毎月買ったり買わなかったり・・・という「Business Law Journal」誌だが、今月号(8月号)の新聞掲載の広告を見て、いてもたってもいられずに購入*1。
BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2012年 08月号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: レクシスネクシス・ジャパン
- 発売日: 2012/06/21
- メディア: 雑誌
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元々は、「第1特集」と銘打たれた「役員の法的責任」関連の記事をメインにする予定だったようだが、時流を押さえることにかけては他誌の追随を許さないBLJ誌が、先月爆発した美味しい時事ネタを放っておくわけがない・・・ということで、
「コンプガチャ規制の教訓」
という特集がタイムリーにメインを飾っている。
・・・で、この特集の何が凄いかといえば、一連の騒動の渦中にいた当事者(規制した側の関係者、された側の法務担当者等)の声を見事にすくいあげ、まとめあげている、ということだ。
例えば、「消費者庁対応で不覚をとったソーシャルゲーム業界の困惑」というタイトルの記事の中では、これまでソーシャルゲーム業界における適法性確認(当局への匿名ヒアリングや弁護士と担当官の面談による照会、大手法律事務所からの意見書取得等)が行われており、「何らかのリスク検討を経たうえで、ビジネスを行っていた」という事実を紹介した上で、
「日ごろから匿名の相談も多く、匿名の場合、弁護士なのか事業者なのか一般人なのか分かりません。内容から企業の方と推測されるようなものはあります。相談を受けたなら簡単な記録は作りますが、件数があまりにも大量なので、詳細なものではありません」
という消費者庁表示対策課・片桐課長の本音ベースのコメントを掲載(34〜35頁)。
さらに、今年に入ってからの当局の動きと、業界の動き、さらに、福嶋消費者庁長官の会見をそれぞれの視点から描き、関係者の証言から、5月5日の読売新聞報道がいかに唐突なものだったかを描き出している。
5・5報道に関しては、連休中に社内調整に追われ、「連休明けに消費者庁にヒアリングのため電話しようとしても全然つながらなかった」という法務担当者の生々しい証言が印象的だし、当の消費者庁・片桐課長までもが「対応に追われたのは私たちも同じです。」と開き直っている大変シュールな光景が描かれているし、その後の運用基準改定についても、
「消費者庁に照会して、“懸賞規制への該当なし”という回答を得ていたにもかかわらず、もともと違法だったとされたわけですから、企業としてはどうしようもありません。法令解釈やルール変更のあり方として問題があるように思います」(弁護士)
「カード合わせの禁止規定はこれまで長く措置をとったこともなく、ガイドラインも示してこなかった分野です。それをテクニカルかつ動きの速いインターネットの世界に当てはめようとする相談に対しては、限られた前提条件の下での部分的な回答になった可能性もあったのではないかという気はします」(片桐課長)
という相対する行政側、企業側の本音ベースでのコントラストが鮮明になっており(36〜37頁)*2、よくぞここまで、あちこちからコメントを引き出したものだ、と感嘆させられる。
加えて、この特集では、上記メイン記事の中で、「『事前照会』を行うことの意義」や、「規制する側のマインド変化」といったところにまで踏み込んだ取材と分析を進めることで、そこからさらにいくつかの派生記事を展開する*3、という見事な構成が取られており、それゆえ、「コンプガチャ」と無関係の業界の法務関係者にとっても極めて教訓的な内容になっているように思われる*4。
これまで法律雑誌といえば、学者や実務家が書いた論稿を並べる、というのが定番で、論稿を集める上でのテーマ設定等については、編集サイドで関与する余地があるとしても、基本的にはそこまでが限界、というのが一般的な姿だったように思う。
だが、BLJ誌は、一種のジャーナリスティックな視点から、積極的に動いて様々な貴重なコメントを拾い集め、しかも世の中のメディアにありがちな感情論に流されず、「法務」的観点から分析して冷静な記事を構成する、という実に見事な仕事を成し遂げた。
そこには、これまでの“匿名座談会”や“匿名法務担当者取材”といったBLJ誌独自の有意義な様々な企画の中で蓄積されてきたノウハウ*5が生かされているのかもしれないし、その過程で磨き上げられた編集者の方々のアンテナの高さが大いに影響しているのかもしれない。
いずれにしても、自分は、今月号の特集に、メディアとしてのBLJ誌の一つの「進化」を見た。
こういった特集をタイムリーに世に出し続けることができるようになれば、BLJ誌の法律雑誌業界における地位は不動のものとなるだろうし、煽情的な一般メディアに対抗できる有益な情報媒体として、長く愛され続けることになるだろうと思う。
なお、上記特集では、神戸大の泉水文雄教授*6と、東大の白石忠志教授*7という、競争法業界を代表する東西の論客がそれぞれの立場から述べたコメントも大きく取り上げられている*8。
「コンプガチャ」規制に際しての消費者庁の動きを「十分に慎重な手続がとられたと評価することができよう」(30頁)と肯定的に評価し、「懸賞規制」強化の方向性についても積極的に支持をする泉水教授*9に対し、
「どうしてもグレーの部分をやめさせようと思うのなら、もう少し議論をきちんとして、法律や告示の改正を含めて、適切な手順を踏むべきだと思います。」(43頁)
というスタンスから、消費者庁が運用基準改定に際して示した「取引付随性」や「符票」の解釈に対して、苦言を呈される白石教授*10。
Twitterでいち早くコメントを展開されていた白石教授からしっかりコメントをいただき、保守派の研究者と対峙したポジションの記事を掲載する、というあたりも、BLJ誌ならではの「取材力」だなぁ、と思った。
他にも、「スルガ銀行対日本IBM事件」判決の分析を、ベンダー、ユーザー双方の視点から、実務ベースの話にまでしっかりと踏み込んで描いている第2特集など、いつもながらに見どころが多い8月号。
到底ここでは紹介しきることができないので、後は、書店で手にとって、魅力をしっかり確かめていただくことを、自分としてはお勧めしたい。
*1:このパターンは今年に入って2度目だ・・・。
*2:もっともその一方で、「消費者庁に恨みはありません。カード合わせは要件論なので、消費者庁がクロというならクロでしょう。解釈がはっきりすればそれでいいと思います。」というコメント等、業界の法務担当者が比較的冷静に対処している様子も伝えられている(37頁)。
*3:中西開(株式会社電通法務室法務1部長「消費者保護を重視した景表法対応」39頁/「ビジネスを止めるべきか否か〜グレー案件における社内調整の難しさ」40〜41頁。
*4:「止めるべきか否か」という特集の中で、「『止めればいい』はずなのに、実際には『すぐには止められない!』」という実態があることが紹介されているが、これなどは実に身に染みる話で、この切り口だけで特集を組んでも、十分充実したものになるような気がしてならない。
*5:例えば、ありがちな形式論ではなく、本音ベースの取材の中から、今法務の現場で何が起きているのか、ということを拾いだす・・・というノウハウとか?
*6:「コンプガチャ問題をめぐる消費者庁と企業の対応を振り返る」BLJ2012年8月号・30頁〜33頁。
*7:「法のグレー部分を広めに規制する消費者庁の姿勢」BLJ2012年8月号・42頁〜44頁。
*8:白石教授についてはインタビュー記事による構成。
*9:さらに、泉水教授は、09年の公取委→消費者庁移管後の景表法の執行体制のぜい弱さを指摘し、「公取委との共管とすべき」という提言にまで踏み込んでいる。
*10:なお、白石教授は、そもそもカード合わせ規制の背景に、性質上当たり確率が極めて低い、という「不当表示」的観点からの問題意識があり、今後のコンプガチャ以外のサービスについても「表示規制」を意識すべき、と説かれている(44頁)。