ロンドンで浮き彫りになった明暗(前編)

ロンドンでの五輪も、あっという間に前半戦が終わり、既に競技団体ごとの明暗が鮮明に分かれつつある。

全体としてみれば、期待の球技系は軒並み予想以上の戦績を挙げているし、これまでそそくさと大会を後にせざるを得なかったような競技(アーチェリーとかバドミントン等々)でも、あれよあれよと勝ち進んでメダルに手が届く、というパターンが目立つだけに、関係者にとっては思い出深い五輪になりそうな状況なのだが、特に、最初の個人種目からメダルラッシュに沸き、最後のメドレーリレーでも想定外の銀・銅を勝ち取った競泳陣にとっては、実に素晴らしい大会だった、ということになるのだろう。

だが、逆の意味でツライことになりそうなのが、言わずもがな「柔道」。

今思えば、ちょうど4年前にも、前半戦が終わったあたりで、競泳と柔道を見比べながらのエントリーを残していた*1
今回も多少の違いこそあれ、大きな流れは変わっていない。だが、今当時のエントリーを見返してみると、「敗北」への評価が、この4年で大きく変わってしまったことを感じさせられる。


4年前、結果を残せなかった柔道陣(特に男子)に対して、メディアでの関係者の論調は厳しかった。
特に、山口香・筑波大大学院准教授のコラムでは、

「ここで肝に銘じてほしいのは19歳だとか、「初出場だから」というのを言い訳にしないこと。内柴も4年前は初出場だったが、ちゃんと金メダルを取っている。初出場だから勝てなかったのではなく、実力がなかったと受け止めないと、ここからの4年も無為になる。」
「男子の戦いについて他の関係者とも話したことだが、五輪に出るだけの準備を本当に積んだのかと言いたくなる。突き詰めれば、監督やコーチが選手を甘やかしていないかということ。」
「今回の敗北が持つ意味は大きい。日本柔道は瀬戸際に立たされた。4年後のロンドンは大変なことになるという危機感を抱いている。全階級で出場枠を取ることさえままならなくなるだろう。」
「今回の不振を反省するとき、日本が言ってはいけないことが幾つかある。「組ませてもらえなかった」「外国のJUDOにやられた」「五輪は怖い、何が起こるか分からない」。今までそうやって自分たちの都合のいいように解釈してきたツケがここにきて回ってきている。世界の柔道から取り残されかけている。」(日本経済新聞2008年8月15日付夕刊)

と、かなり手厳しい批判が掲載されていたのは、当時紹介したとおりである。

しかし、4年後、同じ、山口准教授のコメントは、大きく変わった。

「(銅メダルの上野、5位に終わった福見選手に対し)2日とも全盛期なら勝てただろう。いい時期に五輪に出られない巡り合わせの悪さには切ない思いを抱かざるを得ない
「ただ、少しでも不運を避ける方法はある。日本選手は20代後半のベテランになっても試合に出続ける。(略)結果、4年に1度の舞台にたどりついた時には海外勢に研究されつくし、体はぼろぼろになっている。」
「『この階級は他にいない』という上野のようなベテランにはじっくり調整させてもいいのではないか。」日本経済新聞2012年8月2日付け朝刊・第35面)

ここで名前が挙がった選手は、初出場、といっても、前回、前々回に五輪に出ていても不思議ではない選手たちだし、山口氏自身が思い入れの深い女子選手、という要素があるのは事実だとしても、4年前とは一変した“優しさ”がここにはある。

さらに、今回の五輪で一貫して柔道を伝えてきた日経紙の阿刀田記者による敗因分析でも、

「大小の国際試合に皆勤してくたびれたランク1位の優等生が、一獲千金の余力を蓄えた勝負師に出し抜かれている。『試合があれば出場すべし。出れば勝つべし』の日本は、まさしく出し抜かれた優等生だった。五輪の金に最上の価値を置くのなら、カレンダーを一度白紙に戻し、国内外の試合の優先順位を整理したい。」
日本経済新聞2012年8月5日付け朝刊・第32面)

と、選手個々の力量よりも、むしろ“チーム”としての方針に疑義を呈する論調がメインになっている*2

これが、世界柔道などでは、まだ“平時の実力”を示せていた4年前と、“平時”でも伝統国としての矜持を示せなくなった今との差はもちろんあるし、そういった流れを踏まえて、今回の五輪の悲劇的な結末*3を見れば、↑のようなコメントになるのもやむを得ないのかもしれないが、かつて、銀メダルでもボコボコに批判された時代があったことを考えると、何とも隔世の感がある*4

むしろ、どんなに非情と言われようが、「選考会一発勝負」、「勝負できる選手だけを連れていく」という方針をシドニー五輪以来徹底し続け、その結果、一昔前では考えられないような好成績を収めた競泳陣の方が、今や「金メダルが取れなくて残念」という感覚になっている*5あたりに、この4年間の間に付いた大きな「差」を感じざるを得ない。

そして、そんな“明暗”ゆえ、どんな分野においても「長期的戦略」がいかに重要か、ということを、しみじみと感じさせられるのである*6

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080816/1218994547

*2:もちろん、男子重量級については痛烈に「力不足」を批判したりもしているのだが。

*3:特に、数少ない日本の牙城だった女子軽量級での2日続けての痛恨の敗北・・・。

*4:昔、散々批判された小川直也選手なんて、今だったら「堂々の銀メダリスト」として、称賛されても不思議ではない(苦笑)。もしそうなっていたとしたら、随分と今の柔道界の光景も変わっていたことだろう。

*5:競技人口や国際的な選手層の厚さを考えれば、日本勢がメダルを取ることが柔道以上に難しい競技であるにもかかわらず。

*6:もちろん、時代はちょっとしたことで動くから、4年後、8年後には、また状況が逆転している可能性はあるのだれど、競泳もアトランタの“世紀の大惨敗”から、これだけのコンスタントな活躍ができるようになるまでに2大会、3大会のプロセスを踏んでいるわけで、柔道もそう簡単には行かないだろうなぁ・・・と思う。