしても、著作権制度というものが権利保護と利用促進との間の微妙なバランスの上に成り立っていることを世に知らしめる上では、貴重な機会になるはずだった。

しかし、「違法ダウンロード罰則」という異質なものが入り込んできてしまった今、そんな機会が巡ってくることは望むべくもない・・・。


個人的には、政府が提出する法律案が常に絶対的なものだとは思っていないし、政策効果を最大限発揮するために、政府提出案を議会が修正する、というのは、むしろ本来の姿に近いのではないかと思っている。

だが、以前のエントリーにも書いたとおり、どうせ手を入れるのであれば、一方の側(権利者側)からの視点だけでなく、反対サイド(ユーザーサイド)の利益にも配慮して修正を入れてほしいものだと思う。

特に今回に関していえば、「やたらめったら留保文言の付いた中途半端な権利制限規定」という、政治家が力を発揮するには絶好の素材が目の前に転がっているのであるから、違法ダウンロードに罰則規定を付ける代わりに、権利制限規定の「但書」をバッサリ削除する、という“駆け引き”があっても良いところだろう*7

あまり多くを期待しても仕方ないところだとは思うが、まだ、参院での審議が残っている、という状況に、自分は微かな期待を寄せてみることにしたい。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120414/1334510219

*2:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20070531/1180546916

*3:暗号型技術による技術的保護手段の回避規制(リッピング規制)という改正もあるが、マジコンに対する規制が見送られたこともあり、ボリュームもインパクトも、権利制限規定の方が大きかった。

*4:ただし、現時点では議会サイト等で法案の最新ステータスを確認できていないので、あくまで憶測だが・・・。

*5:そして、まさにそれこそが権利者側の狙い、ということになる。

*6:もちろん、ニュースとしてはインパクトに欠けるので、そもそも大きな記事にならなかった可能性もあるが。

*7:もちろん、違法ダウンロードの方が白紙撤回されるのであれば、それはそれで良いことだと思うけど。

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