鞭とアメ

野党議員主導の内閣提出法案の修正により、音楽、映像のダウンロードに突如として刑事罰規定がくっついた今回の著作権法改正に対する評判は、(当然のことながら)恩恵を受ける業界の関係者を除き、あまり芳しくないようだ。

おそらく、これから各種法律雑誌に掲載される改正法の解説でも、(立場上書くに書けない)文化庁担当官のそれを除けば、一言二言、皮肉めいたコメントが登場するであろうことは、容易に想像がつく。

だが、ここで、一方的に“ヒール”にされるのは御免、とばかりに、音楽業界が平成24年改正を受けて新しい動きを見せている。

ビクターエンタテインメント(東京・渋谷)など音楽各社はインターネットで配信した楽曲のコピー制限を年内にも廃止する。スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)などにダウンロードすると、メーカーの違う機器にも転送し再生できるようにする。」
「廃止に動き出したのは法改正がきっかけ。海賊版のネット購入に罰金などを科す改正著作権法が10月に施行されることになり、音楽各社はコピー制限をなくしても違法なコピーに一定の歯止めがかかると判断した。」
日本経済新聞2012年7月4日付け朝刊・第1面)

確かに、違法ダウンロードに対して刑事罰が科されるようになった、という事実が、それなりに報じられたことで、多少の“牽制効果”ないし“啓発効果”は期待できるとしても、現実には、実務が直ちに大きく変わるとは考えにくい(その意味で即効性は乏しい)ということを、国会(委員会)での審議の中で修正を提案した議員や、修正支持側で招かれた参考人等はずっと言ってきていたはず。

にもかかわらず、改正法が成立するや否や出てきたこの動きを、我々は一体どう理解すればよいのだろうか・・・?

今は「現実にはそんなに簡単に刑事処罰まではいかない」という煙幕を張りつつも、10月1日に法改正がなされるや否や、音楽業界が一致結束して、大々的な“告訴キャンペーン”をはり、見せしめ的な要素も込めて一気に大量の刑事処罰者を出す、という“ムチ”作戦を企図している、という見方が一つ。

そして、もうひとつ、“使い勝手の悪さ”が正規の音楽配信の伸びを妨げている、という問題意識を持っていた業界の営業サイドが、かねてからの業界の悲願が達成されたことを口実に、リスクを怖れる社内の慎重派の頭を押さえて真のユーザーニーズに添うサービス提供に踏みきった、という見方もあるだろう。

今の時点ではこうした見方が果たして正しいのかどうなのか(うがった見方に過ぎる、というご批判も当然ありうるだろう)、何とも言えないところではあるのだけれど、もし、こういった「法規制による担保を背景に、技術的には可能なコピーコントロール手段をあえて使わないサービス展開をする」という動きが様々なコンテンツに波及し、それを一般のユーザーが全面的に支持するようなことになったとすれば、著作権法制をめぐる「○○業界対その他大勢」という構図にも大きな変化がもたらされるのは間違いないように思う*1

まぁ実際に、「コピー制限が廃止された」という楽曲を実際にダウンロードして、使ってみるまでは、安易なことは言えないと思うのだけれど・・・。

*1:例えば、私的複製の範囲や私的録音録画補償金の見直しを巡る議論にしても、これまでの流れとはだいぶ状況が変わってくるような気がする。

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