“群れない美徳”を忘れるなかれ。

最近、いろいろと変な動きを目にして気になってはいたのだが、やっぱり・・・と言いたくなるような、(OBとしては)衝撃的な記事が日経紙に掲載された*1

見出しは、

「結束強める東大卒」

まぁ、個人的には、(笑)を10個くらい付けてもいいですか・・・って言いたくなる。

別に、自分とて、大学というフィールドでそれなりの活動実績は残してきたつもりだし、同じ時代に同じところでメシを食っていた人間と、旧交を温め合うこと自体の意義は否定しない。

だが、「卒業生だけが議論するカフェ」とか、「『卒業生』起業家を招いたベンチャースクエア」、といったような「東大卒」の括りだけで何かをしようとする動きはいかがなものだろう?

記事の中では、

「卒業生が様々な形で大学との関わりを持ち、新しい視点を持ったり、人脈を築いたりできるようにする狙いがある。大学としては卒業生に生涯教育などで提供できるメニューを充実させ、それを基盤に母校意識を養っていく。」

などとも書かれているけど、正直余計なお世話。

「東大卒が時代に対応していない」ということを前提に、

「講義の開放などで卒業生をレベルアップし国の活性化につなげる工夫が欠かせない」

等々、決して的を射ているとは思えない論調で「解説」を加える編集委員のコメントと合わせて、「劣化した卒業生を、時代の最先端を行っている大学がフォローする」かのような、おめでたいムードには正直辟易させられる*2


「東大卒」という“ブランド”、というかレッテルは、持っていない者が思うほど良いものではない。

能力が高い、というのは当然の前提になっているから、どんな組織でも、「結果を出して当たり前」だし、結果を出せなければ散々に揶揄される。

大学名だけで、人格的に高い評価を受けることはありえない。むしろ、それを前に出すと、変な先入観を持たれてしまうから、多くのOB・OGは、普通に初対面の人間と話す時に、自分から出身大学の話を切り出すことなどしない。

そして、何より、どこに行っても少数派だ。

私大勢は絶対的な人数が多いから、例えば同期で並べば、数としては早慶だのマーチだのの方が圧倒的に多くなるし、社宅だのマンションの住民で集まってもまた然り・・・である。


でも、どんなに自分が背負っているモノが「重い」、と思っても、自分が4年間その大学にいた、という事実を変えられるはずもないから、与えられた仕事で出来る限りの能力を発揮し、対人関係でも細心の配慮をし、目立たず、さりげなく存在感を示す・・・。

今、社会的に高い地位にある「東大卒」の人々(特に「民」で活躍している人々)っていうのは、そうやって自分達の社会的地位を築き上げてきたわけで、皆、自分で道を切り開いてきた、という自負も強い。

それゆえ、同窓の人間同士で群れない、つるまない、というのも、ある種当然の帰結だといえる*3

別に大学に帰属意識を持ったところで、人生で得になることがそんなにあるわけじゃない。
ならば、そんな意識を忘れて、群れずに、少しでも自分のいる環境で全力を発揮してやろう・・・という思いの方が、市井で生きる「東大卒」のマインドとしてはむしろ自然だし、それが一種の美徳でもあるわけで。

だから、そういうのと全く無縁のところで生きている「大学の中の人たち」から、「帰属意識を!」なんて呼びかけられても、個人的にはしらけるばかりだし、“群れない美徳”を忘れ、同窓で固まることに美意識を感じるような、閉鎖的感情を持つOB・OGが世にあふれるようなことになったら、それこそ世も末、だと自分は思う*4


なお、大学に本気で、「知」を開放したり、在学生を鍛える機会を設ける気があるなら、それはそれで大いに結構なことだし、寄附を集めるためのスキームを作る、というのも当然の営業努力の範疇だと思うけど、その対象を「卒業生」だけにする必要は全くないわけで*5、その辺りも、自分がこの記事に違和感を抱いた一因かもしれない。

もちろん、その辺は、記事の取り上げ方にバイアスがかかっていただけで、実際にはもっといろいろな取り組みはしているんだろうと思うけど。

*1:日本経済新聞2012年8月16日付け朝刊・第23面。

*2:日経紙は、別の文脈では「世の中の実務から乖離した大学」を批判することも多いのに、こういう時だけは、大学を持ちあげるのはいかがなものか。

*3:東大を出ると「学閥」で優位になるんじゃないか、と勘違いしている人は多いのだけれど、多くの民間企業では、「三田閥」だの「白門閥」だのはあっても、「赤門」で、人事にも影響するような「閥」が出来ることは稀ではないかと思う。物凄い勢いで出世する人もいる反面、平均よりも一回り、二回り出世が遅れる人も出てくるのが「東大卒」の悲しい性で、その背景には、(本人のパーソナリティもさることながら)「後輩だろうが『同じ大学』ってだけでは、引き立ててやらない」という上の方の強い意思が感じられることも多い。

*4:ちなみに、まだ「組織化」なんて話が出てきそうもなかった学部の時はともかく、その後のタイミングでは、出る時に独法化になるかならないか、という話も出ていたから、出てからしばらくは「お手紙」も来ていたのだが、引っ越したタイミングでパタリと連絡が来なくなってしまった(メール便なんて使ってるから・・・)。「卒業生の65%を把握するのが目標」というが、この辺りの淡泊さは、本気度を疑わせる(笑)。

*5:現に、広く受講生を集めるセミナーを開いて、寄付金を集めるような企画を行っている大学だってある。

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