最後の最後で見せた世界女王の真骨頂。

2011年W杯決勝の再戦となった、ロンドン五輪女子サッカーの決勝戦
メディアがどんなに煽っても、今年に入ってからの戦いぶりや、グループリーグからトーナメントに入ってからの“なでしこ”JAPANの戦いぶりを見る限り、勝ち負けはともかく、大して面白い試合にはならないだろう、というのが自分の見立てだったのだが、幸いなことに、その予想はいい意味で裏切られた。

悪いリズムから先制点を奪われた最初の10分弱こそ、米国にペースを握られていたものの、その後は、左サイドから切り込む川澄選手に、巧さ・速さで勝負する大野選手と、盤石なフィジカルで勝負する大儀見選手が絡み、米国DFを完全に翻弄する時間帯が続く。宮間選手のFKも、相変わらずの職人芸で、常にゴールの匂いが漂う展開。
相手GK、ホープ・ソロ選手の再三にわたる好守、好判断がなければ、前半のうちに2,3点取り返していても不思議ではなかっただろう。

惜しむらくは、後半開始早々の一瞬の縦速攻で、2点を追いかける展開になってしまった上に、後半に入ってからの田中選手、岩渕選手といった若手選手の投入が必ずしも十分には機能しなかったことで、加えて、1年前に比べると、澤選手の運動量&パスの正確さに冴えが見られなかったこともあり、W杯決勝戦のような徳俵からの巻き返しは果たせなかった。

だが、それでも、澤選手のゴール前での再三のシュートを大儀見選手が押し込んで1点返した“怒涛の2人攻撃“には迫力があったし、十分機能しないながらも、懸命に相手の隙を狙っていた岩渕選手が相手ゴール前でボールを奪って1対1の状況を作り出す、という素晴らしい見せ場も生まれた*1

そして、終わってみれば、ボール支配率は約60%に達する勢い。

1年前の対戦では、PK合戦の末に勝利を掴んだとはいえ、120分の試合の中では、米国代表に終始ペースを握られ、日本がゴールへの危険な香りを感じさせるシーンは決して多くなく、どんなに贔屓目に見ても、「横綱相撲を取ろうとしていた米国の一瞬のほころびを突いて同点に追い付き、運を味方に付けて勝ち切った」という表現がふさわしかったこを考えると、たった1年なのに、隔世の感はある。

「元世界女王 対 現世界女王」というがっぷり四つの対等な構図。
初の「銀メダル」という結果もさることながら、日本女子サッカーが米国と互角に、堂々と世界の大舞台で渡り合える・・・そのことを証明できただけで、今回の決勝戦には十分過ぎるほどの価値はあった。

・・・で、最後の最後でこういう試合を見てしまうと、これまでのブラジル戦だのフランス戦だのは、一体なんだったのだろう、と思ってしまうわけだが、この点について、日経紙に興味深いコメントが掲載されていた。

「ブラジル戦、フランス戦は負けてもおかしくなかったのに勝った。うまい方が勝つんじゃないんだな、とあらためて感じた」(MF阪口選手のコメント)*2

まぁ、実際にフィールドでプレーしている選手自身がこういう感想を抱くのだから、テレビの前で見ているだけの我々に、“なでしこに何が起きたのか”なんてことが、理解できるはずもない。

もしかしたら、W杯での経験を通じて、「大会の最終日まで勝ち残ることを念頭に置いたペース配分」を日本女子代表の各選手たちは、無意識のうちに行っていたのかもしれないし、そうだとすれば、“なでしこ”JAPANは、日本代表の歴史にかつてなかったような成熟したチーム、ということになるのだろうが・・・。

この五輪が終わった後、既に事実上引退を表明している澤選手をはじめ、多くの選手が代表から去って行くことになる。そして、そういった世代交代を経て、出来上がった新しいチームが、次回のW杯、そしてリオの地での戦いに挑むことになることだろう。

4年後、そしてさらにその先に続いていく日本の女子サッカーの歴史の中で、銀メダルを取った2012年の代表チームがどのような評価を受けることになるのか、今から興味深々といったところである。

*1:残念ながらシュートそのものははじかれてしまったものの、あの状況でパスで逃げずに、きちんとシュートまで持って行ったことで、彼女は、自らに一流になれる素地があることを世界に向けて証明できたのではないか、と思う。

*2:日本経済新聞2012年8月10日付け夕刊・第12面。

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